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桜色の街で ~ニュータウン漂流記~  作者: サイダーボウイ
二つの手紙編 4月14日(日)
350/421

第350話 真相 その2

 いつの間にか、雲間から月が覗き始めていた。


 雨はまだぽつりぽつりと落ちてきてはいたが、この様子だとあと少しもしないうちに止んでしまうかもしれない、と哲矢は思った。

 将人はそんな夜空に顔を向けて、一度小さく白い息を吐き出す。


 全身はびしょ濡れで外気はとても冷え込んでいたが、哲矢はほとんど寒さを感じなくなっていた。

 あまりに話に入り込んでしまったせいで、感覚が麻痺しているのかもしれない。

 それはどうやら将人にしても同じようであった。


 彼は泥まみれの自分の手をまるで勲章のようにまじまじと見つめると、続きを静かに話し始める。


「……秋が過ぎて冬になり、春の兆しが感じられ始めた頃。俺はアイツと人格を入れ替わった。今年の2月29日――閏日に。俺は麻唯へ伝えたんだ。放課後、話したいことがあるって。とても大事な話だって付け加えて」


「俺のその言葉を聞いた麻唯の表情は……なんていうか、予感のようなものを浮かべてた。絶対に知ってるはずはないのに、俺がなにを話そうとしてるかまるで分かってるかのような……そんな表情をしていた。だけど、麻唯は約束してくれたよ。生徒会の仕事を終わらせたら教室へ戻るって」


「放課後になると、俺はじっと教室で麻唯がやって来るのを待っていた。その頃には教室には誰もいなくなってて、窓から差し込む夕日が黒板や机を真っ赤に染め上げていたのを覚えてる。ここならすべてを打ち明けられるって、俺は思ったよ」


「随分してから教室へ戻ってきた麻唯は、どこか緊張してるように見えた。二人っきりになることが落ち着かないって感じで。俺は……薄々気づいてたんだ。麻唯が俺のことをどう思ってるか、本当の気持ちに。だから……真実をすべて話すことは最後まで躊躇したよ。俺だって、本当は麻唯と……」


 そこで言葉を飲み込んだ将人は、悔しそうに下唇を噛む。

 その仕草を見て、哲矢はある事実に気づいてしまう。

 だが――。


 それは口に出してもいい類の言葉ではなかった。


 彼もそれが分かっているのだろう。

 ぐっと本心を飲み込むように一度固く口を結んでから話を続ける。

 

「……いや、違う。ダメだ、それでも言わなくちゃいけない、って。俺は自分にそう言い聞かせた。向かいの椅子に麻唯を座らせると、俺は真っ直ぐに麻唯の目を見ながら告白したんだ」


「まず、この場にいる俺は、昨日までの俺とはまったくの別人であるってことを伝えた。自分は多重人格者だって言ったんだ。福岡の高校から転入してきた俺と、かつて一緒に学園へ通ってた俺は別の人格なんだって」


「最初、麻唯は俺のその話を聞いてもなにも反応しなかった。ただ、黙ったままじっと俺の目を見ていた。予想してた話と違って、驚いて声が出ないのかもしれないって思ったけど、そうじゃなかった。しばらくすると、急にフッって笑みを浮かべて、『そんな気がしてた』って笑ったんだ」


「多分、〝俺たち〟の性格があまりにも違い過ぎてたから薄々気づいてたんだと思う。この件に関しては、麻唯は素直に俺を受け入れてくれたよ。それで、俺は……。この先も言っても大丈夫だって、そう思ったんだ」


「……そこで伝えたんだな?」


「ああ。単刀直入に言った。俺は……人殺しでもあるんだって。4年前の閏日にある男を殺して、これからその件で警察に自首しに行こうと思ってるって、全部告白したよ。でも……口にしてからすぐに気づいた。やっぱり、これは伝えるべき話じゃなかったって」


「…………」


 将人はさらに強く唇を噛み締める。

 泥だらけとなっている自分の手元に視線を落としながら、少しだけ声を震わせて彼は続きを口にした。

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