第382話 大貴からの手紙-17
ヤツのせいで麻唯がどれほど酷い目に遭ってきたか。
将人、お前も忘れたわけじゃねーだろ?
聖菜さんにしてもそうさ。
ずっとヤツに囚われ続けてた。
もし仮に、あの男が今ものうのうと生きてたら、二人の人生は滅茶苦茶にされてたに違いないんだよ。
肉体的なダメージのことだけを言ってるんじゃねーよ。
心も完全にあの男に破壊されてたはずだ。
それを俺たちが解放したんだ。
分かんだろ、将人。
文字通り、俺たちが解き放ったんだよ。
それに、お前は麻唯の傍にいる必要がある。
あの日以来、麻唯は昏睡したままだ。
今、この手紙をお前が読んでる時、麻唯はどうなってる?
目を覚まして元気でいるならそれでいいが、多分そうじゃないって俺は思ってる。
今でもあいつが目覚めないから、罪悪感に駆られて自首しようとしてんじゃねーのか?
だけど、それは逃げだ。
正面から麻唯と向き合ってねー証拠なんだよ。
医者によりゃ、外傷もほとんどなくて目覚めないのが不思議なくらいって話だ。
ひょっとすると、あいつにはなんか目を覚ましたくない理由があるのかもしれない。
少なくとも、その責任は俺たちにある。
お前は真実を口にするのを止めなかったし、俺はお前を止めなかった。
やっぱり、あれは伝えるべき話じゃなかったんだ。
俺たちにとってはどうしようもねークズ野郎でも、麻唯にとっては血の繋がった実の父親だった。
あんな酷い目に遭ってても、父親に見えてたのかもしれねーんだ。
それが、俺たちの手によって殺されたって聞かされたんだ。
衝撃を受けないわけがない。
兄妹の件にしてもそうだ。
お前だって、本当は気づいてたんじゃないのか?
あいつの本当の想いに……。
まるで、追い打ちをかけられるようにそんな話を聞かされた麻唯の気持ちを考えると……目を覚まさなくて当然だって思えてくる。
とにかく、お前には麻唯の傍にいてほしいんだ。
あいつには支えが必要だから。
その責任は、やっぱり俺たちにある。
だけど、俺にはそれはできねーから。
いつか目を覚ますその時のために、お前が傍であいつを見守ってやっててくれ。
そして、目を覚ました時、あいつにしっかり謝ってほしいんだ。
――けど。
それでもなおさ。
自首しなきゃって、使命感に囚われてんのなら……。
一人で抱え込もうとしないでくれ。
この手紙を最後まで読んでも、お前の決意が変わらねーようなら、俺に直接そのことを伝えてほしい。
お前一人にだけは絶対に罪は背負わせねーから。
俺も一緒に償う。
それくらいの権利、俺にだってあんだろ?
それじゃ、ここまで長ったらしく書いてきちまったけど、あとの決断はお前に任せるよ。
昔からそうだったよな?
俺はいつもお前の後をついてった。
俺にとって頼れるリーダーはお前なんだよ、将人。
それは昔も今も……これから先の未来も変わらねーから。
だから、お前がそうと決めたなら、もう俺はなんも言わない。
時々、夢を見るんだ。
俺たちはまだ出会った頃のまんまで、麻唯を含めた三人で仲良く遊んでるつー夢をさ。
これが俺の本当の望みなんだって、夜にふと目が覚めて気づくんだよ。
頬に涙の跡が残ってることに。
眠りから覚めたあいつが俺たちのことをどう思うかは正直分からない。
だけど、ただ一つ。
俺のわがままが許されんなら……。
あの頃のようにさ、もう一度三人で集まりたいんだ。
これまでのしがらみを一切忘れて、笑い合いたいんだ。
たとえ、それが叶わぬ願いだとしてもさ。
その拠りどころを胸に抱いて、俺はこの先も信じて待ってるぞ。
いつか、三人の道が交わるって。
将人。
お前の決断がその道へ繋がることを願ってるよ。
じゃあな。
令和6年4月10日
橋本大貴
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