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引きこもり令嬢はやり直しの人生で騎士を目指す  作者: 天瀬 澪


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21.恋と夜会①


 アイラは病室のベッドの上で、にこにこと話を聞いていた。



「……それで、アイラが気を失ったあとでも、皆わいわい喜び合ってさぁ。妹たちなんか、アイラお姉ちゃんは女神さまだったんだね!とか言い出して…」


「……デレクのお母さんが、本当にアイラちゃんは恋人じゃないの?もう恋人になってもらいなさい!ってすごい気迫で言ってたよねぇ〜」


「ちょ、ギルバルト先輩!」


「ギルバルト、あんまりデレクをからかったら可哀想だよ?一度振られたのに母親に頼まれてまた告白するなんて…」


「フィン副団長はなんでそこでニヤニヤするんですか!……ていうかあれは告白じゃないですからー!」



 ぎゃあぎゃあと騒ぐデレク、けらけらと笑うギルバルト、ニヤニヤと笑みを浮かべるフィン。

 そして、そんな三人をうんざりといった顔で見ているリアムが、アイラに向かって口を開いた。



「……ここ、病室だよね?騒がしすぎない?」


「他に患者さんはいないみたいだから、今は貸し切りよ。医務官の方は別の所にいるし…」


「それで、どうして君は気味悪いくらいにずっと微笑んでるの?」



 リアムに指摘され、アイラは両頬に手を添えた。



「えっ、気味悪いかしら?」


「うん」



 さらりと肯定したリアムは、未だに騒いでいる三人を見て眉を寄せる。



「……ちょっと、デレク。先輩と副団長も。これ以上うるさくするならさっさと戻ってください」


「あはは、怒られたよデレク」


「本当だねぇ。さぁ、先に戻っていいよデレク」


「なんで俺だけ!?」


「はいはい、またねデレク。で、どうして?」



 酷い扱いにがっくりと肩を落とすデレクを無視して、リアムが再度アイラに問い掛ける。

 アイラはふふ、と笑った。



「だって、嬉しいの」



 アイラの言葉に、皆の視線が向く。先ほどとは打って変わって、病室は静まり返っている。



「こうやって、心配してもらえて嬉しいの。……あ、もちろん心配かけるのは良くないことだけど…!」


「何言ってるの。心配するのは当たり前だろう?仲間なんだから」



 フィンが腕を組みながらそう言った。それに賛同するように、デレクが「そうだぞアイラ」と笑った。



「俺はいくらでも心配するけど、同じように頼ってほしい!」


「そうだね〜。アイラちゃんは魔術も使えるから何でも出来ちゃいそうだけど、オレたちがいるってことも覚えていてね」



 ギルバルトが自身のこめかみをトントンと人差し指で叩いた。そのあとに、リアムがため息を吐いてアイラを見る。



「……それなら、僕は君が無茶しないように見張っておくとするよ」


「お、そうしよ。リアムはアイラ監視係で。なんてったって台風の目に飛び込んじゃうお嬢さまだからね」



 フィンがそう言って笑う。皆の言葉を、アイラは嬉しそうに聞いていた。

 こんなにも味方がいてくれていると思うだけで、何にでも打ち勝てそうな気さえしてくる。



 ランツ村の火事を目の前にして、アイラは恐怖に支配されそうになった。

 そして、何とか自身を奮い立たせ、今度は一人で立ち向かおうとした。

 けれど、頼ってほしいと言ってくれる仲間がたくさんいる。騎士の道は、こんなにも恵まれているのだ。

 これからは、もう一人で無茶をすることはやめようと、アイラは心に誓う。



 ―――エルヴィス団長にも、たくさん迷惑をかけてしまったわ…。



 思い出すのは、エルヴィスの心地良い魔力と、優しい手の温もりだった。

 何だか顔が熱くなり、パタパタと片手で扇ぎ始めたアイラを見て、ギルバルトが唐突に言った。



「んで、アイラちゃんとエルヴィス団長ってどういう関係なの?」


「………えっ!?」



 ちょうどエルヴィスのことを考えていたアイラは、大げさに反応してしまった。

 それがいけなかったのか、デレクが目を白黒させている。



「ア、アイラと…エルヴィス団長?かかか関係??どういう??」


「落ち着いてデレク。でも、俺も気になるなぁ。堅物の団長がやけにアイラを気にかけてるように見えるし」



 二回も団長が自分で助けに駆けつけてるし、とフィンが顎に手を添えて言った。

 アイラはどう答えていいか分からずに狼狽える。



「か、関係もなにも、私はただの新人騎士です。エルヴィス団長は、その、とても尊敬できる団長で…」



 気にかけてもらえているのだとしたら、それは新人騎士で、まだまだ頼りないからだろうか。それとも、補助魔術に興味があるのだろうか。

 アイラがぐるぐると思考を巡らせていると、ギルバルトが「ふぅん?」と意味ありげに声を漏らす。



「アイラちゃんの方は、ただの騎士団長としか思ってないってことね〜。でも、団長はどうなんだろうね?」


「……あそこまで整った容姿なら、誰か懇意な間柄の女性とかいるんじゃないですか?」



 リアムの何気ない問いに、アイラの胸がちくんと痛む。同時に、エルヴィスの艷やかな黒髪と紅蓮の瞳を思い浮かべた。



「それがね、団長が女性と話してるところは仕事以外で見たことないんだよなぁ。それにほら、あの人は纏うオーラが強いだろう?女性の方も迂闊に近寄れないみたいでね」



 フィンが唸りながら、「俺が思うに、団長は女性経験が乏しい」と何とも不敬な発言をする。



「え〜、勿体ないですね。あの顔なら選び放題なのに」


「ともかく、団長はお前みたいに女性なら誰でも良い顔をする男じゃないってことさ、ギルバルト」


「やだなぁ。副団長だってたくさんの女性をたぶらかしているじゃないですか」


「たぶらかしてるんじゃなくて、利用してるんだよ」


「……その答えはどうなんです?」



 フィンとギルバルトのやり取りに、新人三人は口を挟めずにいた。


 デレクは未だにショックを引きずっており、半開きの口から「アイラと…エルヴィス団長…」と聞こえてくる。

 リアムは途中で興味を無くしたのか、窓の外に視線を向けている。

 そしてアイラは、何とも言えない顔でフィンとギルバルトの会話を聞いていた。



「……ま、だから団長がアイラに自分から関わるのが珍しく見えるんだよなー」


「ですよねぇ。これはあれかな〜、落ちちゃった系かな〜」


「……落ちちゃった系、ですか?」



 アイラが眉を寄せると、フィンとギルバルトが揃ってニヤリと笑った。



「そう。落ちちゃったのかもね」


「恋に、ね〜」


「………………………恋」



 ポツリと呟いたアイラは、その数秒後、「もう、からかわないでくださいっ!」という悲鳴に近い声で叫んだのだった。






◇◇◇



 ランツ村での出来事から、早くも三ヶ月が経った。


 騎士団の一員としての生活に慣れ、アイラは毎日楽しく過ごしていた。

 日中は仲間と共に訓練や任務をこなし、当番のときは宿舎に帰ってから掃除や洗濯などの雑用をする。

 寝る前はカレンとおしゃべりに花を咲かせ、疲れてぐっすりと眠るのだ。


 月に数回ある休みの日には、デレクやリアムと城下街に出掛けていた。

 穴場の美味しい飯屋を探すのが最近の楽しみだ。



 今日の休みも、アイラは二人と共に城下街に来ている。

 デレクが先輩から教えてもらったという店で、昼食を食べている最中だった。



「アイラ、どうした?何か上の空だけど」



 口元についたソースを舌でぺろりと舐め、デレクが心配そうな視線を向けてきた。

 アイラが両手にサンドイッチを持ち、しばらくぼうっとしていたからだ。



「あ……、ごめんね」


「いや、謝ってほしいわけじゃなくて。どうした?」


「一人で悩んでないで、早く話しなよ」



 アイラはデレクとリアムを交互に見ると、こくりと頷いてから重い口を開いた。



「……実は、夜会に参加することになったの」


「夜会??」



 平民のデレクには聞き馴染みのない言葉だったようで、眉を寄せていた。

 一方、伯爵家の四男であるリアムは「どこの?」と訊いてきた。



「……ウェルバー侯爵家の…」


「ああ。嫁探しか」



 アイラが答えると、リアムは何故アイラが憂鬱そうにしているのか瞬時に理解したようだ。

 デレクは衝撃を受けたように固まっている。



「……よ、よめ…?」


「貴族界では有名な話だよ。そこの令息がとんでもない男で、結婚したいと言ってくれる令嬢が見つからず、手当たり次第に夜会に誘って嫁候補を探してるっていうね」



 リアムが肩を竦めてデレクに説明すると、その口はまだポカンと開いている。

 アイラは手元のサンドイッチをじっと見つめていた。


 ウェルバー侯爵家の夜会には、魔術学校に通っていた時も何度も招待があったが、何かと理由をつけては断っていた。

 幼い頃にお茶会に参加したのが最初で最後であるが、そのときアイラはその令息に酷いことを言われた記憶しか残っていない。


 そして今回は、騎士となって宿舎に入っているアイラに招待などくるはずが無いと思っていたが、先日両親から手紙が届いたのだった。


 先方も令息の嫁探しに必死らしく、かなりの圧がかかった招待状だったようだ。

 両親から顔を出すだけでもお願いしたいと言われれば、アイラは今までの恩返しをしなければと、了承の返事を送ったのだ。

 それでも、憂鬱な気持ちは変わらない。

 


「他の夜会だったら、僕のところにも招待状が届いてると思うけど…あそこの侯爵家からは届いたこと無いね。招待されてるのは令嬢ばかりだろうね」


「……それも心配のうちの一つなのよね」


「令嬢ばかりなのが?」


「そう。私…夜会はほとんど断ってたから、ご令嬢のお友だちがいなくて…」



 自分で言いながら、アイラは傷ついていた。

 魔術学校のときの同性の友だちはトリシアだけだったし、今回の人生ではカレンしかいないのだ。


 しょんぼりと眉を下げるアイラに、リアムが追い打ちをかけるように言う。



「君は騎士になってるし、他の令嬢からの風当たりは強そうだよね」


「うう…言わないで…」



 キリキリと胃が痛くなってきたアイラは、一口も食べていないサンドイッチを皿に戻す。

 隣に座っているデレクが、ようやく体を動かせるようになったのか頭を抱えた。



「あ゙〜…こんなとき俺は無力なんだよな…。平民だし、男だし…」


「女装でもして参加してみたら?」


「おいリアム。それは色々と無理があるぞ」



 デレクの女装姿を想像したアイラは、つい笑ってしまった。

 その様子を見て、リアムとデレクがホッとしたように顔を見合わせたことに、アイラは気付かない。



「……夜会はいつなの?」


「ええと、ちょうど一か月後よ。休みの日の朝に迎えの馬車が来てくれるから、それで帰るわ」


「じゃあ、その日は僕とデレクで見送るよ」


「おう!気合い入れて送り出すぞ!」


「ふふ。ありがとう、二人とも」



 すっかりと心が軽くなったアイラは、再びサンドイッチに手を伸ばすとぱくりと頬張った。





◇◇◇


 そして、一か月後。

 見送りに来てくれたデレクとリアムに笑って手を振り、アイラは馬車に乗り込んだ。



 しばらく馬車に揺られ景色を眺めていると、無事邸宅に到着する。

 アイラは少なめにまとめた荷物を馬車から降ろし、御者にお礼を言ってから足早に玄関へ向かった。

 すると、ちょうどよく扉が開かれる。



「……アイラ!」


「クライドお兄さま!」



 アイラは顔を輝かせ、出迎えてくれた兄の腕の中に飛び込む。クライドは、そんなアイラの頭を嬉しそうに撫でた。



「おかえり。父さまも母さまも、中で楽しみに待っているよ」


「はい……!」



 クライドに促され中に入ると、父のラザールと母のセシリア、それに侍女のベラの姿があった。

 アイラはそれぞれにぎゅうっと抱きつく。



「おかえり、アイラ。少したくましくなったか?」


「そうね。顔付きが変わった気がするわ。凛々しくて可愛いわよ」


「お父さま、お母さま、本当ですか?嬉しいです」



 両親の言葉に喜んでいると、侍女のベラがずずっと鼻を啜った。



「……おかえりなさいませ、アイラお嬢さま」


「ええ、ただいまベラ。もう、どうして泣いているのよ」



 そう言いながら、アイラもじわりと目頭が熱くなる。約半年ぶりの帰宅だった。


 日帰りで帰ろうと思えばいつでも帰れたのだが、会えば両親に甘えてしまう気がして、アイラは見習い騎士として成長するまで帰らないと決めていたのだ。

 それが、今回夜会に出席するという形で帰ることになってしまった。それでもアイラは、心から帰ってきて良かったと思った。



「では、さっそく準備にとりかかりましょうお嬢さま!まずは全身ぴっかぴかに磨きますよっ!」



 ベラは乱暴に目尻を拭い、アイラの手を引いた。久しぶりにアイラを着飾れることが相当嬉しいようだ。

 アイラは両親とクライドにまたあとで、と言って夜会の準備に取り掛かった。






「……わあ。すごいわベラ」


「ふふふ、お嬢さまがお美しいのですよ」



 鏡に映る、久々に着飾った自分を見て、アイラは瞬きを繰り返した。


 蜂蜜色の艶のある髪は丁寧に纏められ、髪の短さが目立たないようになっている。

 少し濃い目の化粧で華やかさが足され、唇はふっくらツヤツヤだ。頬は薄く色付いている。


 両親が用意してくれた緋色のドレスから、綺麗に磨かれた腕がスラリと伸びていた。

 団服姿に慣れてしまっているため、肩や胸元があらわになっているドレス姿は何だか落ち着かない。

 耳元で、瞳と同じ瑠璃色のイヤリングが揺れる。



「お嬢さまのこのお姿を見せる殿方が、あのご令息だけというのが勿体ないですが…」



 頬に手を当て、ベラがため息を吐く。ウェルバー侯爵家の令息の評価は、ベラの中で低い位置にあるようだ。



「……どなたか、そのお姿を見せたい方はいらっしゃいませんか?」


「……ベラ。さてはお母さまの差し金ね?」



 アイラがじろりと睨むと、ベラは苦笑した。



「さすがですお嬢さま。奥さまは、騎士団で出会いがあったかとても気にされていましたよ」


「もう…騎士団では仲間に恵まれているけど、そういう相手は…」



 アイラはふと、紅蓮の瞳の持ち主を思い出す。そして慌てて頭を振った。

 が、ベラはそんなアイラの仕草を見逃さない。



「お嬢さま?もしや、どなたか気になるお相手が?」


「……気になると言えば、そうね。気になるけれど…恋とか、そういうものじゃ…」



 そこまで言って、アイラは以前の病室での会話を思い出してしまった。


『そう。落ちちゃったのかもね』

『恋に、ね〜』


 途端にアイラの顔が真っ赤に染まり、ベラがあらまあ、と口元に手を添えた。



「ふふふ、いつかお会いできることを楽しみにしていますね」


「ち、ちがっ…、ベラ〜…!」



 それから夜会の時間になるまで、アイラはベラの誤解を解こうと奮闘した。

 ベラは微笑ましいですねと言いたげな表情を浮かべ、そんなアイラを見て頷くだけだった。



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