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第三十七話【テヘペロ】

「拓海様」

「は、はい」

「摩訶不思議な状況で、正直戸惑うばかりですが、一つだけ理解出来る事があります」

「そ……それは一体」

「この方……いいえ、このうつけ者が、舟島にて決闘を行うはずだった、宮本武蔵だということです」

 ……ですよね。

 女体化してるからワンチャンなんとかなるかと思ったけど、やっぱ分かりますよね。散々名前言うし、二天一流とか言っちゃうし。

「ここであったが百年……否、一ヶ月目。宮本武蔵、私と今すぐ立ち合え!」

「は? 何言ってんのこの子。突然ブチ切れて、どーしちゃった訳? てゆーかサラッとうつけ者とか言わなかった? アンタ、名前は?」

「私は巌流、佐々木小次郎なり」

「ふーん。よろしく」

 いや、「よろしく」じゃねーわ! おいおい、どうしたムサシ? すっかり現代に染まってしまって、元の時代の事を忘れちまったのか?

「宮本武蔵、さぁ! 今すぐ我と立ち合え!」

「あのさ、ガチで意味分かんないんだけど。舟島とか、立ち合えとか、佐々木小次郎とか。ん? 小次郎……はて? 何処かで聞いた事があったような、なかったような」

 いや、あるわ。お前の宿敵の名前ド忘れしてんじゃねーよ。困ったぞ。これは結構カオスな状態になってきた。うわぁ……めんどくさ。

「私は一ヶ月間、苦境と孤独に耐え忍び、貴様の到着を待ち続けた。にもかかわらず、決闘の事はおろか、私の存在まで忘却の彼方に追いやったというのか? 私は……私は、一体何の為に……」

 小次郎はうつむきながら嘆く。

 うんうん、そうだよな。

 辛かったよな。

 それに対し、ムサシはというと、腕組みをしながら懸命に思い出そうとしている。

「う~ん……誰だっけ?」

「ムサシ、マジで思い出せないのか?」

「もお! 話かけないでよ! 今、一生懸命思い出してるんだから! たっくんのうつけ!」

 結構ガチめの逆ギレ。うわぁ~、めっちゃ殴りてぇ~。勝てないけど。

「小次郎……決闘……巌流……あ! 思い出した! 巌流、佐々木小次郎だ!」

「だからそうだって言ってんじゃん。さっきからお前、話聞いて無いのかよ?」

 ようやく小次郎の事を思い出したムサシの表情は、爽快感に満ち溢れていた。

「いやー、やっとスッキリしたよぉ。そうそう、確か決闘約束してたよね~。何せ、一ヶ月で四百年分の歴史を頭の中に詰め込んだ訳だから、そんな小さな約束忘れちゃってたわ。アハハハ、ごめんねっ!」

 頭をコツンと叩き、舌をペロリと出すムサシ。おいおい、テヘペロ程度じゃ済まない事だぞ。

 そんな傍若無人ぶりを見事に食らった小次郎は、体を小刻みに震わせている。


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