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てやんでぇ婚約破棄(連載版)  作者: ほすてふ


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29.逃避行

本日複数回投稿しています。本日の最初は「26.砂糖の危機」で、この話は四本目です。


読み飛ばしの無いようご注意ください。


 卒業パーティで婚約破棄を通告され、パーティを抜け出した後。

 エリザベスは事後処理を家の者に任せ、侯爵邸を後にした。

 そして侯爵家の馬車で王都の門を抜ける。

 これまでエリザベスについていた騎士たちが志願して護衛についてくれている。

 追手が来ると予想されているからには急ぎたいが、あまりに不自然だと怪しまれて足止めされる恐れがある。

 王都から出るまではあまり焦ったところを見せるわけにはいかなかった。


 しかし見張りの兵の視界から消えてしまえば話は別だ。

 揺れる馬車を飛ばして駆けた。


「ああ。なんだかすっきりしたわ。肩が軽くなったみたい。もっと怒りとか悲しみとかそういう思いに駆られるかと思ったのだけど」

「それだけ我慢していたのでしょ。頑張っていたの、わたくしは知っているわ」


 いつもより饒舌なエリザベス。

 急ぐ馬車で話をすると舌を噛むぞ、とアリアは思ったが、それ以上にエリザベスの心中を察して話に付き合った。


 そして。


「エリー、馬が近づいてくるわ。八……いえ、四騎。追いつかれそう」

「よくわかるわね」


 誘拐未遂の時、地面に耳を当てて周囲の気配を探っていた誘拐犯を思い出し、馬車の中から接近を察知するアリアを頼もしく思う。


「追手かしら?」

「ん……これは――」

「お嬢様、馬が近づいてきます! 応戦します!」

「待って、敵じゃないわ!」


 外を並走している騎士からの報告。馬車から離れて応戦しようと馬首を返――そうとしたところをアリアが停める。


「四騎と替え馬四頭。遊牧民の乗り方だわ。追手ではないはず。一応警戒はしてちょうだい」

「はっ」


 四騎の追跡者はほどなく姿を見せ、手を振りながら馬車に接近してきた。

 それは確かに、遊牧民系の顔つきをした者たちだった。


「あなたたちは」

「お嬢、恩を返しにまいりやした」

「ショーンの旦那が先行して合流しろと」

「お役に立ちますぜ」

「やるっす」


 先ほど思い出したばかりの者たち。

 エリザベス誘拐未遂犯でショーン商会に雇われている四人だったのだ。






「追手の準備は進んでいるようでした。十人規模で複数隊出すようで。普通に進めば明日にはおいつかれそうです」


 日が暮れて、いったん休憩を兼ねた作戦会議を行う。

 あとから合流してきた四人からもたらされた情報は、予想を裏切らないものだった。この場合は裏切ってくれてもよかったのだが。


「夜中も動きますか?」

「馬車が脱輪でもするとまずい。夜の移動は難しいだろう」


 中心になって話しているのは四人の中の兄貴分とアリア。他はあたりの警戒をしつつ会話に参加している。

 アリアが男言葉で話しているのを見て、エリザベスはほほおんと感心していた。うちのアリアはカッコいい。


「エリー……様をエードッコ侯爵領へお届けするのが最優先だ」

「そうですな。となると足止めが必要ですか」

「だが、追手が複数隊いるなら……うん」


 アリアは一つ頷いてエリザベスを見た。

 エリザベスはアリアを見つめ返し。


「何か思いついたのね?」

「ええ。危険かもしれないけど、エリー、信じてもらえるかしら?」

「もちろん。わたくしがあなたを信じないことはないわ」


 見つめ合う二人の少女。

 尊い……と誰かがつぶやいた気がした兄貴分がぐるりと見まわすと、騎士たちがうんうん頷き合っていた。







「危険で信じるとは言ったけど……」

「お嬢。舌ぁ噛みますぜ」


 エリザベスは馬に乗って駆けていた。

 商人たちが使う裏道を。

 騎士に追いつかれたくないのであれば、馬車でのんびりというわけにはいかない。

 そして馬の速さで走れば距離は縮まらない。

 つまりエリザベスは馬に乗せて先行する。これがひとつの回答だった。


「アリアが囮になるなんて。ああもう、わざとあんな言い回しをしたわね。あとで仕返ししてやるんだから」


 エリザベスは今、遊牧民系の男装をしている。

 元誘拐犯たちと一緒である。

 彼らは王都とエードッコの街の間を駆ける伝令を仕事にしており、複数の道を知っていた。

 彼らとともにエードッコの街を目指す。


 そして、アリアたちは馬車で移動して囮となった。

 エリザベスは当初反対したのだが。


「危険だとは言ったし、それでも信じるって言ったわよね、エリー?」

「んな!?」


 アリアに言いくるめられた。

 エリザベスは口にしたことはできる限り守ろうとする。

 その性格を利用されたのだ。


「大丈夫よ、ギリギリまでひきつけたら馬車を切り離して逃げるから。ハーンの者が馬の扱いで王都の騎士なんかに劣ることはない」

「我々もうまく離脱します。ハーン様と共にエードッコまでたどり着いてみせますよ」


 エリザベスは自身が足を引っ張っていることを自覚してもいた。護られる立場というのは見方を変えればそういうことだ。

 アリアが、彼らがやると、できるというのであれば。

 信じて任せるのがエリザベスの役割だ。


「よしなに」

「はっ!」


 エリザベスの声は震えていた。




 こうしてエリザベスは馬で馬車とは別ルートを使って駆けているのだ。

 道中のエリー商会の拠点で馬を替え、夜も月が出ている間は進む強行軍。

 そして関所は回避する。

 ……抜け道である。エリー商会、こんなものまで用意していたのだ。


「普段は使わねえっすよ。どうしても急ぎの伝令があるときのためですわ」

「まさにこういう時の為ですな」


 鳥でも使って連絡されていれば、関所で止められる可能性がある。

 そんなことになれば危険を冒して囮となっているアリアたちに申し訳が立たない。

 今やるべきことは、一刻も早く安全圏までたどり着くこと。

 そう信じて、かけ続け。


「お嬢、すまねえ、囲まれた」

「くっ。あと少しなのに……!」


 エードッコ侯爵領まであとわずか、というところで、騎馬の集団に捕捉されたのだった。



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