第377話 大貴からの手紙-12
〝放課後、金属バットを持った将人が教室に現れて、その場に残ってたクラスメイト数名に突然襲いかかった〟
社家に提案した筋書きはこんな感じだった。
これなら無差別性が強調されて麻唯一人に目が向く心配もない。
一緒に襲われたって設定のクラスメイトも仲間を使えば問題ないって俺は考えた。
そこまでは社家に話す分には障害はなかった。
問題は、人格が交代してまるで生まれたての小鹿のように退化しちまってるお前の状態を社家にどう伝えるかだった。
当然、お前の名誉のためにも多重人格の話を社家にするわけにはいかない。
少し考えた末、俺はお前のことを「親友の麻唯が突き落とされる場面を目撃したショックで一時的な記憶喪失の状態にある」って社家に伝えたよ。
「先生には間近で事件を目撃した唯一の証人になってもらいたい。クラスメイトたちに金属バットで襲いかかるところを見たって、生田には事件の犯人であることを信じ込ませてほしい」
俺はそう社家に要望した。
さすがに、これには社家もすぐ頷かなかった。
まあ、当然と言えば当然だよな。
めちゃくちゃなこと言ってる自覚はあったし、色々と不審な点も多かったからな。
それでも社家は俺の言うことには絶対だった。
正直、社家が俺に対してどこまで利用価値があるって考えてたかは分からない。
本心の読めない男だ。
けど、こん時ばかりは受け入れてくれて助かったぜ。
掃除用具のロッカーん中に球技大会で使った金属バットが入ってるからそれを利用してくれって伝えると、俺は社家にA組まで急ぐように発破かけてから電話を切った。
あとは、口裏を合わせるために三崎口たちに急いで連絡を取った。
俺の様子がおかしいことに気づいてたんだろうな。
あいつらはファミレスを途中で抜け出した俺の後を追って、学園近くまで足を運んでたみたいなんだ。
察しのいい奴らだ。
偽装工作の手助けをしてほしいって社家とまんま同じこと伝えても、すぐにそれを受け入れてくれたよ。
急いで三人を保健室へ向かわせると、俺は最後に養護教諭に連絡を取った。
屋上でサボってタバコふかすことが生きがいみてーな変わった女なんだが、俺たちとわりと馬が合ってな。
授業サボる時は大抵その養護教諭に俺たちは世話になってんだ。
同じこと話したらすぐに理解してくれたぜ。
「臨時職員であるアタシには関係のない話だ」って言いながらも協力してくれたんだ。
仮病のために三崎口たちに偽の手当てをしてほしいって頼んだ後、警察への偽証もお願いした。
もちろん、警察に傷の有無を確認されるって分かってたから、三人は軽症ってことにしてほしいって、養護教諭と口裏を合わせたよ。
これを読んで、お前はそんなこと絶対上手くいくはずないって思うかもしんねーな。
とっさに思いついた段取りに過ぎなかったし、随分と突貫の部分もある。
自分で書いてて俺も驚いたよ。
けどな。
驚くかもしれねーが、皆俺の言う通りにちゃんと動いてくれたんだ。
その点に関しては俺はめっちゃ感謝してるんだ。
だって、全員の協力がなけりゃ、お前は麻唯を突き落とした犯人にされてただろうから。
口裏合わせを終えてしばらくすると、夕暮れの学園はちょっとした騒ぎになった。
駐車場に救急車が到着して、部活の連中や教師らが現場に群がり始めたんだ。
当然、俺も現場の様子が気になった。
けど、俺がそこに顔出すわけにはいかなかった。
あくまでも裏で手を引く立場に徹しなきゃならねーって分かってたからな。
俺は歯をグッと噛み締めて、誰にもバレないように学園を後にしたよ。
心の底から麻唯の無事を願いながら。




