何で?
「何で?」
一体、今日だけで何回「何で?」と思っただろう?
今もまた、私はそう思いながら首を傾げた。
あれからディと手を繋いだまま蒼の邸に帰って来た。
荷物などは既にルナさんとリディさんが片付けてくれていて、特にする事がなくて時間があった為、改めてミヤさんにお礼の気持ちと王都に帰って来た報告の手紙を書いた。
王太子様も、今回は色々と配慮をしてくれたようなので、そのお礼も書いておいた。
「ランバルトには貸しがいっぱいあるから、礼なんていらない。」
とディには言われたけど、相手は王太子殿下だからね?
それからディと夕食を食べた後、今日は早目に休もう─と言う事になり、いつもより早い時間に入浴も済ませた。
ー「早目に休もう」って…言ったよね!?ー
なのに!
「何で!?」
と、もう一度口に出した時
「何が“何で?”なんだ?」
「ひゃいっ!!!」
ディの部屋へと続く、夫婦の部屋の扉が開いた。
「ディ!?コレ、違うの!お風呂から出て来たら…ルナさん達に着せられて───」
「いや?別に間違っては…無いだろう?」
「何で!?」
ー早目に休むんじゃなかったの!?ー
そう。ルナさん達に着せられたのは──
青色のスケスケだった。
私一人ワチャワチャしている間に、私の目の前迄やって来たディに両手で顔を包み込まれて、そのまま上へと向けさせられた。
「続きは、帰ってからだと言っただろう?」
「──────はい。」
「逃げません─とも…言ったよな?」
ーいや、それは、そう言う意味で言ったんじゃないからね?ー
「なら、問題無いな?」
ー問題無い事は無いよね?ディ次第だけどね!ー
むうっ──と、無言のまま睨みつけると
「それ、可愛いだけで煽ってるだけだからな?」
「あお─────っ」
顔を包み込まれたままで口を塞がれた。
最初は優しいキスも直ぐに深いものになって、そのままベットに押し倒された。
いつものようにディの手で翻弄されるけど、いつもよりは優しい。それに、時折「コトネ」と、私の存在を確かめるように瞳を覗いて来るディに、私の胸がキュッと痛みを訴える。
ー私は、ディを傷付けてしまったんだー
それでも、ディはまた、私を待っていてくれた。いや。私を捕らえてくれた。
ー愛おしいなぁー
「─コトネ?考え事か?余裕が…あるな?」
私に覆い被さったままで、少し顔を離した。
「考え事じゃなくて…その…やっぱりディが好き…だなって思っただ────」
「──くっそ…馬鹿コトネ!」
「バ───んっ!?」
それからは…うん。いつも通り…いや、以上の攻めを喰らいました。どんなにお願いしようが何を言おうが「煽ったコトネが悪い」と言われた。
ー何で!?煽ってないからね!?ー
何も考えられなくなった頭の中では、僅かに“何で?”と言う言葉だけが残っていたけど……やっぱり…最後はまた、気を失うように意識を手放した。
ー誰か、ディに“手加減”の意味を…教えて下さいー
*****
クタリ─と意識を失ったコトネを改めて抱きかかえて布団に潜り込む。
記憶が失くなっても、また俺に落とせば良いと思っていた。
記憶が戻ったと分かってはいたけど…不安だった。
今日は…久し振りだったし、コトネの存在を確かめたくて、ゆっくりと優しく─と思っていたのに──
『考え事じゃなくて…その…やっぱりディが好き…だなって思っただ────』
俺に組み敷かれて捕われているコトネに、そんな事を言われて手加減なんてできるか?できないだろう……。
「───ん………」
腕の中のコトネがもぞもぞと動いて─スリッと俺に擦り寄った後、寝ているのにも関わらずふにゃりと笑った。
「くっ───────」
思わず、コトネを抱いている腕にギュウッと力が入る。
「───ゔぅ……」
「────くっ…」
ー寝ているのにいちいち反応するコトネが……可愛い過ぎやしないか!?ー
落ち着こう──
それにしても、コトネが……パルヴァンの巫女の末裔で…ゼン殿の行方不明だった嫁の娘だったとは…本当に驚いた。それと同時に安心した。
コトネがパルヴァンの巫女の血を引き継いでいると言うなら、もうあっちの世界には還る事は無い─と言う事だ。
ゼン殿とロンからの過保護度合いが増しそうな気もするが……それは仕方無い。
あぁ…一番驚いたのは…ノアか…。
ノアは、とんでもない魔獣だったな。魔法使いのコトネが気付いていないと言う事は、そう言う事なんだろう。
『某国の危険分子は、潰しました。これで、ネージュも安心して過ごせますね。』
と、ニッコリ笑ったノアの事は忘れられないだろう。
ノアのお陰で、不安要素は綺麗に無くなったのは確かだ。
後は、本当に、コトネが何かに巻き込まれたり危険な目に遭うような事が無い事を祈るばかりだ。そう思いながら、腕の中で寝ているコトネを見る。ようやく、コトネが俺の腕の中に…帰って来た。
「コトネ……おかえり……」
そう囁いて、もう一度コトネをギュッと抱き込んで、俺はそのまま眠りに就いた。




