低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 36
「不潔って・・・」
「だってそうじゃないですか!クラウゼ少佐とホテルに入った所を菰田曹長が見たって噂ですよ!」
「は?」
誠は呆れるしかなかった。菰田邦弘主計曹長。管理部門の経理部主任の事務方の取りまとめ役として知られる先輩だが、彼は誠の苦手な人物だった。ともかく彼の率いる誠の上官カウラ・ベルガー大尉の平らな胸を褒めたたえる団体『ヒンヌー教』の教祖を務めていて部隊に多くの支持者を抱えていた。
カウラも明らかに迷惑に思っているが、それを利用して楽しむのが運行部のアイシャ・クラウゼ少佐の日常だった。間違いなくでっち上げたのはアイシャ。そしてそれに乗って騒いでいるのが菰田であることはすぐに分かった。
「あのさあ。そんなこと信じてるの?」
体を拭き終えてパンツをはき終えたアンに尋ねてみる。そのままズボンを履くと気が付いたように誠に顔を向けた。
「そうですよね。そんなことやる甲斐性は先輩には無いですからね」
「甲斐性が無いってのは余計だよ」
そこでにやりと笑うアン。誠もしばらくは笑顔を向けていたが、そのアンの表情が次第に真顔に変わるのを見て目をそらした。
「本当に僕のこと嫌いなんですね」
悲しそうにそう言うとアンはワイシャツのボタンをはめ始める。
沈黙。これもまた誠に重く圧し掛かった。
『早く来てくださいよ!西園寺さん!』
心の中で願う。一秒が一時間にも感じるような緊張が誠に圧し掛かる。そんな彼に熱い視線を投げて着替えているアン。
「おーいこれ!」
引き戸が開き要が誠の勤務服を投げてきた。
「有難うございます!」
「はあ?濡れちゃったみたいだけどいいのか?」
誠は要の到着を確認すると涙を流さんばかりに自分のシャツに手を伸ばした。
「まあいいか。アン!楓が探してたぞ!」
「ああ、すいません」
着替えの終わったアンは要の言葉にはじかれるようにして飛び出していった。




