第376話 大貴からの手紙-11
さっきも書いた通り、あの時はもう17時を回ってたから部活をしてない生徒はほとんど下校してたけど、お前たち二人が教室に残ってるところを誰にも見られてないっていう保証はどこにもなかった。
それで俺はつい焦っちまったんだ。
なんとかして、そう思わせないようにしなきゃって。
もし、お前が麻唯を突き落としたなんて風に思われちまったら、お前たち二人の関係が洗い出されて、実は血の繋がった兄妹だったってことが公になる可能性があった。
それに、お前が福岡へ引っ越した時期と、あの男が蒸発したタイミングがほとんど同じことにも警察が勘づかないとも限らなかった。
そうなりゃ、殺人の事実が明るみになるのも時間の問題だ。
俺が一番懸念したことはそこだった。
いくら自首するつもりだったとはいえ、人格が交代してる状態で警察にしょっ引かれることはお前としても本意じゃなかっただろ?
そう考えた俺は、とっさに頭の中である計画を立てていた。
それは、カモフラージュの事件を用意するってことだ。
お前は人格が入れ替わったばかりで状況がよく分かってない感じだったし、他人からなにか言われてもすぐ信じちまいそうな脆さがあった。
それを俺は利用できるって考えたんだ。
殺人の事実に辿られないように、あえて偽りの事件をでっち上げて警察の目を誤魔化す。
今考えりゃ随分バカな考えだって思うよ。
これを読んでるお前がこのことをどう思ってるか、正直俺には分からない。
けど、その時の俺には、このムチャクチャな計画が最善の策に思えたんだ。
もちろん、性急な判断だったって反省もしてる。
お前と麻唯が教室で一緒にいるところを誰かに見られたってわけでもねーのに、俺は自分の考えだけでその計画を推し進めちまった。
あの時の俺が軽いパニック状態にあったことは認める。
なによりも事態は1秒1秒を争ってた。
なんも行動せずじっとしてられる状況じゃなかったんだよ。
放っておけば、お前が麻唯を窓から突き落とした犯人にされちまう可能性が十分にあったわけだから。
俺はお前に気づかれないようにそっと教室を抜け出して、すぐにある男に連絡を入れた。
その相手つーのが、社家っていう俺たちのクラス担任だ。
カモフラージュの事件をでっち上げるにはどうしても協力者が必要だったんだ。
それも、しっかりとした証言ができる大人の人間がな。
社家には、俺らグループと学園を繋ぐパイプのような役割があった。
なんか問題がありゃまず社家に連絡する。
社家は教頭の清川に次いで学園で権力を持ってるし、ワルさした時は色々と助けてもらうことも多かった。
協力を要請する相手としては申し分ないって思ったよ。
俺がスマホから電話をかけた時、社家は職務棟の資料準備室にこもって書類の整理をしてた。
その時は麻唯が転落した騒ぎはそこまで伝わってなかったんだ。
俺は簡潔に用件を伝えた。
「麻唯を教室の窓から突き落としちまったから偽装工作の手助けをしてほしい」って。
本当のところは社家には隠した。
あくまで俺が麻唯を窓から突き落として、お前に罪を被せようと考えてるってテイで社家に話したんだ。
麻唯との仲が上手くいってなかったことはもちろん社家も知ってたし、その話に納得するまでそう時間はかからなかったよ。
俺はさらに詳しく話を進めた。




