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第312話 仕切りたがりな彼

 それからすぐに哲矢たちは小さな公園を後にすると、一度歩道橋の辺りまで戻り、近くの階段から都道に面したバス停の待合所へと移動する。

 そこで改めて四人は今後の予定について話し合うこととなった。


 哲矢が腕時計を全員に見せながら口にする。

 時刻はあと10分ほどで22時になろうとしていた。


「ここでもう一度タイムリミットを設定しよう。制限時間はさらに追加して一時間。23時にしたいと思うんだけどどうかな?」


 先ほどの洋助の言葉にあった通り、それ以上外出を続ければ、都の青少年保護育成条例により補導されてしまう。

 一応、将人は18歳で成人の年齢であったが、一時的に鑑別局から出てきている身のため、哲矢たちよりも立場は危ないと言えた。


「ええ、それでいいわ」


「23時までだね」


 特にそれに関して異論はないようであった。

 哲矢は花の方に向き直ると、彼女が手に持つスマートフォンを指さしながら口にする。


「ちょっとマップアプリ開いてくれないか?」


「ん、いいよ」


 皆で花のスマートフォンを囲むと、哲矢は桜ヶ丘ニュータウンの地理について説明する。

 この街で暮らして3年目となる花はもちろんそのことはよく分かっているはずなので、哲矢は主にメイと将人に向けて話した。


「いいか、このニュータウンは大きく分けて六つの区画に分けられてるんだ。中沢駅と戸建ての住宅街が中心の第一区画。宝野学園のある第二区画。ニュータウンの初期に建設された団地が点在してる第三区画。プラザ駅と中央公園がある第四区画。中期に建てられた団地や廃校が密集してる第五区画。そして、瓜生駅と新興のマンションで占められる第六区画。この全部で六つだ」


 哲矢は、一つ一つのエリアの地図を指先で示しながら説明する。

 続けて瓜生駅から直線に1kmほど南下した辺りで点滅しているポイントを指さした。


「俺たちが今いるのはここ。第六区画の端だ。この場所からすべての区画を時間内に回るのは現実的に考えてもムリだと思う。そこで、少しでも目的の場所を見つける確率を高めるために、分散して探すことを提案したいんだけど、どーかな?」


「いいんじゃない? 効率的な案だと思うわ」


「俺もそれいいと思う」


 メイと将人が賛成の声を上げる中、花は少しだけ不安そうに声を漏らす。


「でも、一人で探すのは……ちょっと怖いかも」


「大丈夫。二人一組になるよう組むから。さすがにこの時間に女子を一人で歩き回らせるわけにはいかないし。もちろん、男女のペアにするよ」


「ふーん……」


「な、なんだよ」


「べつに」


 意味深に目を細めるメイの視線は気になったが、それで花も納得してくれたようなので哲矢は話を先に進めた。


「そこで問題となるのが受け持つ区画の数だよな。男女ペアの二組に分かれたところで一組あたり三つの区画を見て回らなきゃならん。これもふつーに現実的じゃない」


「だったらどうするのよ」


「……人員を追加する以外ないと思うんだ」


「人員って……まさか、哲矢君。追浜君たちにまた声かけるつもりなのかな?」


「いや、それはさすがにあいつらに悪い。さっき別れたばっかなのにまた呼び戻すことはできないよ」


「じゃなに? ヨウスケとミワコにでも協力を要請するわけ?」


 おそらく、メイは冗談半分でそう口にしたのだろう。

 この場にいる誰もが彼女が真面目に言っているとは捉えていなかった。

 ある一人を除いては――。


「いや~よく分かったな!」


「は? ホンキで言ってんの?」


「正直に風祭さんたちに話すんだ。あと一時間だけ探索を延長したいって」


「ムリよ絶対。強引に連れ戻されるのがオチだわ。このままなにも言わずに探し始めた方がいいに決まってる」


「フフッ、分かってないな、メイ。風祭さんたちが気にしているのは、俺たちがまた警察の世話にならないかってことと、今日中に将人を百草の自宅へ戻さなきゃってことだけだ。この二点さえ守ってれば口うるさく言ってこないよ。つまりさ。なにがあっても補導される23時までには引き上げることを条件にすりゃこっちの願いも聞いてくれるはず」


「またあんた、テキトーなこと言って……。本当に上手くいくんでしょうね?」


「大丈夫、絶対に俺が説得してみせる。将人もそれでいいよな? それ以上はどう足掻いてもムリだぞ」


「……分かった。それでよろしく頼むよ」


「うっし! そんじゃメイ、スマホ貸してくれ」


「ったく……」


「さーて。どう切り出すかな」


 メイから受け取ったスマートフォンを片手に頭を捻らせる哲矢の様子を将人は新鮮な表情で眺めていた。


「哲矢……結構、しっかりしてるんだ」


 将人が感心したように言葉を漏らすと、隣りに立つメイは若干呆れ気味に、「しっかりしてるっていうか、ただの仕切りたがり屋なのよ。コイツは」と小言を口にする。


「そだね……んふふ」


 花もすでに哲矢の性格を十分に理解しているためか、メイのその言葉に思わず笑みを零すのであった。

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