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雪山幻草子

作者: うぇざー

 

 どこかに予兆はあったのだろう。

 それは、経験者だからといって1人で放り出されたことかもしれないし、あるいは、促した注意を笑って無視されたことかもしれない。

 なんにしろ、それがわかったとて雪に埋もれている現状をどうすることもできないのだから、考えるだけ時間の無駄だ。

 友人たちに誘われた雪山で、1人雪崩に巻き込まれる、なんて、ある意味貴重な体験を自分は今しているのだ。存分に楽しむしかない。若干ヤケになりながら、そんなことを考える。


 幸運なことに、顔の周りは空間があるのか、少し頭を動かすことができた。でも、埋もれた雪の中は真っ暗で、何も見ることは出来ない。

 これは、窒息するまでどれくらいもつかな。


「そんなところでなにをしているの?」


 自分ではもうどうすることもできないと思考に耽っていると、突然声が聞こえてきた。それは、鈴のように軽やかでいて、余韻を残さずすぐに消えてしまうような儚さをもった声だった。

 何も見えないと分かっていても、思わず声の元を探そうと首を回してしまう。けれど、自分の瞳はやはり何も映してくれなかった。


「なにかさがしているの?わたしがいっしょにさがしてあげる!」


 子どものような無邪気さで、その声は自分に話しかけ続けている。誰の声かもわからなかったけれど、何故か警戒心は湧いてこなかった。


「強いて言うなら、自分が助かる術を探してる、かな。」

「たすかるすべ?」

「そう。どうにもならない今を、どうにかする方法。」


 現実味のない声に、こちらもなんとなく謎かけのような曖昧な答えを返す。うーん、と声に出して考え始めるのが可愛らしくて、現状も忘れてほっこりしてしまう。


「ふふ、難しい?」

「うーん、むずかしい。でも、きっと、わたしがたすけてあげる!」

「本当?嬉しいな。」

「うん!だから、いまは、おやすみ。」

「え?」


 急に優しくなった声音に問い返しても、返事は返ってこなかった。代わりに、眠気が自分を襲う。一生の眠りになるかもしれないと理解しつつ、瞼を閉じた。


 次に目を覚ました時、自分は暖かい部屋のベッドで横になっていた。一緒に雪山に来た友人たちが横で涙に顔を濡らしている。曰く、何かに導かれるように友人が雪をほったところ、偶然そこに自分が埋まっていたらしい。


 友人を導いたのは、鈴のような子どもの声だったそうだ。

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