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第337話 殺人の告白 その1

「……ただ、当日予想外の出来ごとが一つ起きた。予報にはなかった大雨が突然降り出したことでヤツの判別が難しくなったことだ。相手は黒色のレインコートを羽織っていて顔がよく見えなかった。一瞬戸惑ったよ。本当にあの男なのかって」


「でも、見間違うはずがなかった。ヤツは大柄で体格もよかったし、少しだけ足を引き摺るようにして歩く癖があった。それに、俺は1ヶ月近く夜に自宅を抜け出して、あの男の帰宅時間とルートを何度も確認してたんだ」


「ヤツに間違いない……俺はすぐに頭を切り替えた。チャンスは一度きりって分かってたから。決心してからの行動は早かったよ。俺はシャベルを持って茂みから飛び出すと、あの大男の後頭部に目がけてそれを思いっきり振り抜いた」


「頭蓋骨にヒビが入るような鈍い音が鳴って、確かに仕留めたっていう感触があった。だけど、ヤツはそれだけじゃ倒れなかった。体を一瞬よろけさせながらも、短い悲鳴を上げながら抵抗してきたんだ」


「その時の恐怖は……正直、言い表せない。俺は本当に必死だった。何度もシャベルを振り回してヤツと格闘したよ。それで、さらに何発かダメージを与えると、ヤツは敵わないって観念したのか。助けを求めながら逃げ始めたんだ」


「仕留め損なってしまったって、俺は内心気が気じゃなかった。当時の俺は、まだ体も成熟しきってないガキだったし、シャベルを担いであの男を追いかけるだけでも精一杯だった。だから、どういうルートを辿ったのか今でもよく思い出せないんだ」


 そういうことか……と、哲矢は思った。

 だから、将人はその男を埋めた場所が分かっていなかったのだ。


(将人の計画は一度失敗したんだ)


 彼は白い息を大きく吐き出すと、シャベルに力を込めながら続きを回想する。


「……俺は鬼になったつもりで追い回し続けたよ。土砂降りの雨の中、ヤツは必死で逃げ続けた。正直、急所を思いっきり殴られたヤツのどこにそれだけの底力が残ってたのか不思議でならなかった。俺は、大人の男のタフさを甘く見てたんだ」


「事前に思い描いてた計画からは大きく逸れ始めてしまっていた。本来なら、どこかでそれを修正する必要があったんだけど……その時の俺はもう無我夢中だったから、後のことまでは頭が回ってなかったんだ。とにかく、目の前の男を仕留めないと……。こっちもそんな風に必死だったよ」


「結局、どれだけ追いかけ回したのかは今でもよく覚えてない。記憶がはっきりしてるのは、ヤツの後を追ってある公園の敷地へ入ってからなんだ」


「つまり、その公園っていうのが……」


「ああ。豊ヶ丘の森――この公園のことさ。ヤツはさっき俺たちが辿ったように、そのまま小山にかかる長い階段を一目散に駆け上り始めた。そして、それは嬉しい誤算でもあったんだ」


「時刻は真夜中でなおかつ大雨だったとはいえ、都道には当然車も走ってたし、歩道では傘を差した人たちの姿もいくつか見かけた。ヤツが人に助けを求めたのなら、さすがに俺もそれ以上手出しすることはできない。でも、この公園なら人目はないって確信することができた。追撃するならここ以外ないって……。俺はすべてを終わらせる覚悟を決めた」


「頂上まで登り切ったヤツは、頭を必死で庇いながら雑木林の中へと入っていったよ。多分、そこなら撒けるって思ったんだろうな。だけど、俺の方が一枚上手だった。斜面を利用して俺は滑るように先回りを仕掛けると、運よくそいつの前に躍り出た」

 

 将人はそこで一息吐くと、土を掘る手を止める。

 そして、視線を再びこちらへ向けて、ゆっくりとこう口に出すのだった。


「それで終わり。デッドエンドだ」

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