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てやんでぇ婚約破棄(連載版)  作者: ほすてふ


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28/31

28.てやんでぇこのすっとこどっこい

注意!

本日0時投稿の「26.砂糖の危機」に間違った内容を投稿していました。2時13分に修正しました。

申し訳ありませんでした。



本日複数回投稿しています。本日の最初は「26.砂糖の危機」で、この話は三本目です。

読み飛ばしの無いようご注意ください。

 王都を騒がせた砂糖騒動の終息しつつあるころ。

 エリザベスにとってのもう一つの問題がようやくひと段落がついた。


「このたびは災難だったな、エリザベス」

「ご心配をおかけしました、殿下」


 王妃とエリザベスが砂糖騒動の対応に注力している中で、とくに役に立たなかったアルフレッド王子との和解である。

 砂糖騒動のせいで手間取ったというか、王妃のこの問題に対する動きが鈍くなり、幾度かの催促の末、砂糖騒動の目途がついてからようやく王子を説得できたのである。


 ……のちのことを考えれば、実のところ説得できたわけではなかったのだが。


「王妃殿下のご助力のおかげでずいぶん助かりましたわ」

「そうか。母上は砂糖が気に入っているようだからな」

「ふふふ。王妃殿下には驚きました」

「ははは。そうかそうか。まあ無事治まって何よりだ」


 砂糖狂だった王妃には本当に驚かされた。

 そのおかげで強力な味方になったわけだが、同時に王子の説得が遅れたのだから一概に喜べない。

 とはいえ、現在話ができるようになった以上、終わりよければというやつである。

 エリザベスはこの時は考えていた。


「しかしなんだな、また同じようなことがないか心配だ。どうだ、砂糖は王家で預かるというのは」

「殿下?」


 王子がおかしなことを言いだした。

 砂糖の権益を王家で保護することで、再度の教会のような横槍を抑止し、対抗しやすくする。

 一理はある提案だが、三理くらい的外れなことでもある。

 エリザベスは自分を気遣ってのこととはいえ、この王子大丈夫かと思ったが、自身や臣下が支えていけばよいことであるし、まだ成長のための時間は残されていると考え直した。

 王子にも考え直してもらうために口を開いた。


「殿下、お気持ちはありがたくいただきますわ。ですが、今それをするのはやめておいた方がよいかと存じます」

「ふむ、というと?」

「まず、今砂糖の権益は注目を浴びておりますわ。これを王家が保護するとなると、見かけ上、王が臣の権益を取り上げたように見られます。これは貴族を統治する上でよろしくないでしょう」

「それはたしかに」

「なので、やるならばほとぼりが冷めたころがよろしいでしょう」


 貴族のもつ権益を王家が取り上げようとするというのはまず根本的に論外な発想である。

 普通なら反乱ものだ。

 王がもっと絶対的な力を持っていれば。あるいは何か大きな失敗をしてその懲罰的な裁定としてならば。

 今回で言えば王国を騒がせたという理由をつければ可能かもしれなかった。

 しかし、多くの貴族が、そして王家の内部からも砂糖流通を再開させるために動いたという経緯もある。

 下手なことをすれば王家への反感が生まれるだろう。

 更にそうなると発端となった教会に対してもなにかしら必要になるだろう。謝罪要求か、賠償か。

 せっかく丸く収まりそうなのに、ここで押せば教会を敵に回すことになる可能性が出てくる。

 教会は西方諸国で大きな勢力を持っているため、国として敵に回すのは覚悟と準備が必要だ。国内にも信者がいる以上内外に敵を抱える羽目になる。

 エードッコ侯爵家の令嬢エリザベスという立場からなら、最悪エリー商会を切り捨てて知らん顔する手もあるが、改めて王家が保護すると示した場合それではすまなくなるのだ。


「そして、わたくしと婚約している限りその必要がないということ。王家の一員となる暁には砂糖を扱う商会は王家の傘下となるでしょう。そう遠くない未来ですから今動く必要があるとは思えません」

「……そうだな」


 砂糖を扱うエリー商会はエリザベスのものだ。

 エードッコ侯爵家の御用商会とは別に分けている。

 もともとも、現状も、エリザベスのわがままを処理するための組織であり、採算は侯爵家からも独立している。

 拠点のある侯爵家と対立しない限りは嫁入り後も扱いは変わらないだろう。

 エリザベスと王子が婚約している以上は急ぐ必要はないのだ。


「最後に、税として王家に多額の納金をしておりますので、これを守るという名分は現状でも使えますわ」

「なるほど。そういうことなら重ねて言うまい」


 あるいは、王子の婚約者が関わっているからという名目も使える。

 王子の婚約者は王族に準ずる立場である。これを利用すれば少なくとも守るために力を振るう名目する分には文句は言えないだろう。

 エリザベスはこの切り札を今まで使わずに来た。エリザベス自身が使うには不遜だからだ。もっとも、能動的に使わずとも他者に配慮を強いていたかもしれないが。

 ただ王家の側からならやりようである。


 こういう話を王子にも認識しておいてもらいたい、とエリザベスは思い、説明した。

 エリザベスが指導者マリアベルによって教えられた考え方を、アルフレッド王子がまだ身に着けていないというのは物足りないが、それでも王位を継承するまでに時間はある。

 エリザベスは王子に期待していたのだ。まだ。

 話をする余地があるならば大丈夫だと。


 ともあれ、エリザベスは王子と和解できたと思い込んでいたのだ。






 砂糖騒動によって学園内の勢力図も変化があった。

 女生徒の多くは砂糖のために団結した経験を得た。

 一部は男女関係なく教会の側に立ち積極的に、あるいは消極的にエリザベスに対抗した。その後教会との和解によって梯子を外されることとなった。

 エリザベスはこの層に対する和解のために時間と手間をかけることになった。教会は本当にろくなことをしないとアリアに愚痴りながら。


 そして、砂糖騒動とそれに続くエリザベスの多忙の間に、王子を中心に男子生徒の派閥が広がっていった。

 学園において王子に近しい者たちは将来の側近候補である。その中には重臣となるものもいるだろう。

 現在の重臣の子も交じっている。宰相や騎士団長の息子たち。この先ミャーコ王国を背負って立つであろう者たちだ。


 彼らの派閥はじわじわとその勢力を広げ、男子生徒の多くをその傘下に収めた。

 王子の派閥と考えれば普通と思うかもしれないが、実はこれは異常なことだ。

 王子とは対立する要素を持つ家の子もいるからである。

 例えば王子の母である王妃の出身家と仲が悪い家の者。

 貴族間の仲が悪さには軽視できない理由がある。

 王子と同期となったことを機に水に流す、と簡単にできるようならこれまで引きずっていない。


 ではなぜそうなっているのか。


 そのヒントは、男子生徒と女生徒が対立しつつあるという困った事態が発生したことにあった。



 入学三年目となったある日。エリザベスはアルフレッド王子と話す場をようやく取り付けることができた。

 ここのところ、王子は多忙と勉強を理由にエリザベスの誘いを避けていたのだ。

 もちろん王子からの誘いも途絶えていた。

 その間にも状況は進んでおり、さすがのエリザベスも焦りを覚えていた。


「殿下、これはよろしくないのではないでしょうか」

「そうだな。メアリーへの嫉妬とは、醜いものだ」

「……殿下?」


 この事態はアーリーアクセス男爵によって引き起こされたものだったのだ。

 砂糖騒動よりも前から女生徒から孤立していたアーリーアクセス男爵。

 彼女は、エリザベスが多忙な間に男子生徒を味方につけていたのである。

 類稀な美貌の持ち主である彼女は思春期の男子生徒たちに深く突き刺さった。

 その結果、男子生徒の多くを魅了し、王子の味方へと付けたのであった。

 そして王子派閥はアーリーアクセス男爵ファンクラブのような様相を呈していたのである。


 仲の良い女生徒のいる男子生徒もまた、アーリーアクセス男爵をほめたたえる。

 そうなると女生徒は気分がよいはずがない。

 アーリーアクセス男爵に対する反感を育てることになる。

 そうして男女間の対立に育ってしまったのだった。


「同期の貴族の男女間で婚姻を結ぶというのは先代からの慣例ですわ。必ずしもそうでなければならないわけではありません。ですが、男女の間で対立しているというのはあまりにも」

「たしかに。我が同期の女性たちにも、魅力を磨いて男子を捕まえてほしいものだが」

 学園は婚活の一環という側面を持つ。

 こうして男女が対立するというのは学園という政策の目的からするとよろしくない事態なのだ。

 にもかかわらず、アルフレッド王子もアーリーアクセス男爵の側に立っていた。

 エリザベスは自分はまた失敗したのかと顔色を青くした。幸い、化粧のおかげで王子には気づかれなかったようだが。


「殿下。殿下はアーリーアクセス男爵をどうするおつもりです?」

「……どうするとは?」


 エリザベスはついに踏み込んだ。

 目の前の問題への対処で忙しく、王妃に王子の説得を頼んだために結局エリザベスは直接アーリーアクセス男爵のことをお王子と話したことがなかった。

 それは失敗だったと後悔した。


「男爵家をどうするか。婿を取るのか、代理を建てて嫁入りし子に継がせる段取りを立てるのか、あるいは爵位を返上して別の生き方を見つけるのか。選択肢はこのあたりでしょうか。本人はどう考えているのか、ご存知ですか?」

「ああ、そういうことか」

「常識的に考えるならば、男爵の連れ合いを見つける手助けまでが保護者の役割です。それ以上は過干渉となるでしょう」

「ふむ」

「ですが現状を見ますとどうでしょう。わたくしとしては、相手を決めてしまうのが一番収まりがよくなるのではと思うのですが。やはりそこは本人の意思が優先されるべきとは思います」

「なるほどな」


 まるで言葉が響いていない。

 王子はニコニコと、いや、にやにやと笑みを浮かべるばかりであった。

 焦るエリザベス。いつの間にこんなに話が通じなくなっていたのだろうか。

 埒があかない。エリザベスはさらに踏み込んだ。


「あの、失礼を承知でお尋ねしますが、殿下はアーリーアクセス男爵に懸想されているのでは? それならば、あの方を妾にされるくらいなら――」

「妾、妾か。ははは」

「殿下?」


 言葉を遮るように王子が笑い声をあげる。


「いや、なんでもない。彼女の結婚相手は適切な者を見つけるとも」


 そういった王子はエリザベスを見下していた。

 いつの間にか、王子の背はエリザベスを追い抜いていたのだ。

 言葉に詰まるエリザベス。


「エリザベス。策謀が得意なのは君ばかりではないよ」

「はい?」


 何言ってるんだこいつ。と言いそうになるのをエリザベスは我慢した。

 誰が策謀が得意だというのか。

 いや、その言い様ではまるで。


 エリザベスがなにかを訪ねる前に、王子は去って行った。

 具体的なことを何一つ話していない。


 そしてこの日から、王子の行動が変わった。

 アーリーアクセス男爵と懇意にしている姿を公に見せるようになったのである。

 同時にエリザベスを避けることは継続された。


 この行為は、王子がアーリーアクセス男爵を射止めたと男子生徒の間で受け止められた。

 そして、男子生徒たちがアーリーアクセス男爵にこだわらなくなったことで男女間の反目はひとまず鎮静の方向へと進みはじめ、反アーリーアクセス男爵で固まっていた女生徒たちは本来の、家の関係などで作られる派閥にわかれていった。


 エリザベスは、アーリーアクセス男爵に王子を寝取られたという噂され。

 それでも家と家の契約であるし、そういう関係の貴族夫婦もいるからと自信を納得させて我慢しつつも、王子と話す機会を求めたが徒労に終わった。



 そして、最終的に、卒業パーティの日に、婚約破棄を通告されたのである。

 まさか、婚約を破棄するところまでくるとは、さすがにエリザベスも思っていなかった。

 それまでの鬱憤もあり、思わず素が出て言い返してしまったわけだ。


「てやんでぇ、そんなもんこっちから願い下げじゃあこのすっとこどっこい!」

面白かったら★5とブックマークを、つまらなかったら★1を、中くらいならその間で、どうぞよろしくお願いいたします。


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