表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/47

第四話【異臭】

 宮本武蔵と名乗る少女を保護(?)した俺は、何とか自宅まで連れ帰る事が出来た。

「ここが拓海殿の屋敷でござるか。何と立派な」

「あ、さっきも言ったけど、一応ウチ、道場経営してるから」

「道場とな?」

 俺の家は代々続く新陰流の分家で、師範代のじいちゃんが弟子達に剣術を教えている。なので、建物自体は古いが結構デカイし、敷地も広い。まぁ、とはいえ、所詮古民家だからそんなに自慢出来るモノでもないけれど。

「じゃあ、とりあえずその釘木刀を庭へ……」

 少女にそう促すも、門に掲げられた看板に釘づけになっており、その場を動こうとしない。

「……柳生……新陰流」

 そう呟いた直後、なんと少女は突然ひれ伏し、俺に頭を下げた。

「え? ど、どうしたの?」

「拓海殿、貴殿は宗則殿の親族とお見受けした。そんな高貴なお方に命を救って頂き光栄でござりまする」

 光栄? 一体全体何がどうなって……あ。そうだ。そう言えば、史実では確か柳生石州斉は、武蔵の理想の人物だったって文献で読んだ事がある。

「いや……高貴って言ったって、別にそれは遠い先祖の話だし、俺は関係ないよ。とにかく、とりあえず家の中に入ろう」

 釘木刀を庭へ隠し、少女を母屋の中へ招き入れると、エプロン姿の母さんが出迎えてくれた。

「お帰りなさぁい、拓海くん」

「うん、ただいま」

 道中、スマホで家に電話をして、経緯を話したので、対応はスムーズだ。

「あらあら、この子が迷子になった女の子ね? さぞかしお腹が減ったでしょうに。もう少しで食事が出来るから、先にお風呂へ入ってきなさいな」

 母さんには、「迷子になった小さな女の子を保護したから連れて帰ってもいい?」とシンプルに聞いただけだった。

「それは大変、すぐに食事の用意をするわね」

 返答はその一言だけ。母さんは困った人が居たら助けずにはいられない、超が付くほどのお人好しだ。

 お風呂という言葉を聞いた瞬間、少女は動きを止めた。

「…………う」

「どした? 案内するから風呂入ってこいよ」

 そう言えば、確か武蔵は大の風呂嫌いで、行水すらまともにした事がないって聞いたことがあるな。てゆーか、さっきから牛乳を拭いた雑巾を夏休みの間、ロッカーの中に放置したかのような臭いがずっとしていたんだが、臭いの発生源はコイツだったのか。見た目が可愛いから、そんなはずはないと、勝手に思い込んでいたのだが。

「…………」

「なぁ、その臭いはヤバいって。風呂入った方がいいよ」

 少女は下を向いて沈黙を続ける。その感じ、とても可愛くて俺好みだが、耐え難い臭気は玄関に充満し始めている。

「あらあら、一人だと心細いのね。じゃあ、私と一緒にお風呂入りましょう、ね?」

 母さんは無言の少女の手を取り、風呂場へ連行していった。流石に仕事が早い。 

 一時間後──

 居間でテレビを見ていると、母さんと共に少女が戻ってきた。

「ハイ、綺麗になったわよ。拓海くん、ムサシちゃんをヨロシクね」

 おお、スゲーピカピカになってんじゃん。つか、風呂場で自己紹介したのかな? 母さんは少女を『ムサシちゃん』と呼んだ。ならば俺もそう呼んでやるか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ