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第一話 【宮本武蔵?】

 おい。おいおいおい。


 これは一体どーゆー状況だ?


 非常識過ぎて、これはもうホラーと言っても過言じゃないぞ。


 とりあえず冷静を保つ為に、購入したばかりのコーラを一口飲んだ。


「……ふぅ。さてと」


 まず、じっくりと考察してみるか。ゴミ箱に人が突き刺さっている……いや、ゴミ箱の中から足が出ているとも言えるな。断言は出来ないが、一つだけ確実なのは、コンビニのゴミ箱に八墓村状態の光景があるという事だ。生足で靴は履いていない。結構色白で、見た目からすると女性、女の子の可能性が高いな。


 考察を終えて、第二フェーズへと移行する。


 そう、生存確認だ。


突き刺さったままピクリとも動かない。事件性はありそうだが、ここは人命救助という名目で声を掛けてみる。


「すいませーん。大丈夫ですか~?」


 反応無し。仕方ない。


 ゴミ箱に近付き、人差し指で太もも辺りをツンツンとつついてみた。


「……」


 これも反応なし。結構柔らかい足だ。女の子という確証は高まった。指先に僅かなぬくもりを感じたので、死んでいる事はなさそうだ。


 ならば……と、もう少し強い刺激を与える事にした。人差し指を親指に重ね、力を込めて太ももに向かってデコピンの要領でピシッと弾いた。すると、ビクン! と両足が波打った。


 生存確認完了なり。


 さて、第三フェーズだが、これはもうシンプルに引き抜こう。サイズ的に小柄っぽいし、抜けない事はないだろう。


「……よし」


 両足首をむんずと掴み、昔、じいちゃんの畑で引き抜いた大根の収穫を思い出しながら、一気に真上へ引き抜いた──


「……おや?」


 眼前に現れたのは赤ふん、真っ赤なふんどしだった。


「男……の子? いや、女の子だ……」


 このまま宙吊りにしておくのもあれなので、とにかくゴミ箱の中から引きずりだそうか。


「……ゴクリ」


 地面にそっと横たわらせた女の子の様子を静かに伺う。ちなみに「……ゴクリ」と声に出して言ったわけじゃない。生唾を飲み込む音が大きかっただけだ。


 しかしこの娘、とてつもなく可愛いぞ。薄汚れた着物? 着流し? よくわからない和風の衣服を纏い、薄桃色の髪をポニーテールにしている。長いまつ毛にポッテリとした唇。体型は小柄な幼児体型で、胸の膨らみは大き過ぎず小さ過ぎず、丁度手頃なサイズだ。これは可愛いなんてもんじゃない。超絶世の美少女だ。


 様子を伺っていると、少女は「……ん、んん~」と吐息混じりの声を発した。どうやら気がついたみたいだ。


 そして、ゆっくりと目を開けた── 


 その瞳の色は鮮やかなエメラルドグリーン。大きな目をキョロキョロとさせて、周囲を見渡すと、上体をお越して女の子座りの体勢になった。


「…………」


 どうやら自分の置かれている状況が理解出来ない様子だ。俺は意を決して「大丈夫?」と少女に問いかけてみた。


「は……」 


「は?」


「は……腹が減った」


 空腹を訴え掛けるという、よくある開口一番だが、「腹を減らした猫と女の子には優しくせい」という、じいちゃんの遺言(まだ存命だが)を思い出して、ビニール袋の中から天むすを取り出した。


「これで良ければ」


 差し出した天むすを受け取った少女は、マジマジと天むすを見つめるも、一向に食べようとしない。


「あ、あの、食べないの?」


「これは……如何なる物でござろうか?」


 ござろうか?


「いや、天むす……名古屋名物のおにぎりだけど」


 そう伝えると、少女は天むすを再びマジマジと見ながら、


「おにぎり……おむすびの事でござろうか? しかし、拙者はこのようなゴワゴワした布に包まれたおむすびなど、見た事も聞いた事も……」


 は? 何言ってんだこの娘。コンビニのおにぎり食べた事ないのか?


 このままでは埒があかないので、一旦少女から天むすを返してもらうと、包装袋を開け、中身を出してから再び手渡した。


 少女は鼻を近づけ、匂いを嗅ぐと、一口かじりついた。


「う……」


「う?」


「旨い!」 


 そう叫ぶと、一気に天むすをバクバクと食べ始めた。


「ぐむっ!」


 胸を右拳でドンドンと叩き出した。どうやら喉に詰まったみたいだ。俺はコーラのキャップを開け、「飲みかけだけど」とコーラを差し出した。少女は奪い取る様にコーラを両手で持つと、ゴキュゴキュと喉を鳴らして一気に飲み干した。


「げふぅ」


 小気味良いゲップ炸裂。可愛い娘のゲップ、結構好きかも。


「あ……」


「あ?」


「甘ぁい…………喉がヒリヒリするでござる」


 え? コーラも飲んだ事ないのか?


 それにまた「ござる」って言った?


 明らかに言動がおかしいぞ。まあ、それよりも何よりも、可愛いんだが。


「あ、あの、君は何でゴミ箱に――」


 質問しようとした瞬間、少女は正座になり頭を下げた。


「食物を恵んで頂き、かたじけない。このご恩は必ずやお返し致します。申すも憚りあることながら、貴殿の名を教えて頂けぬか?」


「え? あ、あぁ。俺は柳生拓海だけど」


「柳生……もしや、柳生新陰流の?」


 よく知ってんなこの娘。


「う、うん。一応実家は道場やってるけど……あのさ、良かったら君の名前も教えてくれる?」

「……失礼、武士ならばこちらから名乗るのが礼儀でござったな。我が名は武蔵、宮本武蔵と申す」







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