庭園へ
「ハル様、ミヤ様から手紙が届きました。」
「リディさん、ありがとうございます。」
私は今、ルナさんとティモスさんと一緒にパルヴァン辺境地の森に来ている。勿論、ネージュとネロも。
そこに、少し遅れてやって来たリディさんが、ミヤさんからの手紙を持ってやって来た。その手紙には──
“色とりどりのかすみ草が咲いている庭園があるから…一緒に見に行かない?”
なんでも、王都にある庭園に私の好きな花であるかすみ草が沢山咲いているらしく、一緒に見に行かないか?と言うお誘いだった。勿論、それは見てみたい。色とりどりのかすみ草が自然に生ってるって…日本では見る事のできない光景だよね。でも─
「───王都…か…」
「王都がどうかしたのか?」
ポツリと呟いた言葉に、ティモスさんが不思議そうな顔をする。
「あ…ミヤさんが、王都にある庭園に一緒に花を見に行かないか?って。私の好きな花が、綺麗に咲いているらしくて。」
「それなら、行って来たらどうだ?また変装して行けば大丈夫だろうし、ハルの気分転換にもなるだろう?ルナとリディが居れば、問題ないと思うぞ?」
ティモスさんもルナさんもリディさんも、うんうんと頷きながら笑っている。
「でも…」
かすみ草は見てみたい。見てみたいけど…どうしても王都と言う場所が、私を躊躇わせる。
あの日─カルザイン様が既婚者だと知ったあの日。躊躇いながらもカルザイン様とクレイル様と3人でお茶をした。
クレイル様が気安い人で色々と話をしてくれたお陰で、私も笑って過ごせた─と思う。時々、カルザイン様が何か言いたげに視線を向けて来たようにも見えたけど、私は気付かないフリをした。そして、その日はそのまま2人が帰る時間になり
「また来るね。」
と言って、カルザイン様とクレイル様は帰って行った。
あの日は最後迄……カルザイン様の顔は見れなかった。その時に気付いた。私は────
「うーん…そうですね。気分転換に…行ってみようかな?」
「「そうしましょう!」」
何故か、ルナさんとリディさんのテンションが上がり、そのままの勢いで、ミヤさんへの返事を書かされた。パルヴァンの森で。え?リディさん、手紙の用意を持って来ていたって…凄くないですか?できる侍女とは、本当に凄いですね!?
兎に角、王都とは…色々怖い所でもあるけど…逃げてばかりも駄目だよね。ひょっとしたら、王都に行くのも最後になるかもしれないし─と思いながら、これからの事を考えた。
*****
ミヤさんとの約束の日。
私は今日も以前と同じように変装をした。
金髪で、肩までの長さでゆるふわ。
「ハル様は、金髪も似合いますね。確かに、見た目ではハル様とは気付き難いかも…ですね。」
「見た目では?」
「はい。ハル様はやっぱり、動きがハル様なので…。」
ルナさんの言葉に、リディさんがうんうんと頷く。
「動きって──」
ーあれ?こんなやり取り…前にも…あった?ー
「ハル、気を付けて…行っておいで。」
お父さんに声を掛けられて、ハッとする。
「はい、それじゃあ…行って来ます。」
ーそう言えば、お父さんの様子もあの日からおかしいよね?ー
相変わらず、私には優しい目を向けてくれてはいるけど、何処か寂しい?苦しい?様なモノが混じっている─そんな感じの瞳をしている。帰って来たら…ゆっくり話をしてみよう。そう思いながら、お父さんに手を振って、転移魔法陣を展開させた。
「綺麗ですね!」
「色んな花があるのね。」
ミヤさんとやって来たのは、賑やかな城下町からは少し離れた位置にある庭園だった。何でも、とある侯爵家所有の庭園で、一般公開されているらしい。
「あ、あそこにかすみ草が沢山咲いているわね。」
庭園の奥の方に来ると、そこに、かすみ草が一面に広がっていた。
「わー…本当に色んな色のかすみ草があるんですね!うわぁ…黒色もありますよ!?」
「この世界には、自然界には無い色─有り得ないと言うモノが…無いのかしら?」
かすみ草に限らず、花を見ると心が落ち着く。日本とは違って、本当に色んな色の花があって、ある意味面白さもある。
でも──
ふと、カルザイン様からもらったかすみ草のブーケを思い出す。
ーこんなに色んな色のかすみ草があるのに、ここには青色のかすみ草が無いのねー
あの青色のかすみ草は何処にあるんだろう?ひょっとして、青色は珍しいんだろうか?そんな事を考えいたから、全く気付いていなかった。
「ハル殿」
名前を呼ばれてハッとする。
ミヤさんが居る筈の方へと視線を向けると、そこにカルザイン様が居た。
「え?何で……?」
「ハル、騙したみたいでごめんなさいね。エディオルさんに、ハルと話がしたいから─って、お願いされたのよ。」
「え?」
「ハル殿、ミヤ様は何も悪くはないんだ。どうしても…俺が、ハル殿と話をしたかったから。今から少し…俺に時間をもらえないだろうか?」
『ハル、今は…自分が後悔しないように動けば良いわ。』
ミヤさんが私にしか分からないように、日本語で背中を押してくれる。
カルザイン様とは最後になるかもしれない──後悔のないように──
「分かりました。お話を…聞かせて下さい。」
私は、カルザイン様にしっかりと視線を合わせながら答えた。




