表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/49

懇願

「帰りは、俺が送ります。」


カルザイン様がそう告げると、ミヤさんは「お願いね。」と言って、笑顔のままに帰って行ってしまった。そのミヤさんが去った後を何となく見ていると


「ハル殿に見せたいモノがあるんだ。」


カルザイン様は、あの王都で見た怖い顔ではなく、いつもの優しい笑顔で私に手を差し伸べる。


ーそんな顔されたら…断れないよね?結婚…してるのにー


胸がキュッと痛みを訴えるのには蓋をして、私はカルザイン様の手をとった。






そこから、カルザイン様にエスコートされて連れて来られたのは、先程の一般公開されている庭園の奥にある、一般公開されていない区域の庭園だった。


「──青…いろ……」


そこは、青を基調とした色んな花が植えられていた。

そんな色んな花を横目に、カルザイン様は更に奥へと足を進めて行く。そうして、ようやく止まったかと思えば─


「青色の…かすみ草?」


「そう。青色と…水色のかすみ草だ。これを、ハル殿に見せたかったんだ。」


以前、ブーケでもらったかすみ草は、ここのモノだったんだろうか?


「──綺麗…ですね。」


「このかすみ草は…特別なんだ。気に入ってもらえただろうか?」


ー何故…この人は…そんな事を言うんだろうか?ー


そんな思わせぶりな事は言わないで欲しい。

優しくなんてしないで欲しい。



「何故…泣いているか…訊いても?」


「泣いてなんて───っ」


慌ててカルザイン様を見上げると、やっぱり優しく微笑んでいるカルザイン様がいた。


「────ないで…下さい。」


「ん?」


「そんな…優しい顔を…私に向けないで下さい。」


「どうして?」


「──だって……」


ーカルザイン様は、結婚しているんですよね?ー


何て言えなくて、グッと唇を噛みしめる。そのまま顔を俯かせようとすると、両手で私の顔を包み込み、そのまま顔を上に上げさせられた。


「俺は……ハル殿が好きだ。いや、愛してる。」


「────は?」


「思い出して?」


ーえ?誰が、誰を好き?思い…出す?ー


何を言われたのか理解できず、瞬きも忘れてカルザイン様を見つめていると、今迄優しく微笑んでいた筈のカルザイン様が、今度は苦しそうに、切なそうな瞳で私を見つめて来て──


「お願いだ。思い出してくれ───()()()っ」


()()()


「──っ!?」


そう名を呼ばれてハッとした瞬間、頭の中に一気に映像が流れ込む。それがあまりにも多い量と勢いで、「コトネ!?」と、焦ったような声が耳に届いたのを最後に、私の意識がプツリと音を立てて途切れた。








*エディオル視点*



ミヤ様にお願いをして、コトネをこの庭園迄連れて来てもらった。俺が誘っても、来てくれる可能性がないかもしれない─と思ったからだ。そして、それは…当たっていたのだろう。俺が声を掛けると、コトネは俺に対して拒絶の色を持った瞳で見つめて来た。チクチクと痛む心を無視して、俺は言葉を続けた。



「ハル殿、ミヤ様は何も悪くはないんだ。どうしても…俺が、ハル殿と話をしたかったから。今から少し…俺に時間をもらえないだろうか?」



コトネは、相変わらず俺の困った顔には弱いらしい。

ミヤ様と…元の世界での言葉を交した後、渋々ながらもコトネは頷いてくれた。



そして、コトネを連れて来たのは、勿論青の庭園だ。

俺とコトネのスタートラインとなった場所だ。あれから、コトネには内緒で、青色と水色─俺とコトネの色のかすみ草を植えさせてもらった。それが、今、ようやく綺麗に咲いたのだ─と報告を受け、それをブーケにしてもらった。それを目にすれば、何か思い出すかも?と思ったりもしたが……駄目だった。




「このかすみ草は…特別なんだ。気に入ってもらえただろうか?」



ー俺とコトネの色のかすみ草なんだー


そう言い掛けて、グッと我慢する。

そんな言葉にも、コトネは何の反応もしない。不安が頭を占め、ソロソロとコトネに視線を向けると…コトネが泣いていた。


コトネが泣いているなら、抱きしめたい。

コトネが泣いて良いのは、俺の腕の中だけだ。

思い出して欲しい。

俺を見て欲しい。

その綺麗な水色の瞳に、俺を映して欲しい。

愛しているのはコトネだけ。



「お願いだ。思い出してくれ───()()()っ」



最後には、みっともない位に…縋り付くようにコトネに懇願していた。


すると、コトネは目を大きく見開いた後、気を失ってしまった。


「コトネ!?」


顔色は…大丈夫。息も…特に乱れたりはしていない。


「そこのガゼボで休ませる。ハルに何か掛ける物を頼む。」


と、何処とはなしに声を掛けると、誰かの動く気配がした。







ーあの時─コトネと思いが通じ合った時も、コトネが寝落ちしてこうやって抱きしめていたなー


気を失ったコトネを横抱きしたまま、ガゼボにあるソファーに座っている。コトネは相変わらず軽いし可愛いし…良い香りがする。

青色のかすみ草を見て泣いたコトネ。記憶が失くなった今でも、少なからず俺の事を…想ってくれていると─思っても良いんだろうか?未だ閉じられたままの瞼に軽くキスを──してしまった。


「………」


少しの罪悪感を覚えて反省していると、腕の中のコトネがモゾモゾと動いて──


「──ん……()()……?」


と……()()()を口にした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ