第33話 弟、犯人を見て驚く
俺はどこまで運ばれるのだろうか。
馬車に乗ったわけではないため、そんなに遠くは行ってないだろう。
人間の足なら限度があるからな。
「おい、運ぶのはここで良いんだよな?」
「ああ、目隠しした状態で縛っておけって言ってたぞ」
俺はその場で下ろされると、手足を縛られた状態で扉が閉められた。
「んー、これってやばいかな」
俺を誘拐した人達は依頼されただけなんだろう。
それなら誘拐を企てた人物が他にいることになる。
引き渡される間に俺は逃げないといけないってことだ。
少しずつ体を動かして壁際を探っていく。
まずは視界をどうにかしないといけない。
ただ、俺の鈍臭い体はそれをさせてくれないようだ。
立った瞬間に俺はふらついて転んでしまった。
――ドンッ!
大きな音が空間に広がっていく。
音の跳ね返りからして大きい部屋ではないことは確かだ。
「助けてください!」
声をあげるが誰にも届かないのか反応がない。
しばらく助けを求めていると、扉の音が開く音が聞こえてきた。
「ははは、誘拐は成功したようだな」
男性の声が聞こえてきた。
きっと俺を令嬢と間違えている人物だろう。
「ぼ――」
「おっと話すんじゃないぞ! 騒いだら死ぬのはお前だからな」
俺が女性じゃないことを伝えれば解決すると思ったが、そうはいかなかった。
首に何かナイフみたいなのを当てられていた。
「これで俺達の依頼は終わったよな?」
「だったら早く金をくれ!」
誘拐した犯人はこの男を呼びにいくためにいなくなっただけだった。
三人対子ども一人だとどうしようもない。
「まず本人か確認が必要だ」
俺の視界が少しずつ明るくなっていく。
視界を奪っていた布が外されたようだ。
「えっ……お前は誰だ」
いやいや、それはこっちのセリフだ。
それにこいつら全員顔がない。
いや、顔がないって言ったらどこかのホラー映画にしか聞こえないだろう。
正確にいえば顔が暗くなって見えないのだ。
周囲は照らされているのに、顔が暗くて全く見えない。
まるでモブのような……。
「おい、これはどういうことだ。俺が誘拐してこいって言ったのはモンブ令嬢のはずだ」
「えっ、モブ伯爵様はキラキラした可愛い子を連れて来いと」
「こいつのどこがキラキラした可愛い令嬢なんだ!」
おいおい、モンブ令嬢ってきっとモブの令嬢だろう。
それにこの男ははっきりとモブ伯爵様と呼ばれている。
この世界のモブには顔はないが、それだとのっぺらぼうに見えるため暗くて見えない仕様になっていそうだ。
「どこからどう見てもブサイクじゃないか!」
「はぁん!?」
ついつい俺は声を出してしまった。
どこからどう見ても、俺はゆるふわキュルルン系カシューナッツで可愛い少年だ。
ひょっとしたらその辺の令嬢よりも可愛いのではないかと思っている。
それなのにブサイクと言われたら、声を上げずに何を上げるんだ。
俺の股間には勃ちもしないカシューナッツしかないんだぞ!
「おい、さっき黙れって言ったよな」
「うっ……」
俺は急いで口を閉じる。
そういえば、首元にナイフを当てられていたのを忘れていた。
「こんなブサイクはすぐに殺せば良い」
「ほぉ、世界一可愛い我が子をブサイクと呼ぶお前はよほどカッコいいようだな」
「お前は……ダークウッド公爵!」
「正解だ。モブ伯爵」
父は俺の目の前で男に剣を突き刺した。
返り血で赤く染まる父は、やっぱり悪役のようだ。
ただ、俺にとってはヒーローだった。
「どっ……どうしたら破滅フラグが折れるんだ……」
ゆるふわキュルルンのカシューナッツが助けを求めているようだ。
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