表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/47

第三十四話【来ちゃった】

 嘘だろ? マジで? いや、さすがにそれはないって。

 そう言い聞かせるも、目の前の事実は揺るがない。白い足が二本、コンビニのゴミ箱から突き出ている。

 えっと……よしよし、落ち着けよ、落ち着けよ、俺。冷静さを失うな。

「これはもしかして、デシビュ……痛っ!」

 舌を噛んだ。どうやらすごく動揺しているみたいだ。デジャブ? デジャヴ? どっちかよく分からないが、とにかくこれはあれだ、俺の憶測通りならアレ以外はない。

 いや待て――そんな都合よく来るか?

 頭を冷やせ、俺。パラレルな展開とは限らないじゃないか。もしかしたら、今度こそ猟奇殺人の犠牲者になった被害者のご遺体かもしれない。

 しかしだ、カオス理論に基づいて考えると、


『あり得ないという事は、あり得ない』

 

 よし、まずは生存確認、第一フェーズだ。

 とりあえず声を掛けてみる。

「すいませ~ん」

 当然反応なし。じゃあ早々に第二フェーズへ。人差し指を近づけ、軽くつついてみた。

 おお……なんてもち肌。もっちもちじゃないか。

 ムサシよりも柔らかく白い肌。おっと、そんな感想よりも指先に温もりを感じたので、 死んではいないはず。うん。

 しかし、反応がないので、第三フェーズへ移行。一度経験しているから、段取りもスムーズだ。デコピンの要領でピシッと軽く太ももを弾いた。すると二本の白い足は、ビクンと反応を示した。よし、生存確認完了。

 ふぅ、軽く汗ばんだぜ。さてさて、う~ん……これはどうすべきだ? ムサシよりも長い足。流石に引き抜くのはちょっと無理っぽい。

 しかし、長い足だな。俺よりも背が高そうだ。両腕で抱え込むように白い足を持った。

 すべすべだ。なんて瑞々しい肌なんだ。

 そんな煩悩と共に、ゆっくりとゴミ箱の中から白い足を引きずり出すと、目の前に白い純白のふんどしが姿を現した。

 むぅ……ムサシの時は赤だったよな。

 ここまできたら、否が応にも期待してしまう。何とかゴミ箱から引っぱり出した。

「おお……」

 出現したのは、スラリとした四肢、黒髪が美しいロングヘア。そして、人形の様に美しい顔立ち──コイツはもう鉄板でしょ?

「う……ううん…………」

 黒髪美人が気がついた。

「だ、大丈夫?」

 そう声をかけると、彼女は上体を起こした。

「こ……ここは?」

 う~ん……ここはって言われても、どう説明すればよいものか?

 悩んでいると、キュルルル~という可愛らしい音が聞こえた。

「お腹空いてるの?」

「…………」

 彼女は無言で恥ずかしそうに頷いた。

「ちょっと、待って」

 ビニール袋の中から、サンドイッチを取り出した。

「これ、食べる?」

 彼女は手に持ったサンドイッチを凝視する。

 おっと、そうだった。ムサシ同様、開け方が分かんないか。

 包装材からサンドイッチを取り出してあげた。

「これ、サンドイッチという食べ物だよ」

 サンドイッチは慶長には当然無いからな。もしかしたら食べないかも……。

 そんな懸念をしていたら、彼女の口元から一筋のよだれが垂れた。どうやらサンドイッチを食べ物として認識しているようだ。

「じゃあ、はい」

 サンドイッチを手渡したが、暫し見つめる。まだ警戒しているのだろうか? しかし、それも空腹には耐えきれず、サンドイッチをはむっと頬張った。

「────っ!」

 その瞬間、目が輝いた。後は無我夢中でサンドイッチを食べ進めた。

「……ん!」

 動きが止まった。胸をドンドンと叩いている。はいはい、喉に詰まったんだね。コーラはムサシのお土産だから緑茶を開けるか。

キャップを外して緑茶を手渡すと、ゴクゴクと一気に緑茶を飲み干し、至福の表情を浮かべた。うん、分かるよ。俺も緑茶に命を救われた身だからね。

 サンドイッチを食べ終えると、彼女は正座し、俺に向かってお辞儀をした。

「とても、おいしゅうございました。貴殿は命の恩人にござります」

 丁寧で上品な語り口調だ。おしとやかというか、気品があるというか。とにかく、ムサシとはまるっきり正反対の印象だ。

「あの、そんなにかしこまらなくてもいいですよ」

 そう告げると、彼女は顔を上げた。

 うおっ! なんだこれ。

 人は驚きを超えると安心するのだろうか? 

 彼女の顔を見た瞬間、言葉に出来ない多幸感に包まれた。美しい黒髪に美しいまつ毛。美しい白い肌に美しい鼻筋──そう、全てのパーツがまるでガラス細工の様に輝きを放っている。これはもう、絶世の美女と表現する以外の表現がみつからない。

 彼女はしばらく俺の目を見つめていたが、すぐにはっとして姿勢を正した。

「申し遅れました。私は小次郎、佐々木小次郎と申します」

 うおおお! 来ちゃった!

 小次郎、来ちゃったよ!

 正直、もしかしたら来るのかも? と心のどこかで少しだけ期待はしていたが、やっぱり来ちゃった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ