☆ネージュの呟き☆
我が主の名は─ハルノミヤ=コトネ─
我が名は─ネージュ─
そして、我には今、愛しい存在が二つある。
一つは、番である天馬のノア。
もう一つは、我が子であるフェンリルのネロ。
数年前迄は、ただただ追われるだけの毎日だった。生きる事を諦めた事もあった。
『白いの。お前に名をつけてやろう。そして、お前を守ってやろう。』
あの日、パルヴァンの巫女に会った日、パルヴァンの巫女にそう言われてから、我の運命もまた変わった。
主は優しかった。いつも我を守り、我の幸せを願い、我と共に居てくれた。
そんな優しい主を、我は守れなかった。唯一、守らなければならなかった──守りたかった主を守れなかった。
無理矢理失った主との繋がり。
ー主が居ないのであれば、我も生きている意味など…無いー
某国の騎士に左目を射たれ、そのまま死ぬのも良いか─と諦めた時
『どうか、レフコースに…幸せが訪れますように』
『──っ!主っ!?』
もう息をしていない─死んでいる筈の主の声が聞こえたような気がした。
いつも笑っていた主。我の幸せを祈ってくれていた主。大好きで、唯一無二の主。その主が、我にソレを望むのならば────
ふと、ある一本の木が我の目に留まった。何故か、その木だけが鮮明な色を放っている様に見えた。安心するような…泣きたくなるような存在。
『主…我はまだ……生きていて…良いのだろうか?』
未だ我を捕らえようと攻撃を仕掛けて来る某国の騎士達を躱しながら、その木に近付いて行く。
『レフコース──』
また、主の優しい声が聞こえた気がした。その次の瞬間、温かい何かに包まれた。今迄聞こえていた雑音も聞こえなくなった。
『レフコース、ゆっくり…おやすみ……。』
『主……』
『───迎えに来てくれるから。』
ー“迎えに”?ー
目の前に、黒い髪の女の子?が立っている。
『?』
主ではないのに、その女の子?を目にした瞬間、また泣きそうになった。何故かは分からない。分からないが───
『───待っている。ずっと…。』
我の口からは、そんな言葉が溢れた。
そして、目を閉じた。
*****
それから長い月日を、そのパルヴァンの森にある大樹の中で眠っていた。
それから、またパルヴァンの巫女の気配をかんじ目を覚まし──
『危うく、コトネとパルヴァンを殺すところだった』
ーいやいや!グレン様は死にかけたからね!?私もディが間に合わなかったら潰れてたからね!?ー
と、コトネが居たら突っ込んでいた…筈。
今の主は、チョロ───お人好しだ。
我に殺され掛けたのに、我を“癒しだ!”や“もふもふ”と言って撫で倒す。主を苛めた者達をアッサリ許し、助けたりもする。コッソリ仕返しする事も造作ない事だが……それを主はきっと喜びはしないだろうと、我も我慢した。
そして、我はまた間違いを起こし、主との繋がりがなくなってしまった時の事は…あまり覚えていない。そこに“無”しかなかった故。
それから、新たに真名で名を交す事ができて、我は本当に嬉しかった。本当の意味で繋がれたと思った。
主の魔力は強いのに、とても温かくて優しい。そんな主の魔力のお陰?か、我は擬人化する事ができるようになった。それからだろうか?主が何処かにある危ない扉を開けようとしているのは。ミヤが、その扉を開けるな、鍵を掛けろと言っている故、本当に危ない扉なんだろう。我も、しっかり主を見張っておこうと誓ったのだ。
擬人化した時は、どうしても主が小さくて可愛く見える故、ついつい抱きついてしまう。そんな我の気持ちを理解しているのは、エディオルだけだろう。
この騎士も、主にやらかした一人だったが、主を守ったのもこの騎士だった。故に、我はこの騎士を気に入っていた。
そんな騎士も、ヘッポ───恋愛に疎い主とようやく心を通わせ、今では番い合っている。
『幸せだな──』
と思う。我にもまた主ができた。家族もできた。
パルヴァンの巫女が、今の我を見たら…喜んでくれるだろうか?
ーパルヴァンの巫女、我は今……とても幸せだー