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第二十六話【キュンです】

「のぉ、ムサシたん。あんた本当に強いのぉ。強すぎて、尊いわい」

 おお……ジジイのくせにヲタ用語の定番、『尊い』を使ってきやがった。さすがは高齢ネット中毒者だ。

「だがの、ワシもこの柳生新陰流の看板を背負う身じゃ。これで戦ってはくれんか?」

 そう告げたじいちゃんは、ムサシに新品の竹刀を二本差し出した。

「ゴボウだから面白いんじゃ~ん。そんな普通の竹刀使っても映えないよ?」

「喝っ! 黙れ小娘! さっきから黙っておれば、神聖なる道場でふざけたことをしくさって。師範代のワシがそんなもので立ち合えるか!」

 おお、じいちゃんがキレた。最近流行りのキレる高齢者状態になってんじゃん。

「しょうがないなぁ。そんなに激オコしたら血管切れちゃうぞ? まあいいや。それで戦ってあげるよ」

 ムサシは渋々、といった表情で、じいちゃんから竹刀を受け取った。

「これより最終戦を行います。互いに礼」

 ゴボウから竹刀にスイッチしたムサシは、下段の構え。対するじいちゃんは中段の構えを取り、ムサシをじっと見据える。

 血は薄いながらもじいちゃんは柳生石舟斎の子孫だ。史実によると、武蔵は慶長十年、江戸で柳生家の家臣の二人と試合をして勝利をしているものの、結局、柳生の血筋との試合は果たせなかったらしい。と……言う事は、この令和で武蔵vs柳生家が実現されるってことになる。それはそれで感慨深いな。

 スマホを持つ手に汗が滲んできた──

 どっちだ?

 どっちから仕掛ける?

 息を飲み、勝負の行方を見守っていると、「のぅ、ムサシたん」とじいちゃんが話しかけた。

「お主も宮本武蔵のコスプレイヤーなら、柳生家のことは知っておろうな。柳生石舟斎が生み出した新陰流は、治国平天の剣と呼ばれ、国を治める兵法として、その地位を築き上げてきた。人を殺めまくっていた宮本武蔵とは真逆の剣なのじゃ。新陰流兵法の要はまぼろし。これは千変万代する状況に応じて、心も身体も円転自在。流れる水のように転化し、止まない境地のことじゃ。新陰流が天下の剣として地位を得たのは、この兵法によって時代を先取りしたからと言っても過言ではない……武器で相手を倒す殺人剣ではなく、技を磨いて武士としての内に秘めるべき強靭な精神を養う、人を生かす活人剣。つまり、人を斬らぬが柳生の――ごべ!」

 ええぇぇッ――!?

 話の途中、ムサシは何の前触れもなく、じいちゃんの喉に突きを炸裂させた。じいちゃんは後方へ二メートル程吹っ飛び、床を転がってそのまま卒倒した。

「……あのさ、話が長いってば。現代の若者は、イントロの長い曲は聴かないっつーの!」

 勝負あり。

 俺はスマホの撮影をしたまま、じいちゃんに駆け寄った。仰向けで白目をむき、口からは白い泡を吹いている。なんとも……ベタなヤラレ方ではあるが、とりあえず息はあるから良しとしますか。

 じいちゃんの安否を確認して、スマホの画面をムサシの方に向けた。

 あんな所から吹っ飛ばした……って事だよね? これはもう、人間の力とは思えぬ怪力だな。いくら不意討ちだったとはいえ、じいちゃんが一撃で、しかもあんなに吹き飛ばされてやられた姿を、今まで見たことがない。

 俺はこの試合……いや、この道場破りによって、スマホのカメラに向かって両手で指ハートを作り、「キュンです♪」とポーズを決める可憐な少女が、四百年前からタイムスリップしてきた最強の剣豪、宮本武蔵本人であると、そう確信した。



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