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第314話 とにかく今は

 いつの間にか夜空には、どんよりとした厚い雲が現れていた。

 哲矢は先ほど洋助が口にしていた言葉を思い出す。


(この後、急に天気が崩れるか……)


 今のうちに探し出さないと後々面倒なことになるかもしれない、と哲矢は思う。

 都道を走る車のライトを目で追いながら哲矢は早歩きを続けた。

 すると――。


 バコン!


「痛っ……てぇぇっ~!?」


 背中に何かがぶつかり、思わず振り返って哲矢は声を上げる。


「なにすんだよ!?」


 足元には木片が落ちていた。


「早いっ! 歩くのが!」


「だったら、口で言えばいいだろーが!」


「……ホント、うっさいわね! childish!」


「……ッ、ちゃ……」


 メイはそう吐き捨てると、哲矢を越えて先に歩き始めてしまう。

 かなりご立腹な様子である。


 だが、そんな彼女の態度を見て、安堵したこともまた確かであった。

 先ほどまであった微妙な空気が一気に消えてくれたからだ。


「おいっ待てって」


 哲矢はメイの背中を追いかける。

 それから彼女の機嫌を直すのに哲矢は暫しの時間を要した。




 ◇




「――んじゃ、とりあえず、この後どうするか決めようぜ」


 気を取り直すと、哲矢は改めて今後の予定をメイと話し合うことにした。

 今二人は第六区画の端を沿うようにして歩いており、幹線道路を挟んだ向こう側は隣町の忠生市との境であった。


 近くに見えるのは、若い夫婦に向けて作られたであろう比較的新しめのマンションばかりで、将人のイメージに合うような場所は今のところ見当たらない。

 それらの建物に目を向けながら哲矢は口にする。


「さっきも言ったけど、この第六区画には新しく建てられた建物が多い。六つの区画の中で多分ここが一番整備されてると思うんだ」


「それがどうかした?」


「さっき、将人はイメージする場所のことを〝団地からはそこまで離れてなかった〟って言っただろ? つまりさ。限られた時間で探すにあたって、団地自体が少ないこの区画を重点的に回っても、将人のイメージする場所を見つけられる確率は低いって思うんだ。それに、もうほとんど四人で探したと思うし」


 小山の公園、周りにはたくさんの木、比較的長めの階段……。

 それらすべてに合致する場所はこれまで見つかっていない。


 この4年の間にマンション建設のために整備されてしまったという可能性も否定できなかったが、そんなことを考えていたらそれこそ探しようがないと言えた。


 とにかく……と、哲矢は思う。


(時間が全然足りないな)


 自分で提案しておいてなんだが、二つの区画を一時間にも満たない時間で回り切ることもまた不可能に近かった。

 ならば、やはりどちらかを削るしかない。


 本来なら、こんな荒削りな方法は選びたくなかったが時間がない以上仕方がない。

 仮にそれで見つからなくても、他の四人が何か発見することだってあり得るのだ。

 哲矢は改めてメイに切り出す。


「……だから、第六区画は捨てて第五区画をメインに探そう。その方が少しは見つけられる可能性が高くなると思うから」


「なら、今回は公園を中心に見て回るべきね。マップアプリを使えば少しは効率的に探せるでしょ」

 

「ああ、そっか。なるほど」


 そんな単純なことも哲矢はすっかり忘れていた。

 確かに、キーワードの中に【小山の公園】というものがあるのなら、その場所に絞って探せば先ほどのように無闇に歩き回る必要もない。


「ここから近い第五区画の公園は……」


 いつの間にかメイはマップアプリを立ち上げていた。

 哲矢も一緒に彼女のスマートフォンを覗き込む。


 どうやら第五区画には、大小合わせて10ヶ所の公園があるようだ。


 第六区画にも公園はいくつか存在したが、そのほとんどはこれまでの通り道にあったもので、もし目ぼしい場所を見かけたのなら将人がすでに反応しているはずであった。

 第六区画は省いて問題ないと哲矢は確信する。


「……この出っ張った箇所は? すごく大きな公園があるけど」


「そこはニュータウンの外だな」


「なら……やっぱり、第五区画にある公園は10ヶ所ね」


「よし。ひとまず、第五区画を目指そう。どの公園から回るかは着いてから考えようぜ」


「ここからだとこのまま歩いた方が早いかしら」


 二人はそのまま幹線道路沿いを進み、第五区画を目指すことにする。

 徒歩で15分ほどかという距離であった。

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