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第十五話【マシュマロパジャマを着る剣豪】

 入室──そういえば、この部屋が彼女の自室になってから初めて入るな。

「おじゃまします」

「散らかってるけど、てきとーに座って」

 部屋の中には、ベッド一つ。そして、壁際に設置されたハンガーラックにおびただし

い数の洋服が掛けられている。更に、靴、ぬいぐるみ、雑貨等が雑然と床に置かれていて、部屋の片隅には段ボール箱が山積みになっている。

「うわぁ……買い揃えたね」

「えへっ! 爆買いしちゃった♪」

 ベッドに腰掛け、両足をバタバタさせるムサシ。モコモコのマシュマロパジャマと相まって、それはもう愛くるしい姿だ。

 う~む、二週間前は湿気が漂う単なる空き部屋でしかなかったのに、女の子が入室するだけでこんなにも激変するのか……おっと、危ない危ない。危うく本題を忘れる所だった。

「なぁ、ムサシ」

「うん?」

「一つ疑問があってさ。君が四百年前から現代にタイムスリップしてきたと仮定すると、四百年前の慶長十七年四月十三日から、君は行方不明になっている事になる」 

「う~ん、そだね。きっと今頃、佐々木小次郎はあたしの事を探しまくってるかもね。あははは!」

 何て楽観的思考……器が大きいと言うか、自己中と言うか。

「……それでさ、その仮説をベースに考えると、君は佐々木小次郎と闘う前に失踪した。つまり、宮本武蔵は巌流島の決闘前に行方不明になった……なら、歴史が変化する事にならないか? でも、色々調べてみた結果、歴史に変動はなかったんだ」

「あ~、あたしも調べたよ、ウイッキーぺディアで。佐々木小次郎と闘った後も無敗を誇って六十戦無敗。天下無双の名を欲しいままにしたって。あたし凄くない? きゃはっ!」

「う、うん。でもさ、それって不可能じゃないか? 君は……宮本武蔵は今、ここに居るんだから」

 俺は真相に迫った。ムサシは暫く押し黙った。

「……んもぉ、たっくんは疑り深いんだからぁ」

「へ?」

「あのさぁ、歴史なんて所詮フィクションだよ。あたしが失踪してからの歴史は誰かが創作物として世の中に拡散してんでしょ? 五輪書とかもそう」

「え? で、でも……」

「じゃあさ、釈迦とかキリストとか、ソクラテスとかプラトンとか、存在した証拠は?」

「いや、それは歴史の文献とか……でも、それは口述によって伝えられている事もあるし、確証はない……か」

「でしょ? そんなのないんだよ。現代みたいにスマホで写真撮るとか、証拠を残す手段なんてないからね。だからあたしの事もそう」

 なるほど。確かにその線もアリと言えばアリだ。

 でも──俺がもう一つ気になっている事、それはタイムスリップに関する事だ。

 創作物で使用されるネタとして、タイムスリップは多い。しかし、そこには明確な理由が存在する。大半が『未来を変えるために、過去や未来を行き来する』というものだが、ムサシにはそんな理由はなさそうだ。

「これからどうするんだ? 元の時代に帰らなくていいのか?」

 そう言うと、彼女は仏頂面になった。

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