序章だよ
アラフィフすら通り越し、年金受給すら目前、そんな初老ともよべる年齢の佐脇義弘は、足腰の衰えはじめた体を感じ、健康を気遣いルーティンとしてはじめた朝の散歩にこの日も出かけた。
この日の天気予報は、生憎、朝から小雨。
まだ降り出す様子はないものの、どんどんと暗くなる空を見上げれば、その散歩のペースは、いつものものより圧倒的に早くなるのも仕方なかった。
そんなペースは、当然のように災いする。
「しまった・・・」
衰えた足腰、いつもと違う散歩のペース。もつれさせた足で崩したバランスを立て直すことなど初老の義弘に出来る筈はなかった。
「うわぁ〜」
最悪なことに散歩コースのなかで危険度マックスの場所、堤防の上から転げ落ちる義弘の運命はいかに
序章
時は、 西暦1582年6月21日、天正10年6月21日早朝、日がまだ登りきらない薄暗い時刻、京の都のその場所は、轟々と燃え盛る火の海と化していた。
「お館様、まもなく、あの裏切り者の手勢がここまで押し寄せてまいります。‥も、もはやこれまでかと…。」
そう告げるその男の肩口には、矢が突き刺さり、燃え盛る火の中を駆け抜けてきたせいか、着ているものは焼け焦げ後さえみられていた。
お館様と呼ばれた一人の男の前で、息も絶え絶えとなりながらもうやうやしく片膝をつき、口惜しいそう告げた。
「‥蘭丸そちは、降伏し、生き延びよ。」
「お館様、な、何を仰いますか。‥蘭丸をなぜ、何故に一緒に死なせてくれませぬのか。」
お館様と呼ばれた男は、『ふっ』と息をこぼし、笑いながらいった。
「奴に、わしの首だけはやるわけにはいかんからの。…蘭丸、おぬしは、わしの首をはねたあと、その首を火の中に投げ込むのじゃ。‥まあ、その後は、好きにするがよい。」
「‥お、お館様…。」
そんな被葬感漂うなか、今もなお火矢は放たれ続く。寺の寝所となったこの奥の館にもいつ燃え移ってきてもおかしくないほどの様子に見える。
「御館様、む、無念にございます。」
「蘭丸、もうさほどの時はあるまい、・・・なかなかに楽しい一生であったわ」
いよいよ、その時は迫る。誰もが知る歴史や1ページ。
そんな本能寺の変と呼ばれる歴史ひとこまが・・
「信長様、ご無事ですか?」
被葬感漂う二人のそば、いきなり眩く小さな光の玉が爆発でもするようにどんどんと大きくなる。
人の背丈を有に越えた光の玉は、やがてゆっくりと輝きを失っていく。そんな光の中から現れたのは、無精髭を上手く処理できてない冴えないおっさんである。どう見てもこの場にそぐいそうもない、まるで空気のよめない、いや、読むことさえわかってないゆる〜いおっさんの登場である。
「‥さあ、御館様も蘭丸殿も、早くこちらへ。」
「はっははは‥、義弘。お前は、いつもわしが困ると現れおる。どうせ同じ現れるなら、もうちょっと早くこぬか。この蘭丸のなりを見よ。着物から頭から焦げてしまっておるわい。はっはははは。」
もはや最後の時と覚悟していた二人は、火の海と化していたその場所、燃え盛る本能寺から姿を消していった。