王都へ
*王都パルヴァン邸にて*
「ミヤ様、お帰りなさいませ。」
「ただいま。」
「お兄さん、お久し振りです。」
「ハル、いらっしゃい。元気そうで良かった。」
と、王都のパルヴァン邸にやって来た私の頭を、お兄さんは優しくポンポンと叩いた。
それから、私が作ったクッキーをロンさんとクロエさんと一緒に食べる事になった。
「ハルの作ったクッキーは久し振りだけど、やっぱり美味しいね。」
「ハルさんって、料理上手よね。」
「ありがとうございます。元の世界では独り暮らしをしていたので、簡単な物だけですけど、ご飯は自分で作ってましたからね。」
ーもう二度と…還る事ができないんだよね?でも…その事に、それ程ショックを受けてない…よね?ー
その事を不思議に思いながら、暫く3人でお茶を飲みながら話をした。
「ハルさん、申し訳無いけど、私はここで失礼するわね。」
「クロエさん、どうしたんですか?」
「明後日、来客予定があるから、今から必要な物を買いに行かなければいけないのよ。ごめんなさいね。」
「あの、それ、私も一緒に──って…無理ですよね…」
王都の街を見てみたいけど…私、一応パルヴァンで療養してる─って事になってるんだよね…。それに、誰かに会ってしまったりするのも…よくないよね。
「んー行けない事もないよ?ハルは街に行きたいの?」
「え?行っても…良いんですか!?」
パッとお兄さんの方を見ると
「条件はあるけどね」
と、お兄さんは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
*****
「はい、これで必要な物は全部注文できたわ。ハルさんは、どこか行きたい所とかある?」
「うーん…行きたい所とか…よく分からないんですけど…」
はい。今、私はクロエさんと一緒に王都の街に出て来ています。明後日に必要な物の買い物が終わり、まだ時間もあるから、どこかに行こうか─と言う話しになりました。
「それじゃあ、すぐそこにお勧めのケーキ屋さんがあるから、そこでお茶でもしましょうか?」
「はい!」
勢い良く返事をしてしまい、クロエさんには笑われてしまって恥ずかしかったけど、2人でそのお勧めのケーキ屋さんへと向かった。
「それにしても…髪の色を変えるだけで印象って変わるもんなんですね。」
「ふふっ。そうね。」
そう。私は今、変装?しています。
私の髪はストレートのプラチナブロンドで肩甲骨辺りまである。
でも、今は──肩までの金髪で、ゆるくウェーブが掛かっている──カツラの様な物をつけている。
お兄さんの言う“条件”が、変装だったのだ。
今の私が知り合いと会っても分からないけど、今の所、私を“ハル”だと認識して声を掛けて来る人は居なかった。
そのケーキ屋さんのケーキは、本当に美味しかった。色々あって選び切れなくて、クロエさんと半分ずつ食べ合って、更にテイクアウトもしてしまった。
「それじゃあ、そろそろ帰ろ───」
クロエさんがそろそろ帰ろうか──と言い掛けた時、少し離れた場所でざわめき?が起きた。そのざわめきの方に視線を向けると
「「───あ」」
そこには、数人の令嬢らしき人達に囲まれたカルザイン様と…もう一人、男の人が居た。召喚された時に居た人に似てるかな?
「カルザイン様もダルシニアン様も、相変わらず人気がありますね。」
「……」
ー確かに、2人ともイケメン…だよねー
「──ん?」
ーあれ?何となく…違和感?がある…。何だろう?ー
そのまま、じーっとその様子を見ていると──
「あれ?何だか…カルザイン様が…怖くないですか?」
カルザイン様は、本当にいつも、私に笑顔を向けてくれる。でも、今私が目にしているカルザイン様は…全く笑っていない。何なら、その目だけで凍ってしまいそうな程冷たい瞳をしている。それでもなお、数人の令嬢はカルザイン様に話し掛けている。貴族の令嬢は、メンタルが強い──のかな?
その真逆で、一緒に居る男の人─ダルシニアン様はニコニコと愛想の良い笑顔を振り撒いている。
「そろそろ、邸に戻りましょうか。」
「そうですね。」
クロエさんに声を掛けられ、帰ろうとした時
「私に、気安く触れないでくれ。それに、貴方にーーの事をとやかく言われる筋合いは無い。」
ピシッ─と、これも私が聞いた事が無いような冷たい声と言葉を発した。何となく、これ以上見てはいけない─聞いてはいけないような気がして、その場から離れようとした時
「貴方方に心配されるような夫婦仲ではないから。」
ーえ?ー
“夫婦仲”
チクリと胸が痛みだして、手をギュッと握りしめる。
ーそりゃそうだよね…イケメンで近衛騎士なカルザイン様だ。結婚していたとしても…おかしくない…よねー
と、少しぼーっとしたままカルザイン様を遠目に見ていると
「──っ!?」
カルザイン様と目が合ってしまった。
そのカルザイン様は、一瞬眉間に皺を寄せた後、軽く目を見開いた。
ーえ?まさか…気付いて…ないよね?ー
それから、カルザイン様はダルシニアン様に耳元で何か話した後、2人は令嬢達から離れて行った。
 




