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桜色の街で ~ニュータウン漂流記~  作者: サイダーボウイ
二つの手紙編 4月14日(日)
406/421

第406話 ラストレター-15

 そのように心変わりを繰り返す私とは対照的に、花ちゃんは一貫してあなたの無実を信じているようでした。


 今の花ちゃんは大分落ち着いていますが、事件があった当初の彼女は周りに対して酷く憤っていました。

 それは、非難するクラスメイトの子たちに対してだったり、真っ先にあなたの罪を肯定した大人たちに対してだったり……。


 とにかく、傍から見ても分かるくらいとても不安定な状態でした。


 花ちゃんがそんな調子でいてくれたから、私は少し冷静になれていたところがあります。

 

 彼女はほとんど毎日のように麻唯の見舞いに足を運んでくれました。

 そして、そこで私に何度も熱弁するのです。

 あなたはハメられたのだって。


 花ちゃんは、裏で大貴君が手を引いているって考えているようでした。


 実際に、大貴君が麻唯を教室の窓から突き落とし、偽りの事件をでっち上げてあなたに罪を擦りつけたと繰り返し主張していました。

 犯人を名乗るように脅されているのだとも言っていました。

 

 最初にそれを聞いた時は、感情的になってこの子は話を飛躍させてしまっていると、私は考えておりました。


 確かに、麻唯と一緒に襲われたという三人の生徒は、大貴君と繋がりのある所謂不良の子たちで、目撃者も大貴君たちグループの後ろ盾でもある社家先生たった一人だけということもあり、花ちゃんがそんな風に考えるのも無理はなかったのかもしれません。


 大貴君が悪事に手を染めるようになっていって、学園がそれを黙認していることを私は麻唯から聞かされて知っていました。

 花ちゃんが考えるように裏で生徒や先生を操って、あなたに罪を被せることが大貴君にはできたのかもしれません。


 けれども、私には大貴君がそんなことをするようには思えませんでした。


 昔の献身的な大貴君をよく知っているからこそ、麻唯を教室の窓から突き落とすなんてことは絶対にあり得ないと、私はあなたの時に感じたことと同じようにその仮説を心の中で否定しました。


 たとえ、仲違いのような関係になったとしても、根底にある思いだけは変わらない。

 

 ましてや、夫を襲撃するという命を賭けた行動に出て、その事実を共有するほどの固い絆で結ばれたあなたに罪を被せようとするはずがない。

 そう私は信じていたのです。



 

 結局、1ヶ月以上が経過しても麻唯が目を覚ますことはありませんでした。

 

 毎日この病室に通い続け、静かに眠っている美しい横顔を眺めていると、私は次第にこう考えるようになりました。


 この子はもう現実に戻りたくないんじゃないかって。


 実際、教室でなにがあったのかは私には分かりません。

 あなたや大貴君がその場にいたのかも私には知る術がありません。


 それでも、そこで麻唯の中でなにかとてつもなく大きな出来ごとが起こったことは間違いないと私は思っています。


 この子にはこれまで辛い思いを沢山させてきました。

 ふとしたことがきっかけで、人生を諦めたくなる瞬間だってあったかもしれません。

 それだけのトラウマを私は植えつけてきてしまったのです。


 すべては私が麻唯を守ってこなかったことが原因なのです。


 そして、こうも考えるようになりました。

 これは夫の呪いなんじゃないか、と。


 この先、あの男はどこまでも私たちを邪魔するつもりなんだって……。


 あなたにしてもそうです。

 容疑を認めてしまっているのもその呪いのせいだと、本気でそう考えていました。


 そんな風にしてなにかのせいにしなければ、私はこの状況を受け入れることができなかったのです。


 ですが――。

 このような歪な状況に風穴を開ける出来ごとがなんの前触れもなく突然起こります。

 

 今からちょうど10日前。

 学年も上がって新学期が始まると、あなたたちのクラスに少年調査官と呼ばれる同年代の二人組が転入してきたのです。




 私はそのことを直前になって社家先生から聞かされました。

 今回の事件が「少年調査官制度」という政府が極秘裏に進めている制度の仮定ケースとして適用されることになったと、先生は淡々と口にしました。


 生徒たちにはその事実は公表しないということでしたが、察しのいい花ちゃんは真っ先に気づいたはずです。


 関内哲矢君と高島メイさん。

 彼ら二人が普通の転入生ではないということに。


 けれど、彼女がそのことで私になにか訊いてくるようなことはありませんでした。


 事件があってから最初のうちは毎日のように見舞いに来てくれていた花ちゃんでしたが、最近はほとんど顔を出さなくなっていました。

 もちろん、花ちゃんとしては毎日のように麻唯の見舞いに来たかったはずです。


 多分、問題は私にあります。

 大貴君が事件に関わっていることを信じていない私と顔を合わせるのに気が引けたのかもしれません。


 でも、一週間前の日曜日。

 久しぶりに花ちゃんが見舞いに訪ねてくれました。

 しかも、少年調査官である二人と一緒にです。


 今にして思えば、あれが分岐点となる運命の一日でした。

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