第372話 大貴からの手紙-7
高二になると、俺と麻唯の距離はさらに離れていった。
今のお前は知らないかもしれないが、麻唯が生徒会長に当選したんだ。
その頃のあいつは持前の明るさですでに学年の人気者になっていて、圧倒的な支持を得て生徒会長に当選した。
なんで麻唯が生徒会長に立候補したのかは分からない。
ただ、ワルさを働く俺たちがいい引き立て役になってたのは確かだ。
俺らに対して面と向かってなにかもの言えたのは麻唯だけだったんだよ。
あいつは、俺を元の道へ戻そうとしてくれてた。
自意識過剰かもしれねーが、ひょっとしたらそれが立候補の理由だったのかもしれない。
だけどよ。
皮肉にもそれが俺たちの関係を決定的に壊しちまった。
ワルさってのはさ、一度手を染めると、回ったら回りっぱなしの歯車みたいに歯止めが利かなくなんだよ。
夜に繁華街のショーウィンドウ叩き割って物盗んだり、隣り街の不良どもと喧嘩したり、バイクでニュータウン爆走したり、バカな大学生から金巻き上げたり、学園ではしゃぎ散らしたり……。
んなもんは、一度経験しちまうと際限がないんだ。
高二の夏休みまではそんな調子で俺たちはワルさを繰り返してた。
よく警察沙汰にならなかったなって思うぜ。
彩夏が頭よかったんだ。
あいつが裏で色々舵取りしてくれてたんだ。
結局、色々あって高二の夏休みが終わると、彩夏は仲間の数人を引き連れて俺の元から去ってったが、一番頼りにしてたのはあいつだった。
彩夏がいなかったら、俺らはあそこまで好き放題できてなかったって思う。
実際、あいつがグループを引っ張ってたんだ。
あの頃の俺はさ。
正直、投げやりに思ってた。
いつ警察に捕まっても構わないって。
すぐにでも、あの男を殺したって自白してしょっ引かれたい気分だった。
何度、豊ヶ丘の森へ行って土を掘り返そうと思ったことか。
あの公園にはお前が帰って来るまで近づかないって決めてたけど、俺はそれを何度も破りそうになってた。
精神的にかなり参ってたんだ。
正直、麻唯との溝がどんどん広がってくのがツラかった。
ワルさに手を染めれば染めるほど、まるで自分じゃなくなってくような感覚だった。
殺人に対する罪悪感が無意識のうちに俺を追い込んでたのかもしれない。
すべて終わらせたいって気持ちは、日を追うごとに強くなっていった。
でも……。
俺は寸前のところでそれを耐えた。
それだけは絶対越えちゃいけない一線なんだって、必死に自分に言い聞かせたよ。
あの男が蒸発じゃなく殺されたって分かれば、警察は徹底的にヤツの身辺調査をするはずだ。
そうなると、吾平さんと聖菜さんが実は過去に結婚していて、お前と麻唯が実は血の繋がりのある兄妹だってことが公になる可能性があった。
それはお前としても本意じゃないはずだって、俺は思ったよ。
聖菜さんが麻唯に対して兄妹の事実を隠してる以上、すぐにそれを伝える必要はないってお前は考えてたはずだ。
『そのことはいずれ自分の口からきちんと麻唯に伝える』
俺はお前のその言葉を信じて、これまでその事実をあいつに告げるのを控えてきた。
勝手にお前との決めごとを破るわけにはいかなかった。
俺にできたことは一つ。
ただ、現状に耐えるだけだ。
お前が次の閏日に帰って来るまでは、なんとしても耐えようって心に誓った。
だから、俺はこの4年間一度も豊ヶ丘の森へは近づかなかったんだ。
そして、その約束の日は……予定してたよりも早く訪れた。
つーよりも、あまりに突然のことで理解が追いつかなかったって書いた方が正しいかもしれない。
正直、驚いたぞ。
二学期の始業式に転入生として入ってきたお前の姿を見た時は。




