小さき者
『主は、気付いていなかったのか?』
「うん…全く気付いてなかったよ……」
ベラ様とミヤさんとお茶をしていた時に倒れてしまった翌日。私は今、元の大きさに戻っているネージュのお腹に背を預けて座っている。
『あーじのこのこも、まりょく、もってるの。あたたかいの。』
そう言って、ネロは私のお腹にスリスリと頬を擦り付ける。
そう。私が倒れた理由は──
妊娠による貧血のせいだった。お菓子や紅茶に苦味を感じたのも、悪阻の影響だそうだ。
『主は気付いている─と思っていた故…我からは言わなかったのだ…すまない。』
何故か、ネージュがシュンと項垂れる。そんなネージュも、やっぱり可愛いしかない。
「え?何でネージュが謝るの?ネージュは何も悪くないよ?寧ろ、ネージュのもふもふでお昼寝させてもらって、感謝しかないよ!ありがとう!!」
そう言いながら、更にネージュのもふもふを堪能していると
『ねろも、もふもふなのー』
と言って、いつもより少しだけ遠慮するように、ネロが私の足に顔を乗せて寝転んだ。
ーもふもふのサンドイッチ、最高です!ー
「それで?そろそろ、手紙を飛ばした方が良いのでは?」
“今日は休んで良い”と、ランバルトからの手紙を受け、エディオルは今、蒼の邸の執務室に居る。
勿論、ハルが妊娠した事は、ミヤとベラトリスから聞き、ランバルトとイリスとクレイルには既に報告されていた。
しかし──
「バート、準備は大丈夫なのか?」
「それを言い出すとキリがありませんからね。もう、どうにでもなれ!で頑張りますよ。」
昨日の今日と言う事もあるが、まだ、カルザインとパルヴァンには知らせていない。何故なら──どちら側もが蒼の邸に総出で突撃して来ると言う事が予想できるからである。
「それもそうだな。それに…悪い話ではなく、めでたい事…だしな…。よし、手紙を飛ばすか…。」
それから、俺はカルザインとパルヴァンと……リュウに手紙を飛ばした。
「また、ここで寝ていたのか。」
カルザインとパルヴァンとリュウに手紙を出した後、コトネの部屋に行くと「今はネージュの殿の所に居ます。」とリディに言われてやって来ると、ネージュとネロに挟まれて寝ていた。
「部屋でおとなしくしてくれてたらなぁ…」
昨日は貧血のせいか顔色も悪かったが、確かに、今は良くなっている。きっと、ネージュ殿やネロの側が落ち着くのだろう。それに、この2人が側に居れば危険な事も無い。寧ろ、ここは安全地帯だ。それにしても──
「俺と…コトネの…子供か……」
『既に、そこそこの魔力を持っているぞ。』
「え?」
ネージュ殿が目を開けて、コトネを起こさないようにだろう。声を出してではなく、直接頭の中に話し掛けて来た。
『主の子らしくそれなりの魔力を持っている。主の魔力を引き継いでいる故、暴走するような事もないと思う。』
ーまだ3ヶ月から4ヶ月と言っていなかったか?もう、魔力の事迄分かるのか?ー
『我ら魔獣は、魔力に関しては敏感─相手の魔力を見誤ると生死に関わる故、小さき者であろうがだいたいは判るのだ。』
ーなる程…え?ひょっとして…もう性別が判ったりするのか?ー
『ふむ─知りたいか?まぁ…それは主に訊いた方が良いかもしれぬな。我からは…言わないでおこう。』
「え!?コトネは…もう知っているのか!?」
思わず口に出した問い掛けには、もうネージュ殿は答えてはくれなかった。
ー本当に、コトネは…規格外の魔法使いなんだなー
それからは俺の予想通りで、コトネの妊娠の手紙を飛ばしたその日のうちに、ゼン殿とロンが蒼の邸にやって来た。因みに、ゼン殿が来るだろう─と予想したカルザイン側─ルイスとルーチェ─は、“行くのは数日は我慢する”と連絡があった。
「ハル、何か食べたい物…食べれそうな物はあるか?」
「貧血はもう大丈夫なのか?」
「ふふっ。お父さん、お兄さん、落ち着いてね?貧血は大丈夫だけど、食べ物に関しては、食べてみないと分からないの。」
「よし、じゃあ、今から色々作って来てあげるから。」
そう言って、ロンは急ぎ足で調理場へと向かった。
「貧血で倒れたと聞いたが…顔色も良くて安心した。そう言えば、ユイもロンがお腹に居た時は貧血気味だったな。食べ物に関しては、普通に食べれていたけどな。兎に角、安定期に入る迄は、絶対に無理はするなよ?」
「はい。無理はしません!」
コトネが握り拳を作ってグッとしながら答えると、ゼン殿はよしよしとコトネの頭を撫でた。
「ゼン殿、暫く…蒼の邸に滞在しますか?」
「ん?まさか、そんな事をエディオルから訊かれるとはなぁ…。」
俺の質問は本当に意外だったようで、ゼン殿が珍しく目をパチパチとさせている。
「そこ迄驚きますか?ゼン殿はハルの父親ですし、ロンの妊娠と出産を間近で見て来たでしょう?残念ながら、蒼の邸には、そう言う者が居ないので、ゼン殿がハルの近くに居てくれれば…安心なんですよ。あぁ、勿論、無理にとは言いませんよ?」
「はっ、断る理由は無いな。」
「なら、お願いします。」
と、2人はお互いニッコリ微笑みあった。
ーあれ?何だろう…微笑ましい舅と娘婿のやりとりな筈が…背中がゾクゾクするのは……気のせいですか?うん、気のせいだよね!?ー
と、思う事にしたハルだった。




