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てやんでぇ婚約破棄(連載版)  作者: ほすてふ


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8.別れ

 エリザベスとアリアが仲直りする前に時間が来た。

 アリアがハーン伯爵領へ帰る日が来たのだ。


 アリアの手を借りず自分の手で生活すると宣言してから、エリザベスは大きな失敗もなく過ごすことができていた。できてしまった。さらには様々なことを自力でこなすことで一回り成長しさえした。例えば巻き毛をうまくきめることができるようになった。

 エリザベスがカッとなる出来事が起きなかったことも幸いした。

 エリザベスはアリアのみができるようになったお勉強の場合と同じように集中し、気を張ってすごした。

 一方アリアはというと、徐々に元気を失っていった。

 周囲がそのことに気づいたのはアリアが帰る直前だった。

 新しい試みによって環境が変わったちょっとした影響くらいにしか見ていなかった。

 それどころか相変わらず仲が良いなと、喧嘩をしているという認識すら希薄かあるいはしていなかったのだ。

 そして当事者であり普段なら気づいていたであろうアリアも今回は自分のことに忙しかった。

 さらにアリア自身がちょっと調子が悪いけれど、エリザベスや侯爵家の方々に心配をかけるわけにはいかないし、と隠そうとしていたのだ。


 別れる時には対照的だった。

 ドヤ顔でニコニコしているエリザベス。

 どこか寂しそうなアリア。

 ここにきてようやくエリザベスはあれ? と思ったし、周囲もなんだか様子がおかしいのかなと気が付いたのだ。


 原因はエリザベスがうまくやったことだ。

 これによってアリアは自分はもうエリザベスに必要ないんじゃなかろうかと感じてしまったのだった。

 しかし本人たちもも含めそのことに気づかずに別れてしまうことになったのだった。




「アリア、元気がなかったわ」

「エリザベス様と別れるのが寂しかったのでしょう」

「わたくしだって寂しいわ」

「半年後には一緒に王都へ向かうのですから、我慢しましょう」

「刺繍ができたらすぐに渡したかったのに」


 刺繍は間に合わなかった。

 あと少しだったのだが、最後の仕上げで手を抜くわけにはいかない。

 ましてやアリアにあげるものなのだからできる限り手を尽くしたかった。

 結果として完成が間に合わなかったのは非常に残念である。


 その日からしばらく、エリザベスは寂しくて夜になると泣いた。

 物心ついたころからずっといっしょにいた相手がいなくなったのだ。


 エードッコ侯爵は、エリザベスがないていると追う報告を受け、自分が城を離れる時は、あの子は泣くのかなと尋ねたが、いいえと応えられて落ち込んだ。もちろんすぐ持ち直してエリザベスと話をすることにする。


「エリザベス、寂しいかい?」

「はい」

「そうだね。わかるよ。でもねエリザベス。アリアが今のエリザベスを見たらどう思うかな?」


 そう言われてエリザベスはとてもとても悲しくなった。


「心配するわ。ぎゅっとして今日は一緒に寝てあげますっていうの」

「本当に仲が良いね君たちは」

「もちろんよ!」


 仲が良いと言われてエリザベスはうれしくなった。


「では、アリアが寂しくて泣いていたらエリザベスはどう思うかな」

「心配するにきまってんだろべらぼうめ!」

「エリザベース? 口調」

「はい。お父様ごめんなさい」


 エリザベスはカッとなって怒られた。


「エリザベスは、アリアに心配されたいのかな? やっぱりアリアがいないと何もできないと思われたい?」

「そんなわけね……ないわ! 心配するのは心が苦しいもの。それに、アリアがいなくても、ちゃんとできるわ」

「それなら、どうすればいいかわかるかな?」

「わたくし、もうなかないわ。アリアが心配するもの。だけど寂しいから、えっと、そうだわ、お手紙を書くわ!」

「いい考えだね。きっとアリアも喜ぶにちがいないよ」


 父侯爵は娘が自分で答えを出したことに満足した。

 それからエリザベスの手紙攻勢が始まった。

 毎日その日にあった出来事を一生懸命書き綴った。

 はじめは思いのままに書いていたが、手紙を出していることを知った母が、貴族の正しい手紙の書き方を教えるようになった。

 返事が来た時には小躍りして皆に自慢して回り、エリザベスの手紙が形式をわきまえたものになるとアリアからの手紙も変わっていった。



 そうしているうちに、ついに刺繍のハンカチが完成した。



「お父様。アリアのところに行きたいわ。刺繍ができたの。渡しに行くのよ」

「おお、上手にできたね、綺麗だよエリザベス。でも今は王都に行く前で忙しいからねえ。一緒に王都へ向かう時まで待てないかい?」

「少しでも早く渡したいの!」

「届けてもらうのはダメかい?」

「直接手で渡したいわ!」


 いてもたってもいられないエリザベスは父侯爵にお願いしに行った。

 しかしどうにも前向きな答えを得られないと気づいたエリザベスは、わかったわと言い捨てて父侯爵の執務室を退出した。

 この時侯爵が気を回していればよかったのだが、なんだかんだエリザベスは言いつけは守るし、暴発を除けばおとなしくしてきたため、まさかエリザベスが城を抜け出すとは思いもよらなかったのだ。




「ふふふ」


 早朝。まだ薄暗い時間。

 城からの脱出に成功した男装のお出かけ姿のエリザベスは誰も気づいていないわね、と思わず笑い声をこぼした。

 長年温めてきた脱出路だ。

 朝早くアリアを観察していた時に気づき、少しずつ前後の様子を確かめてきたのだ。

 そしていざという時使うためにとっておいた。

 今使わずにいつ使うというのか。いまがいざというときである。


 こうしてエリザベスは早朝の街へ抜け出した。

 そして早朝発ハーン伯爵領方面に向かう乗合馬車に乗り込んだ。

 小綺麗な子どもが一人で乗車しようとすることで訝しがられたが、料金を多めに渡して、釣りはいらねえ、取っときな、というと快く乗せてくれた。


 こうしてエリザベスはハーン領へ旅立ったのである。

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