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桜色の街で ~ニュータウン漂流記~  作者: サイダーボウイ
第2部・少年調査官編 4月7日(日)
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第33話 一石二鳥の作戦って?

 羽衣駅に到着した哲矢とメイは、そこからモノレールに乗って桜ヶ丘プラザ駅を目指す。

 当然、車内でもメイは目立って仕方がなかった。


「なにあの人Instantgrapher?」


「モデルじゃね?」


「いや、女優っしょ」


 どうやら周りの乗客たちはメイのことが気になって仕方がないようだ。


「隣りの男誰よ?」


「彼氏……とか?」


「いや冴えない顔してるし。ただの付き人なんじゃない?」


 いくつか聞き捨てならない言葉を耳にするも、哲矢はなんとか平然を保ってその場をやり過ごす。

 車両は終点のホームへと到着し、桜ヶ丘プラザ駅に降り立ってからもそのちょっとしたフィーバーは続いた。


「あっマネージャーさん! 写真いいっすか!」


 今度は中学生と思われる男子の集団に写真をせがまれる。


(なんだよ。マネージャーって……)


 だが、メイはそんな哲矢の思いなどまったく構うことなく、指をさしながら命令してくるのだった。


「撮ってあげなさい」


 少しイラッとする哲矢であったが、男子たちが差し出すスマートフォンを受け取ると黙ってそれに応じることにした。


「ありがーっす!」


 写真を確認すると彼らは騒ぎ立てながら帰っていった。


「はぁ……困ったものね。SNSにアップされたりしないかしら?」


「そんな心配するなら最初から断れよ」


「無理よ。向こうからお願いしてくるんだから」


 どうしても有名人のふりがしたいらしかった。

 まあこの容姿なら仕方ないか、と哲矢は思う。


 クラスメイトの反応がおかしいのだ。

 普通、メイを目の前にしたらこういう反応になるのが自然である。

 そんなことを哲矢が考えていると、メイは再び取り巻きに囲まれ始めていた。


「だあぁぁっ~~!!」


 周囲を囲んでいる若い野次馬を哲矢は無理矢理引き剥がしていく。


「帰ってください! スマホの撮影も禁止ですっ!」


 そう柄にもなく声かけする哲矢であったが、煙たがられるだけでまったくその効果はない。


「なにこいつ?」


「ウザっ……ってか邪魔じゃん」


「付き人のくせに偉そぉにしてんじゃねーよ」


 メイもメイでそんな若者たちにファンサービスしているから余計たちが悪い。

 宝野学園も近いこの駅のデッキでこれ以上目立つわけにはいかなかった。

 哲矢は強引にメイの手を取ると、交番の近くまで彼女を連れ出す。


「ちょっちょっと……! 急にどうしたのよ!?」


「本来の目的を忘れてないか? 川崎さんに会いに行くんだろ」


「ちぇ……せっかくいいところだったのに」


 とても渋い顔で舌打ちされる。


「とりあえず、サングラスは外してくれ。それを掛けていると勘違いされる確率が高い」


「こんなの日常アイテムじゃない」


「日本じゃサングラスってあまり使わないんだよ。特に俺らくらいの年齢で掛けてる子はほとんどいないんだ」


「なんか窮屈ね、日本って」


 メイは嫌々ながらといった感じでサングラスを外す。

 さすがに交番の前で騒ぐわけにはいかないと野次馬も分かっているのか、しばらくその場に留まっていると彼らも諦めて散っていくのであった。


「それで? プラザ駅まで来てどうするつもりなんだ?」


「聞き込みをするのよ」


「は? なんのために?」


「それが私たちのウィークポイントだから」


「ウィークポイント? ちょっと待て。川崎さんに会いに行く話はどこいったんだ」


「だからさっき宿舎で言ったでしょ? ここで一石二鳥の行動を取るのよ」


「全然意味が分からないんだが……」


「つまりね。道行く人に聞き込みをしてハナの居場所を知らないか訊ねていくの」


「いくらなんでも原始的方法すぎるっ!」


 とはつっこみつつも、哲矢は彼女が何を言おうとしているかを理解していた。

 今後事件の真相に迫るというのなら、こうやって足で情報を得ていく必要がある。

 ここで人見知りを克服しようと彼女は遠回しに提案しているのだ。


 宝野学園の生徒は例外を除いてほとんどがニュータウンで生活を送っている。

 一日この街で聞き込みを続ければ、そのうちクラスメイトの誰かと出会うかもしれない。


 自分たちの弱点克服もでき、花の居場所も分かりと、メイが言うようにまさに一石二鳥の作戦と言えた。

  

(強引に納得したようなところもあるけど……)


 ただ今の自分たちにはとても理に適った問題解決方法である、と哲矢は思った。

 

 すると、途端に現実感が押し寄せてきたのか。

 哲矢の脚は無意識のうちに少しだけ震え始める。


 それを見てメイは珍しく心配そうに声をかけてきた。


「嫌だったらやめるけど」


「いや……」


 ここで怖気づいていては男ではない、と哲矢は考える。


(大丈夫……きっとできるさ)


 これは克服しなければならない試練なのだ。

 哲矢は心の中で強くそう唱えると、メイの顔を真っ直ぐに見ながら答えた。


「やろう」


「……そう。分かったわ。それじゃ手分けして聞き込みを始めるわよ。その方が効率いいから」


「分かった」


 こうして二人による聞き込みが開始されることとなった。




 ◇




 先ほどの騒動もあったため、駅から少し離れた場所で聞き込みを行おうという話になる。


「私はあっちのマンション一帯を担当するわ。テツヤはこの辺りをお願い」


 何か分かった場合はスマートフォンで連絡を取り合うということを決め、一度その場で解散することになったのだが……。


「これ」


 その時、哲矢はメイにスマートフォンを差し出される。


「なんだ?」


「電話よりLIKEの方が楽でしょ? これよく分からないから登録してよ」


 デジタルネイティブのくせに珍しい。

 哲矢は彼女のスマートフォンを受け取ると、ホーム画面をスワイプしてLIKEのアプリを探す。


 壁紙はシンプルな猫のイラストだ。

 やっぱり猫が好きなんだな、などと思いながらLIKEを探していると、気になるアプリを見つけてしまう。

 デフォルメのマッチョな男がウインクしたアイコンがそこにあった。


「…………」

 

 メイに気づかれないようにそっとそのアプリを哲矢はタッチする。


 『ギャアアァァッッ~~~~!!!』


 奇声とともに突然ホラーゲームが起動した。


「フッ、かかったわね」


「ちっ……」


 などと余計な時間を浪費している暇はもちろんないわけで。


「――終わったぜ」


 LIKEの登録を終えてメイにスマートフォンを返却する。

 彼女は黙ってそれを受け取ると、キャペリンハットを翻しながらマンションが建ち並ぶ方角へと向けて去っていった。


「やっぱ目立つなぁ、大丈夫かな」 


 彼女が変な輩に絡まれないことを祈りつつ、哲矢は辺りの散策を開始するのだった。

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