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第二十五話【柳生権八郎、いざ参る】

 うつ伏せ状態で床に倒れた山田さんを目の当たりにして、他の門下生達も流石にザワつき出した。そりゃそうだよな、この道場で最強の門下生である彼が、小娘にゴボウでシバかれて、失神しちゃったんだから。しかし、これで他の門下生達も、ムサシが単に可愛い女の子では無いことを理解しただろう。

 ムサシは再び此方へ駆け寄ってきた。

「はいどうも~。第二試合も圧勝しましたぁーパチパチ。ね、ゴボウ侮れないっしょ? いざという時は、家にあるゴボウで、暴漢を撃退出来るよねっ♪」

 出来ねーよ。

 天下無双目線でコメントする彼女の饒舌は止まらない。

「てゆーかさ、ゴボウで大男をブッ倒すの、超気持ちいい! テンション爆上がりぃ! さてさてさて、次はラスボス柳生権八朗だぁ! 八十歳を越えたご老人だけどぉ、師範代だしぃ、やっぱ手加減しちゃうと失礼じゃん? なので、全力で仕留めたいと思いまーす♪」

 田中さんと山田さん、二人の剣士を瞬殺するだなんて、じいちゃんヤバくね? もしかしたら、今日がじいちゃんとの今生の別れになるんじゃね?

 でもまぁ、じいちゃんも剣に人生を捧げた武士(もののふ)だし? 最後の相手が天下無双、宮本武蔵なら、あの世で自慢出来るじゃん。良かったな、じいちゃん。

「でわでわぁ~、ラスボス討伐にいってきまぁ~す♪」

 ムサシははしゃぎながら二本のゴボウを持って、中央へ駆け出していった。

 じいちゃんにスマホのカメラを向けてみた。目を閉じ、蹲踞のまま瞑想を行っている。離れた所から見ると、一見、某ステルスアクションゲームのス○ークさんに見えなくもないが、近くで見ると大工の角刈り棟梁。遠目で八十点、近くで二十点と言った容姿だ。

 ま、俺もじいちゃんの血を受け継いでいるのだから、そんなにイケメンではない。しかしだ、大切なのは見た目じゃない。俺は剣の道を貫き通す、じいちゃんの背中を見て、色々な事を学んできた。 

 小学生の頃、イジメられていた時だって、じいちゃんの辛抱強さを知っていたからこそ、毎日持たされた数人分のカバンも、鍛練の一貫として耐え忍ぶことができたのだ。そのおかげで、俺は腕相撲大会で優勝することができた。それからいじめっ子達も一目置くようになり、いじめもなくなった。

『耐えて、耐えて、耐え抜けば、道も自ずと開く』

 じいちゃんが口癖のように言っていた。

 この言葉、一生忘れないよ。ありがとう、じいちゃん。

 俺は心の中で別れを告げた。

「双方前へ」

 審判が声を掛けると、じいちゃんは立ち上がり、ゆっくりと中央へ向かった。

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