第373話 大貴からの手紙-8
俺は、次の閏日よりも前にお前が戻って来るなんてこれっぽっちも考えてなかった。
また一緒に学園に通うことになるなんてな。
しかも、あろうことか、俺たち三人は同じクラスだった。
俺は、内心昔のように三人で同じクラスになれたことを喜ぶ反面、すぐにある違和感に気づいた。
俺の知ってるお前となにかが違ってたんだ。
すぐに直感したよ。
人格が入れ替わってるんだって。
それは奇妙な感覚だった。
ようやく再会できたはずなのに、お前は俺のことをまるで分かってないんだから。
身長や体格が大きくなって外見が変わってもしっかり面影を感じることができるのに、目の前に立つお前は俺のまったく知らない誰かになってた。
なにかイレギュラーな事態が起こったんだって、俺はすぐに思った。
だってよ。
あれほど「4年後の閏日に」って誓ってたお前が、なんの理由もなしにこの街へ戻って来るはずがない。
すべて忘れてしまったようにケロッとしてるお前の姿がその裏付けとなってた。
麻唯もお前がなんか違うってことにはすぐ気づいたみたいだった。
だって、気づかないはずないよな。
誰よりもお前のことを思ってたんだから。
あいつがどうやって自分の中で折り合いをつけたのかは俺には分からない。
もちろん、お前が多重人格者だってことにも麻唯はずっと気づいてなかった。
でも、いつの間にか、あいつはお前を以前と同じように自分の輪の中へ迎え入れてた。
もしかすると、お前の変化は麻唯にとっては些細な問題に過ぎなかったのかもしれない。
突然、なにも言わずに消えちまったお前が戻って来たんだ。
驚きや疑問よりも嬉しさが勝ったんだろう。
俺は傍からその光景を眺めてたに過ぎなかったが、麻唯はお前が戻って来たことで本当に幸せそうだった。
それは、将人。
お前にしても同じように俺には見えた。
その人格のお前には麻唯との思い出は一切ないはずなのに、自然と馴染んで学園生活を楽しそうに送ってた。
そんなお前たちの姿を遠くから眺めてるうちに俺は思うようになったんだ。
もし仮に、お前の人格がこのまま戻らないようなら、それはそれで皆が幸せなんじゃないかって……。
麻唯がお前に惹かれてるってのは昔から分かってた。
べつに嫉妬してこう書いてるわけじゃないぜ?
それはさ、紛れもねー事実なんだよ。
昔から麻唯はお前と一緒にいる時だけは違う表情を覗かせていた。
あいつは、お前と一緒にいることに心から幸せを感じてたんだよ。
お前がどこまで麻唯の気持ちに気づいてたかは知らねーけどな。
だからさ。
そんなお前が殺人を犯したって自白して警察に捕まったら麻唯はどう思うか。
また、昔のように深い傷を負って閉じこもっちまうかもしれない。
幸いヤツが消えたことは世間から完全に忘れ去られてた。
あえて残酷な事実を突きつける必要はないんじゃないか?
閏日までになにも起きなきゃそれはそれでいい。
俺はそんな風に考えるようになってたんだ。
けど――。
お前は約束通りその日に現れた。
俺のよく知る将人が4年ぶりに俺の目の前に現れたんだ。




