ここって何処ですか?
「いたたたたたたぁ、」
初老のおっさんに足をもつれさせて崩れたバランスを立て直すことなど出来る筈はない。
健康な成人男性であっても簡単に止まる事などできない堤防の傾斜を初老のおっさんは、どんどん加速しながら転げ落ちた。
義弘は、ぐるぐると廻る体に痛みを感じ続けていた。いつまでも続く回転運動。
「いやいやいや、いくら何でも長過ぎませんか?」
シェイクされたおっさん。体感的には既に5分いや10分すら経ったように感じていた。
そんな長過ぎる回転運動も何れは終わりを迎える。
「あぁ、あの堤防、登るの大変だろうなぁ・・・」
そんな悠長な考えを抱いていた回転運動中は、まだまだ幸せであった義弘である。
「あぁ〜、ぐるんぐるんする・・」
回転運動終了のおっさん、目が回った状態で自分の状況を飲み込めるわけもない。
「駄目だ、目が廻ってとても立てそうもない。・・しかし体に痛みを感じないのは不幸中の幸いか。」
おっさんは、その場に蹲り、車酔い船酔いに似た最悪の気分の収まるのを待つことにするのである。
「えっと。うん??ここ…ここって…ここってどこですか?」
気分の落ち着いたおっさん。堤防わ這い上がる憂鬱さを覚悟して、転がり落ちた堤防がある筈の自分から見た背中側を呆然と見上げていた。
義弘の前後左右、どの方角を見ても堤防の存在はなかった。堤防それどころか、すぐ近くにあるはずの足羽山すら見当たらない。
どこからどう見ても草原のど真ん中、いつライオンや猛獣が飛び出して来てもおかしくないような風景である。
「おれ、いつアフリカに来ちゃったの?…!」
突然に感じたその感覚は、おっさんが今までに感じたことのない特別な感覚である。
「な、な、何かいる…」
その何かの感覚は、どんどんとゆっくりだが接近してくる。
「??す、す、スライム??」