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第三十五話【佐々木小次郎】

「……あの。差し支えなければ、貴殿の名をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「あ、はい、俺は柳生拓海です」

「柳生……もしや新陰流の?」

 ムサシと同じ反応だ。こういう時、ネームバリューがあるとスムーズで、何かと便利だな。

「小次郎……さん。一つ、質問してもいいですか?」

「はい、何なりと」

「もしかして、もしかしてですよ? あなたは舟島付近で、高波に飲まれましたか?」

 そう質問した瞬間、小次郎は驚愕を顔に貼り付けた。

「何故……その事を? 拓海様、貴殿は易者……いや、もしや妖術使いなのでしょうか?」

 うん。取り乱す美人もなんかいいな。

 もう少しだけパニクる小次郎を見たかったが、可哀想なので簡単に状況を説明をしてあげた。

「そうだったのですか。時を、私は時を超えてしまったのですね。そして、何らかの理由で女体となってしまった…………」

 小次郎は多少動揺しているものの、俺の説明をすんなり聞き入れた。この辺りは流石大剣豪、肝が据わっている。

「所で小次郎さん。何かこう、武器? みたいなモノをお持ちではないでしたか?」

「武器? 刀の事でしょうか? はい、帯刀しておりました。恐らく……」

 小次郎は例の如くゴミ箱の方へ向かった。そして、手を突っ込むと、何かを引っ張り出した。

「うお……」

 小次郎が持ってきたモノ、それは通称物干し竿と呼ばれる長身の刀、備前長光だった。

 長い。史実に記されている長さよりもさらに長い刀だ。物干し竿と呼ばれたのも頷けるな。

 さて、うん、さて。

 とにかく小次郎とこの凶器を、こんな公衆の面前にいつまでも晒している訳にはいかない。

「あ、あの、小次郎さん。もし、よろしければ、俺の家に行きませんか?」





『人生とは驚きの連続である』

 なんて、どこぞの哲学者がつぶやきそうなフレーズが頭の中に浮かんできた。家までの道中、小次郎は俺にこれまでの経緯を話してくれた。

 舟島、いわゆる巌流島にて、宮本武蔵と決闘を行うため待っていた所、いつまで経っても来る気配すらないので、釣りをして(備前長光を竿代わりに)食料を調達しながら、何とか一ヶ月、武蔵を待ち続けたらしい。

 何という忍耐力だろうか。普通ならば、「臆したか武蔵! 我の勝利なり!」だのなんだの、勝どきでも上げてさっさと本土に帰るだろうが、小次郎は一ヶ月の間、宮本武蔵を待ち続けたのだ。そして、流石に異変を悟ると、本土に戻る決意をした。しかしその最中、高波に飲まれて気づけばコンビニの駐車場に横たわっていたと。

 そんな経緯をちょうど聞き終えた頃、家の前に到着した。


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