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おかえり



『お願いだ。思い出してくれ───()()()っ』




そんな切なそうな…辛そうな顔をしないで。

そんな顔をさせてしまってごめんなさい。

そんな私を──嫌いにならないで。




意識が浮上しかけた時、瞼に温かい何かが触れたような気がした。それから、体も温かい何かに包まれている事に気が付いた。その温もりは──覚えている。




「──ん……()()……?」


ソロソロと目を開けて、その温もりの方へと視線を向けると


「ディ───」


そこには、私を真っ直ぐに見つめている綺麗な青色の瞳があった。

その目元にソッと手を触れて


「ディ……ごめんなさい…忘れてしまって…ごめんな──」

「コトネ────っ!」

「ふぐぅ──っ」


ディに謝ろうとして、力の限りに抱きしめられて……やっぱり変な声が出てしまった。


「ディ……ちょっ…かなり…苦しっ……」


ペシペシとディの胸を叩く。


「コトネ───っ!」

「ゔ──っ」


何故か、更に抱きしめられた。


ーうえっ!?記憶が戻ったのに…圧死させられる!?ー


それに…どうしてもディに伝えたい事がある。

何とか頑張ってもがいて、私の両手をディの頬に添えて、私と視線を合わせる。

すると、ディの青色の瞳に私が映りこむ。


「忘れてしまってて…ごめんなさい。また…私を待っていてくれてありがとう───()()()()…リアム。」


ニッコリ笑ってから、私からディに触れるだけのキスをした。


ディは、目を開けたまま暫く固まった後──


「おかえり……コトネ。」


ディは優しく微笑んで、私に触れるだけのキスをした。








「えっと……ディ、そろそろ…下ろして───」

「離す訳ないだろう。」

「──です…よね………」


はい。記憶の戻ったハルです。

記憶が戻ってから少し時間が経ちましたが、私は未だにディの腕の中に捕らわれたままです。

誰も…視界には誰も居ませんが、ここは外です。ええ、外なんです。外でお姫様抱っこは恥ずかしいんです!


「ん?なら、このまま蒼の邸に帰るか?」


「イエ、マダココニイタイデス。」


ディは、相変わらず私の考えている事が分かっている。

そして、この…とてつもなく綺麗な微笑みは…ヤバいやつです。このまま蒼の邸になんて帰ったら……暫くの間、部屋から出れないヤツですよね!?と、ワチャワチャしていると、ディが目を瞑って、私のオデコとディのオデコをくっつけて、更に私を抱く腕にギュッと力を入れた。


「ディ───」

「コトネ……一緒に……蒼の邸(ウチ)に帰ろう?」


未だに閉じられているディの目。どんな思いでその言葉を出したのか──


ー私だって、本当は今すぐにでも蒼の邸に帰りたい。ディの側に…居たい。でも…ー



「ディ…ごめんなさい。今日は…一緒には帰れません。」


そう言うと、ディは、ゆっくりと私からオデコを離して目を開ける。


「何故?」


「お父さんの様子が…気になって……。」


「あぁ…ゼン殿か……。確かに、ここ数日、ゼン殿らしくないな。」


「あ、ディも気付いてましたか?」


「そりゃあ───」


ー俺に全く圧を掛けて来ないからなー


とは、コトネには言わないでおこう。


「あの…私もね?その…ディと一緒に蒼の邸に帰りたいって…ディの側に居たいって…思ってるんですよ?でも…お父さんの様子が気になってしまって。だから…」


「──コトネ」


優しい声で名を呼ばれて、胸がキュッとなる。

それから、何度か軽いキスを繰り返す。

それは、深いモノにはならず───


「蒼の邸に帰って来たら……覚悟しておけよ?」


ーあ、これ……詰んだー


絶対逃げられないヤツですね!?分かってます。今回は…今回だけは私が悪かったんです。逃げませんよ?覚悟は…できないけど。


「えっとですね?お手柔らかに…お願いします。」

「──努力はするが、期待はしないでもらいたい。」

「ふぁいっ!????」


ーえ─!?それ、怖いからね!?()()()()は止めて下さいね!?ー


「──ふっ───本当に…コトネは…可愛いな…ふっ……」

「ディ?笑い、耐え切れてないからね?」


それから、2人で笑い合って───


「コトネ……おかえり。」


改めて、ディが優しく微笑んだ。








*****



「お父さん!!」


「ハル!?」



あれから、青の庭園を後にして、ディと一緒にパルヴァン辺境地へと帰って来た私は、真っ先にお父さんの所へとやって来た。

執務室に居たお父さんは、私が部屋に入ると椅子から立ち上がり、私を迎え入れてくれた。私はそのままの勢いで、お父さんに抱きついた。


「ハル…おかえり。抱きついて来るのは…珍しいな。何かあったのか?」


心配そうに私を見下ろして来るお父さんに、私は笑顔を向けて


「記憶が戻りました。あの…心配掛けてごめんなさい。」


「記憶が!?それは…良かった!」


お父さんは本当に嬉しそうに笑って、私の頭を優しくポンポンと叩いた。


でも…やっぱりその瞳には、切なそうな感情が混じっているように見えた。


「それで?今日は…エディオルと一緒に王都に帰るのか?」


お父さんは、私の後ろに居るディに視線を向けた。


「あ…その事なんだけど…お父さん、少し…私に時間をくれませんか?」




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