第356話 対面
細かな将人の息遣いと共に、底の土が薄く掘り返されていく。
それから数分もしないうちに、木箱の上蓋部分が土の中から完全に姿を現した。
(いや、結構でかいな……)
哲矢が想像していたよりもその木箱のスケールは大きい。
2メートルはあるのではないか、と哲矢はとっさに思う。
やはり、中学生の男子が一人でこれをこの場所まで運んできたという話は無理があるように思えた。
けれど、今はそんなことを彼に問い質している余裕はない。
ついにこの瞬間が訪れたのだ。
「哲矢、一緒に手伝ってくれないか」
「了解っ……」
将人はシャベル片手に哲矢を穴の中へと招き入れる。
一瞬、躊躇しそうになる哲矢であったが、覚悟を決めてそこへ足を踏み入れた。
「そっちの端を掴んでくれ。いっせーのせで開けよう」
「わ、分かった!」
言われた通り哲矢は上蓋の端を掴むと、将人のかけ声と共にそれを力一杯持ち上げる。
ギギギギッと、渋い音と共にゆっくりと上蓋が開いていく。
(さあ、姿を見せろ!)
様々な思いが二人の間に去来する中、その瞬間、木箱の上蓋は完全に開け放たれた。
「ある、か……?」
目を凝らして中を覗き込む。
だが、哲矢からは暗くて、中に何が入っているのかは確認できなかった。
「待って」
懐中電灯を手にした将人が箱の中を照らす。
すると――。
ついにその中身が明らかとなった。
「…………ッ!?」
直後、真っ先に反応を示したのは将人であった。
目を大きく見開き、懐中電灯を片手に全身を震わせたまま、彼は表情を強張らせていく。
とっさに哲矢も箱の中へと視線を落とした。
「ぇっ……」
それと同時に哲矢も似たような呻き声を上げる。
だが、それは将人の反応に比べればまだ易しいものであった。
動揺の大きさが根底から異なっているのだ。
だから、次に彼の口から「……う、嘘だッ……! こんなのっ……」という芝居がかった声が聞こえてきた時には、哲矢はすでに事態を冷静に俯瞰で眺めていた。
結論から言ってしまえば、木箱の中には彼が望んでいたものは入っていなかった。
ただ一つ。
この場に場違いなものがそっと置かれているだけだ。
泥が付着したポリ袋に包まれたファンシーなピンク色のショルダーバッグ。
それが中身のすべてであった。




