表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/47

第三十話【恋するじじい】

いつもムサシちゃんを読んでくださってありがとうございます。この作品が皆様にとって、カキピーのピーナッツみたいな存在でありますように★★★★★


「……は? おいおい。本当に大丈夫か、じいちゃん」

「あの強さ、単なる宮本武蔵のコスプレイヤーではない。拓海、ワシには本当のことを話せ」

 急に真剣な眼差しになったな。どうやら正気の様子だ。信じてくれればいいけど……。

「わかったよ。本当のことを話すよ。この子は、ムサシは四百年前からタイムスリップしてきた本物の宮本武蔵なんだ」

 俺は今日までの経緯を話した。

「……なるほどの。そりゃあワシみたいな一介の剣士が敵う訳がないのぉ」

 意外な事に、一切の疑念を持つ事なく、そこで健やかな眠りにつく女の子が、宮本武蔵であると信じた。

「じいちゃんがこんなにもすんなりと受け入れるとは思わなかったな」

「ほっほっ。ワシはムサシたんと立ち合っているからの。最初の試合、二天一流の構えを披露した時に、異質な闘気を感じた。今まで、一流と呼ばれる剣士を数多く見てきたが、そのどれとも違っておった。あの闘気は歴戦の真剣勝負を制して来た者だけが放つ事が出来る本物の闘気なんじゃろう」

 じいちゃんの見解を聞いた瞬間、鳥肌がたった。流石は柳生新陰流師範代を務めてきただけの事はある。

「でもさ、そこまでムサシの実力を分かってて、立ち合った時、怖くなかったの?」

「ふぉっふぉっふぉっ。正直ちびりそうじゃったわい。じゃがの、弟子たちの眼前で逃げ出すことは出来んからの。ムサシたんに竹刀を手渡した時、腹を括ったわい。ワシは、この試合で命を落とす事になるとな」

「……マジか。じいちゃんがそんな状態だったなんて。じゃあさ、ムサシがゴボウのままだったら、もしかしていい勝負になってたんじゃない?」

「何を言う。ゴボウどころか、菜箸でも勝てる気などせんわ。そうじゃな……つまようじであったのなら、何とか五分ぐらいは耐えられたかも知れんの。して、拓海よ。そんな話よりも、もっと大切な事をしなくてよいのか? お前さん、寝顔を見に来たんじゃろ?」

「そう……だけど。でも、やっぱりいざとなると……」

「情けないのぉ。それでもワシの孫か? 見てみよ、こんなに明かりを煌々と灯して、普通に会話しておるのに起きる気配がまるでなかろう。これはお前の分析通り、ムサシたんが一度眠ったら朝まで起きないことを立証しておるんじゃ。つまり今はパラダイスタイムなんじゃよ」

 確かにムサシは完全に熟睡している。これはある意味、史実には記載されていない、大剣豪の知られざる一面を発見してしまったと言えるかもしれない。

 しかし、これだけ熟睡してて、これまで寝込みを襲われた事はないのだろうか? よほど運が良いのか、それとも……。

「さて、では可愛い寝顔をじっくりと見ようではないか」

 そう言うと、じいちゃんは壁側に向いているムサシの身体を、ゆっくりとこちら側に向けた。

「おお、素晴らしいのぉ。まるで天使じゃ」

 ヤバイ。これはヤバイ。普段は勿論可愛いが、寝顔はその倍増しに可愛い。

「……ん」

 寝息と共に漏れる声が、俺の心拍数をさらに上昇させる。長いまつ毛、ぷるぷるの肌。これはあれか、プリンですか?

 無防備なムサシを至近距離で見つめていると、「さて、拓海よ。寝顔だけでよいのか?」とじいちゃんが悪魔のささやきをしてきた。

「よいのかって、俺の目的はもう……」

「青いのぉ。拓海よ、せっかくのチャンスじゃ。素直になるが良い」

 見透かされている。

 確かに俺は彼女の寝顔を見るというミッションを果たした。にもかかわらず、部屋から立ち去るという行動に移行できずにいる。

 それは何故か。

 視線が当初の目的だった寝顔から、二つの膨らみに移動しているからだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ