26.砂糖の危機
注意!
本日0時投稿の「26.砂糖の危機」に間違った内容を投稿していました。2時13分に修正しました。
申し訳ありませんでした。
本日複数回投稿予約しています。本日の最初は「26.砂糖の危機」 本話です。
読み飛ばしの無いようご注意ください。
「悲劇ばかりがもてはやされているのに疑問を呈したいですわ。それから、高尚で難解なものばかりなのも」
「はあ。エリーは幸せな結末の物語がいいということ?」
「それもまた一つ。あとは、そうね、ただただ面白おかしいものだとか。わかりやすいのもいいわね」
「それは……貴族にははしたないと思われそうですね」
「そうなのよね。これも住み分けで……」
王妃殿下に相談するため、予定をキャンセルしていたことで珍しく暇だったエリザベスは、アリアと雑談をしながら自作物語のネタを書いたり見直したりという時間を過ごしていた。
何もない時間というのも最近では貴重なものだ。
懐かしい気分で楽しんでいたところ。
「お嬢様、ショーン様がお見えです。お急ぎのようでした」
侍女がショーンの来訪を告げて来た。
「あら。約束はなかったはずよね?」
「はい。となると」
「緊急の話ね。次から次へと」
問題が起きる時は立て続けにやってくるとでもいうのか。
エリザベスは艦隊の支持を出しつつ身支度を整え始めるのだった。
「教会が砂糖の販売を停止しろと言ってきた?」
「はい。一刻も早くお耳に入れなければならないと急いで参りました」
エリー商会を任せているショーンは多忙である。
にもかかわらず予定外の訪問。となれば相応に大きな問題が起きたのだろうと覚悟はしていたが。
砂糖はエリー商会の柱である商材だ。
報告書を見る限り、他の採算が取れない事業の穴埋めに必要であることはエリザベスでもわかる。
それを止めろというのは。
「てやんでぇ、教会だぁ? 連中、一体どういう了見でそんなナマぬかしてやがる」
「口調」
「はい」
教会。
西方で主流の宗教、唯信教の出先機関である。
ミャーコ王国にも信者がおり、結構な勢力を持っていた。
「それにしても今さら過ぎませんか。もう何年も売り続けていますわよね?」
「はい。先方からの通告によりますと――」
『――この砂糖というもの聖なる書に記載がなく、その効果から人心を惑わす悪魔の粉である可能性がある。真偽が判明するまで販売を停止せよ』
「――とのことで」
エリザベスは頭を抱えた。
「……これは」
「ええ」
「そうですね」
三人は頷き合う。
「あの生臭ども、権益よこせって脅迫してきやがった!」
「口調」
「きーーーーーー!」
「はしたないですよ」
「うぐぐ」
学園入学からこちら、ずっと我慢していたのでいつもより派手に暴発したのだった。
一通り発散して落ち着いたところで、ショーンが話の続きを始める。
「どうもですな、蜂蜜の売り上げが落ち込んでいるようで」
「蜂蜜が? ああ」
蜂蜜の権益は教会のもの、という取り決めがある。
唯信教を国教制定していないミャーコ王国だが、西方の唯信教国に団結して攻めてこられると困るので、ある程度便宜を計っていた。
他国が認めている蜂蜜権益の独占を認めることはその一つだ。
蜂蜜と言えば貴重な甘味だ。いや、だった。
砂糖ほど直接的な甘みでないし、幼児が舐めると危険という注意点があるが、エリザベスも口にしたことがある。
それなりに希少なので高価でもあった。
その売り上げが落ち込んでいる。
「砂糖の普及で蜂蜜の需要が減ったと」
「そう考えたのではないかと」
「代わりをよこせと」
「でしょうな」
砂糖は精製に手間はかかるが、原料はニガダイコンであり、安価に手に入る。他の用途は家畜のえさで、比較的育ちがよいのでさほど豊かでない土地でも取れる。きちんと環境を整えると収穫量も質も上がる。
ショーンのいうことには、蜂蜜は教会が流通を絞って価格を釣り上げているらしい。
エリザベスは思った。知らん。馬鹿か。
エリザベスは考え……るのをやめた。
「ショーン、砂糖の販売を止めた場合、どのくらいの期間商会を維持できるかしら? 販売だけよ?」
「販売だけ、ですか? そうですな。剰余金を切り崩せば一年ほど。王都の赤字部門を切り捨てれば十年以上は」
「あら、思ったより長いのね」
「砂糖以外の事業も黒字化を進めておりますから」
「そう、なら構いません。我慢比べと行きましょう。ふふふ」
エリザベスは笑った。
「わたくしの快適な生活の邪魔をするなんざふてぇ野郎だべらぼうめ。誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやらぁ」
「口調」
「はい」
翌日。
エリザベスは王妃殿下から呼び出しを受けた。
「もう話をつけてくれたのかしら。さすがは王妃殿下、仕事が早いですわね」
などとエリザベスが暢気に構えていたところ。
「エリザベスちゃん! 砂糖の販売を止められたって聞いたわ!」
「はい?」
王城の応接室に、淑女の礼法など知らぬとばかりの勢いで飛び込んできたのは王妃殿下であった。
しかも、アルフレッド王子の件かと思ったら、砂糖の話。
エリザベスはあまりのことに、淑女の笑顔が崩れ、目を丸くして驚いた。
「どうなの? 砂糖が手に入らなくなったらわたくし、わたくし……!」
「お、お待ちくださいまし、王妃殿下」
エリザベスに詰め寄る王妃殿下。
アリアが間に入って止める間もなかった。
え、どういうこと? 何がどうなって王妃殿下はこんなことに?
エリザベスは混乱し、王妃殿下も様子がおかしい。
アリアと王妃殿下の侍女が頷き合って二人を引き離すまで、いつもの淑女姿からは想像できない二人の痴態が繰り広げられたのだった。
「つまり、砂糖が」
「大好きなのよ。素晴らしいわよね、砂糖。あれは天使の食べ物に違いないわ。エリー商会のレシピも全部試したわ。王城の料理長にも使い方を研究させているの」
「そのレシピ、わたくしにも教えてくださいませ、お義母さま!」
「よくってよ! うふふ」
「ふふふ」
エリザベスはこの人こんな人だったのかと若干引きながら、話を合わせた。それはそれとしてレシピは欲しい。
まさか王妃殿下が砂糖狂いだったとは。
あの淑女の鑑のような王妃殿下があそこまで取り乱すのだ。
もしかしたら砂糖を悪魔の食べ物と呼んだ教会は正しいのかもしれない。
などと冗談を考えたところでエリザベスの頭の中にふと嫌な考えが浮かんだ。
もしかしてこの人、砂糖欲しさにエリザベスを後押ししてくれているのでは。
確かに、幾度も贈り物として砂糖を送っている。
砂糖を取り扱っている商会から税も入っているはずだが……あの様子だと砂糖そのものの方が大事そうである。
なんだか突然、キラキラしていた王妃殿下が残念なものに見えてきた。
「王家から非難声明を出しましょう」
「さすがにそれは、陛下の同意を得られたらでお願いします」
「そう?」
「それよりも、噂を広める協力をお願いできますか?」
「いいわよ。教会こそ悪魔だと広めましょう!」
「それ、戦争になりますよね!?」
大丈夫かなこの王妃殿下。
尊敬していた王妃が壊れていくのを見て、エリザベスは先行きに不安を覚えるのだった。
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