第七話【慶長↔令和】
「拓海殿」
「ん? 何?」
「少々話を聞いて頂きたいのだが」
「話? 別にいいけど」
先程とはうってかわって、真剣な表情を浮かべるムサシ。なんだ? そろそろ設定疲れがピークに達したか?
「本日は慶長十七年、四月十三日でござるか?」
「……慶長? いや、今日は令和◯年の四月十三日だけど?」
はっ!
唐突に思い出したぞ。今から約四百年前、宮本武蔵は舟島、後の巌流島にて佐々木小次郎と決闘を行い、勝利をおさめる。それが今日の日付、四月十三日なのだ。
風呂嫌い……箸の二刀流……そして巌流島決闘の日付……もしかして……?
お茶を一口飲み、唇を湿らせると、恐る恐る質問した。
「あ、あのさ。もう一度確認するけど、君は本当に宮本武蔵なの?」
ムサシは凛とした表情で俺を見返した。
「如何にも。我が名は宮本武蔵。二天一流なり」
その言葉を聞いた瞬間、彼女は本物の宮本武蔵なんだと、俺の本能が確信した……気がした。
正直、上手く言い表せないのだが、これまでの彼女の言動、行動、そして纏うオーラが異次元過ぎるのだ。
「わかったよ。信じるよ」
とりあえず……だが。やはり、百パーセント信じられる訳は無い。だって、見た目があまりにも可愛くて、可愛くて。幕張メッセ行ったら囲まれるの必至の有名コスプレイヤーにしか見えないもん。
「拙者はどうやら異なる場所、慶長では無い時代に迷い込んでしまったのだな。そして何らかの理由で女体となった」
意外すぎる程冷静な分析だ。もしもこれが一介の侍だったら、恐らく大パニックになっているに違いない。天下無双と呼ばれた剣豪だからこそ、こんなにも落ち着いた態度でいられるのだろうか?
「とはいえ、こうなってしまっては是非も無し。『郷に入れば郷に従え』でござる。拓海殿、慶長からこの時代に至るまで、世の中の経緯を知りたいのだが、何か文献はお持ちでござるか?」
「文献……う~ん」
どうやらムサシは自分の置かれた現状を受け入れている。そして、慶長から令和までの歴史を知りたいと。何という環境対応力、感服するぜ。さて、どうしたものか。ウチは書庫があるから歴史に関しての資料は結構多い。何冊か選りすぐって読んでもらうか?
いや、待てよ。
その時、俺の頭の中のエンタメゲートが開いた──
「せっかく令和に来たんだし……ねぇ、ムサシ」
「何でござろう?」
「俺の部屋へ行こう」
ムサシちゃん@天下無双娘は平日は朝7時、土日はお昼の12時に更新します。
よろしくお願いします。