ゼンとリュウ
『勿論だ。これからも、ずっと…ハルは俺の娘だからな。』
ー良かった。これからも…ゼンさんが…私のお父さんー
「────ん…」
ーん?苦しい??ー
あれ?私、お父さんと話しをしていなかったっけ?
あれ?ひょっとして、話の途中で寝ちゃった!?
バチッ─と、自分でビックリして目を開けると──
「おはよう、コトネ。」
目の前に、同じ布団に入り、私をガッツリ抱え込んでニッコリ微笑むディが居た。
「ふぁいっ!?」
ビックリついでに、思わずディの胸に手を押し当てて距離を空けようと───してもできませんでした。
はい。ディはピクリとも動きませんでした。
ーディに勝てる訳ないよね!?ー
「おはよう…ございます。えっと…あの…どうなってますか?」
あれから、お父さんと2人で話しをして、これからも父娘でよろしく!ってなって…嬉しくてお父さんに抱きついて─そこからの記憶が無い。
「ん?見たままだな。コトネと一緒に寝ていた。」
「ひょっとして…寝落ちしましたか?」
「──らしいな。昨日、ゼン殿が……寝ているコトネを運んで来てくれたんだ。」
ーそれはそれは、苦虫を噛み潰したような顔をしながらー
と言う事は、コトネには言わないでおこう。
「あー…やってしまってたんですね。後で、謝罪?お礼?を言わなきゃですね。」
それは後にして…
それよりも──と思う。
ー恥ずかしいのは相変わらずだけど…やっぱりディの温もりは安心するなぁー
ディの服をギュッと握って、顔をスリスリと擦り付ける。
「───コトネ?」
「はい?」
名前を呼ばれて顔を上げると、ディは微笑んでいて…
ーあ、これ、ヤバいパターン!?何で!?ー
と思った時には…遅かった。ガッツリ抱え込まれたまま、一気に深いキスで攻められた。
息も絶え絶えで、ディの腕の中でグッタリしていると
「続きは蒼の邸に帰ってからだな。」
と、囁かれた。
*少し時を遡って─ハルが寝落ちした後の、グレンの執務室にて*
今ここには─グレン、ゼン、ロン、リュウ、擬人化したノアが居る。
「ノアがここに居るって事は、サリスの処分が決まった─と言う事か?」
「決まったと言うか、既に…処分は実行された。」
「──は?」
リュウの質問に、グレンがサラッと答える。
今回の件に関しては、ハルとネージュとパルヴァンが関わっていたから、サリスが一旦国王預かりとはなったが、最終的にはパルヴァンに渡されて処罰されるだろうと思っていた。それに、ネージュに関しては二度目だった。ノアが静かにだが─かなりキレていた事も知っていた。
俺が魔法使いだからこそ気付いた、ノアの魔力。
本人は“魔獣の端くれ”等と言っていたけど─とんでもない伏兵だと思った。
ノアは、先代達と比べて魔力が少ないだけで、本当は──“流石の天馬”なのだ。普段はうまく隠しているようだけど。
兎に角、ネージュが傷付きハルが記憶喪失。おまけにネロが泣いたとか─。
だから、きっとノアが何かしらサリスに仕掛けるだろうと思っていたけど…
「パルヴァンで…既に処罰を済ませたのか?早過ぎないか?」
「──ノアがな…一瞬だったんだ。」
「ノア?」
そのノアに視線を向けると、ノアはニッコリ微笑んだ後、サリスへの処罰を語り出した。
ーノアを怒らせてはいけないー
と言う事を心に留めておこう。
普段のノアは、物腰の柔らかい馬で、魔力も殆ど感じないのに。いや、感じさせないようにしているのか。
『危険分子は全て潰したので、もう、今回のような事は起こらないと思います。勿論、サリスも…時間の問題です。あぁ、リュウ様がサリスに会いに行っても…話はできないと思います。』
「───ソウカ…ワカッタ。」
『では、私はこれで失礼致します。』
ノアは、それはそれは男の俺でもドキッとするような綺麗な微笑みを浮かべた後、この部屋から出て行った。
「フェンリルのネージュが…選んだ相手…だったな…。」
きっと、ネージュもノアの本当の力は知らないだろう。それだけ、ノアの魔力が優れているのだ。
ただ、ネージュも、本能的にノアの力を理解しているからこそ、伴侶に選んだのだろうけど……。
「取り敢えず、今回の件は…コレで終わり─と言う事だな?」
「そうだ。」
ゼンは一呼吸置いた後
「お前はクズでも俺がお前を嫌いであっても、ハルはお前を信頼しているからな。だから、今日はお前も呼んだんだ。それと、魔力封じの枷も、今後も頼むぞ。」
「枷の事は言われなくても、これからも見つけ次第潰していく。アレは…本当に…ヤバかった……。」
ー転移後、王太子が俺に気付くのが遅かったら…本当に死んでたんじゃないんだろうか?ミヤ様には言わないけどー
それと、これは確認しておかないとな─と思い、改めてゼンに視線を合わせる。
「で?ハルがこっちの人間だったって事は…ゼンにとっては、嬉しい事なのか?愛する嫁と自分では無い男との娘だった訳だけど…」
これで“許せない”と言うなら、相手がゼンだろうと、俺はハルを守る為に動く。
「嬉しいに決まっているだろう。ユイが俺に残してくれた娘だからな。今迄以上に守っていくから、お前が心配する事はない。」
「ふっ─なら良かった。」
そりゃそうか。そんな理由で、ゼンがハルを嫌いになる事はないか。
「それじゃあ、俺もそろそろ隣国に帰るよ。」
ひらひらと手を振った後、俺は魔法陣を展開させて、隣国へと帰った。




