引き継ぐ者
「え?何?この面子は…何?俺…今から断罪されるの?」
転移魔法陣を使い、パルヴァン辺境地へとやって来たリュウが、既にサロンに集まっていたメンバーを見て、一瞬にして顔色を悪くさせた。
因みに、今サロンに居るのは─
グレン、シルヴィア、レオン、エディオル、ゼン、ロン、ハル、ネージュ、ルナ、リディ、ティモスである。
「断罪されるような事をしたのか?」
と、お父さんがニッコリ微笑みながらリュウに尋ねると
「俺はしていない!──が、切っ掛けを作ってしまったのは…俺だったからな…。」
「ふん。自覚はあったんだな。」
「ゼン、落ち着け。これでは話が進まないだろう?その話は後にして、どうして私達を集めたのか…教えてくれるか?」
そんな2人のやり取りに、呆れた様にグレン様が口を挟むと、「それもそうですね。」と、お父さんは素直に聞き入れて、リュウにも座るように言った後、“ユイ”の話を始めた。
「それでは……ハル殿が…ユイ殿の娘だったと言う事か!?」
「そのようです。何故かは分かりませんが、ユイは……あの谷底へ転落した後、ハルの世界に飛ばされていたみたいです。」
「それは…本当にあのユイ殿だったのか?似ているだけで、別人と言う事もあるだろう?」
シルヴィア様の言う事も尤もな話だけど─そこで、私が持っていた写真をシルヴィア様に渡す。
「これは、写真と言って、対象にしたモノを写し出したモノらしいのですが…。そこに写っているのが、ハルの両親だそうです。どう見ても…ユイでしょう?」
お父さんは、写真に写っているユイを指差しながらに言う。
「道理で───」
皆が驚いているなかで、リュウだけは納得した─と言うような顔をしている。
「何が…“道理で”何だ?」
訝しげな顔をしたお父さんが、リュウに話の続きを促す。
「俺ね、前に一度、ハルの魔力を調べた事があるんだけどね──」
「いつの間に!?私、聞いてないよ!?」
ーえ?いつ?本当にビックリだからね!?ー
「あーうん。言ってなかったから…って、ゼンもエディオルも殺気を抑えてくれ。兎に角、ハルの魔力が強くて大きいのに、暴走する事もないし、何なら心地良い魔力だから、不思議に思って少し調べてみたんだ。そしたら、あまりにもこの世界に馴染んでいたから、正直驚いたんだ。ただ、ソレは、ハルがチートだからか?と思って…。でも、そのユイって人がこの世界の人間で、ハルの母親だって言うなら、納得だな─と。ひょっとして、そのユイって人も、それなりの魔力持ちだったのか?」
その質問には、お父さんとグレン様とシルヴィア様が反応した。
「今から話す事は、ここだけの話にしてもらう。ハルにも…ロンにも初めて話す事だが……。実は…ユイは、パルヴァンの巫女の血をひく最後の1人だったんだ。」
「─────え?最後?でも…お兄さんが……」
「あぁ、ロンは正真正銘、俺とユイの子だ。でも、パルヴァンの巫女と言うのは女性にしか引き継がれないんだ。だから、ロンには巫女としての血は引き継がれていない。」
「───と言う事は……ハルは、巫女の血を引き継いでいるのか?」
ディの質問に、お父さんが「そうだ」と答えた。
「でも、血を引き継いでいると言うだけだ。巫女としての能力は、もう何代も前に失ってしまったらしいから。ハルは魔法使いだが、ユイ本人は一般的な…普通の魔力持ちだっただけだ。勿論、穢れを浄化する力も持っていなかった。だから、ユイがパルヴァンの巫女の血を引き継いでいる者であっても…国には申告していなかったんだ。だから…ハルとユイの関係についても…国に申告するつもりは…。」
そこ迄言ってから口を噤み、お父さんはチラリとグレン様に視線を向ける。
「わざわざ申告しなくても…良いだろう。巫女としての能力を持っている訳ではないしな。そもそも、ハル殿は魔法使いだからな。」
「ありがとうございます。」
お父さんがお礼を言うと、グレン様はニカッと笑った。
『主が…パルヴァンの巫女の末裔とは…しかし、これで我も納得がいった。何故、真名ではないのに名を交わせたのか。巫女の血が…我と主を繋いでくれたのだな。』
ネージュが嬉しそうに私へとすり寄って来る。勿論、私はそんな可愛いネージュを───ワシャワシャモフモフしたいのを我慢して、よしよしと軽く頭を撫でるだけに止めた。
「なら…ハルは、元の世界─日本に還れなかった訳じゃないのか?」
「ん?リュウ、どう言う事?」
日本には一度還れたけど…ちょっと意味が分からず、首を傾げる。
「ハルが巫女の血を引き継いでいるのなら、ハルはこの世界の人間だったって事だろう?だから、ハルはパルヴァンに引き寄せられたんじゃないか?」
「───あ…なる…ほど?」
そう…なのかな?いや、そうかもしれない。日本にはもう同じ血を持つ母は居なかったから…それに、この世界には巫女と名を交したネージュが居たから。
ー日本に還れなかった時は本当に辛かったけど…ここが、私の本当の居場所だったとしたら…今となっては嬉しい事だよね?ー
私はそう思いながら、ネージュの頭をもう一度撫でた。




