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第十七話【エロジジイ】

 ──翌日。

 自宅の敷地内にある道場へ足を運んだ。ここは柳生新陰流を指南する道場で、門下生は約十名程しか居ない。まぁ実際、柳生新陰流という立派な看板を掲げてはいるものの、ムサシが憧れていた新陰流創始者、柳生石州斉とは相当かけ離れた血筋なので、言ってみればのれん分けのラーメン屋みたいなものだ。

「あ、坊っちゃん。珍しいですね、道場の方へ来られるなんて」

 ガチムチの大男、この道場で一番強いと言われている門下生、山田さんに話しかけられた。

「お久し振りです、山田さん。つか、坊っちゃんって呼び方やめてくださいよ。俺、別にこの道場を引き継ぐ訳じゃないし」

「またまたぁ、師範の後を継ぐ者は坊っちゃんしか居ませんよ。ガハハハハ!」

 豪快な笑い方でやたらとヨイショしてくる山田さんには悪いが、マジで俺は道場の跡取りになるつもりはコレっぽっちもない。確かに、こういった家柄に生まれると、当然後を継ぐものだと思われがちだが、俺はおろか父さんも後を継ぐつもりはない。その証拠に父さんは役所に勤める普通の公務員になった。理由は父さんも俺も、剣の才能が無いからだ。

 山田さんと道場内へ入った俺は、中央で禅を組む背中に向かって歩みを進めた。 

「久しぶり、じいちゃん」

「……ふむ。おぬしがワシに会いにくるとは珍しいのぉ。どうした? 上物のエロブルーレイでも見つけたか?」

「んなわけねーだろ、このエロジジイ」

 柳生新陰流師範代、柳生権八郎。俺の祖父だ。

「で? どうした? 道場を継ぐ気になったか?」

「継がねーよ。だからさぁ、前からずっと言ってるよね? じいちゃんが強すぎて、父さんも俺も剣の道は諦めたって」

 そう、このエロジジイは強い。ありきたりな表現だが、とにかくむちゃくちゃ強いのだ。その強さゆえ、父さんと俺は憧れという言葉を通り越して、諦めに到達してしまった。

 人並み外れた強さは門下生にまで及び、普通の人間はここに居ない。現在残っている門下生は、相当な腕の持ち主でレベルが高すぎる為、一般の人間が足を踏み入れられる道場ではなくなってしまった。なので、受講料だけでこの道場を経営していくのは困難なのだ。

 つまり、平たく言えば、この道場は現在このエロジジイ……いや、じいちゃんの趣味でやっているのである。

「エロブルーレイでもなければ、この道場を受け継ぐ気も無いとな。はて?」

「実はさ、立ち会ってもらいたい人……いや、子が居るんだけど」

「ほぉ。稽古をつけてほしい人間がおるのか?」

「いや、稽古じゃなくて、簡単に言うと試合というか、決闘ってとこかな」

 それを聞いた瞬間、じいちゃんの顔つきが変わった。

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