表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/49

ユイ


お父さんとお母さんがイギリスに行く前


『琴音にも話しておくわね。』


と、お母さんから聞いた話には驚いた。






30年位前─


日本に住んでいた祖父母であったが、1年前に祖父が亡くなり、子供も居なかった為に独りになってしまった祖母。


そんなある日、気分転換にとあまり#人気__ひとけ__#はないが、地元では有名な人気スポットに足を運んだそうだ。

そこには透明度の綺麗な川が流れていて、よく夫婦でその川を見に来ていた。久し振りにその川へとやって来ると、体中怪我だらけの女性が倒れていたらしい。


祖母は慌てて救急車を呼び、その倒れていた女性は病院へと搬送された。後数時間発見が遅ければ、危なかったと言われたそうだ。



『それが、私だったのよ。』


と、お母さんはカラカラと笑って言った。


『本当に何も覚えてなくてね。私が覚えていたのは、名前だけだったの。“ユイ”─それだけしか覚えていなかったの。今でも、何故怪我だらけだったのかも…思い出せないんだけどね。でも──』





「お父さん─この写真に写ってる人なんですけど…お父さんと出会えて…私を生んで…幸せよ─って…笑ってたんです。父との馴れ初め?は、また帰って来てから教えてあげる─なんて…笑ってたんですけど…結局、事故に遭ってしまって…聞けなかったんですけどね。」


「「………」」


お父さんもお兄さんも、何も言わない─()()()()…かな?


有り得ないような話だけど…私の存在だって有り得ないのだ。完全には否定できない。

私が召喚に巻き込まれてこの世界に来たように、母も何らかの力が働いて、日本に転移してしまったのかもしれない。


「───ユイは…幸せだと…言ったんだな?」


お父さんは、自分の手に視線を落としたまま呟く。


「はい。幸せだと──言ってました。」


「そうか……なら…良かった……。」


お父さんは、何かを耐えるように笑った後、「少し…1人にしてくれ──」と言って、執務室から出て行った。






なので、今はこの執務室にお兄さんと2人きりになりました。


ーえっと…どうしたら良いですか?ー


チラリとお兄さんに視線を向けると、お兄さんも私を見ていたようで、バッチリと目が合った。すると、お兄さんは嬉しそうに笑って


「ハルは…本当に私の妹…異父妹だったって事…だね?」


「え?あー…そうなりますね?」


多分、お兄さんからしたら…嫌だよね?自分の母親が、記憶を失くしたからと言っても…違う人との間に生んだ()なんて──


「ハル、私は本当に嬉しい。」

「へ!?」


そう言いながら、お兄さんは本当に嬉しそうに微笑みながら私を抱きしめて来た。


「え?私の事…嫌じゃないんですか?」


「え?嫌?何で!?」


お兄さんは、またまた本当にビックリしたように私を見ている。


「え?だって…おと…ゼンさんとは違う父から生まれて──」


「嫌になる訳ないだろう!?もともと、母の記憶が無いからと言う事もあるかもしれないけど、ハルと本当に血が繋がってたって事は本当に嬉しいと思ってる。こんな可愛い子が本当に、本当の妹だったんだからね。それに…お陰で母の事を知る事ができた。ありがとう、ハル。うん。これからは、遠慮なくハルを可愛がれるな。」


「か…かわっ!?」


“可愛がれる”の意味は、ちょっと分からないけど─


「お兄さん…ありがとう。」


へにょりと、情けない?笑顔になったのは許して欲しい。


「うん。やっぱり可愛いな。」


と、頭を優しく撫でられた。


「お父さん──ゼンさんは…大丈夫かなぁ?」


ーこれで、ゼンさんに嫌われて…拒絶とかされたらー


そう考えると、自然と手が震え出した。

そんな私の様子にすぐに気付いたお兄さんは、私の手を優しく握ってくれて


「父さんも、ハルを嫌うなんて事はないよ。ただ…心情的に複雑なだけだと思う。少し…待ってあげてくれるかな?」


「勿論!いつまでも待ちます!」


コクコクと頷くと、お兄さんはまた私の頭を撫でた。






それからお兄さんと一緒に昼食を食べた。

食べ終わった頃に、“3時頃にそちらに行く”と、ディからの先触れの手紙が届いた。


ーディのお迎え迄に、お父さんが戻って来ると良いんだけどなぁー 


なんて思いながら、私は蒼の邸に帰る支度とディを出迎える準備を始めた。








「ハル、あれから体調は大丈夫だったか?」


「はい、私は大丈夫ですよ。迎えに来てくれて、ありがとうございます。」


ディは予定通りの時間にやって来た。でも──


「エディオル様、いらっしゃい。」


私と一緒にディを出迎えたのは、お兄さんだけだった。


「ん?ロンだけか?ゼン殿は…」


と、ディが言い掛けた時


「俺ならここに居る。エディオル、今日はパルヴァン辺境地(ここ)に泊まっていけ。拒否権はない。もう既に、蒼の邸には今日は帰らない─と手紙を飛ばしたからな。」


「は?」


ーおぅ…何故か、ゼンさんからもディからも…圧?殺気?が溢れているー


これは、私が口を出してはいけないやつです!チラリとお兄さんに視線を向けると、お兄さんもニコリと微笑んで口を閉じている。どうやら、私の思っている事は正しかったようです。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ