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てやんでぇ婚約破棄(連載版)  作者: ほすてふ


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23.たのしいがくえんせいかつ

「初心者とは思えませんわ」

「さすがはエードッコ様」

「殿下の婚約者だけのことはありますのね」


 女子乗馬クラブでエリザベスはついに念願の乗馬に挑戦することができた。


「本当にクラブに入るまで未経験者だったのかしら?」

「本当ですわ。危ないからと家族に止められて。ふふふ、クラブ活動の範囲であれば止められることもないでしょう。いつもアリアをうらやましく見るばかりだったのです」

「ハーン様はさすがとしか言いようがありませんわね」

「先生方より達者なのではなくて?」


 少し離れた場所で一部の先輩方に逆に質問されているアリア。物心つく前から馬と付き合っている一族であるので学園入学から始めた乗馬歴一、二年の少女たちとは比べるまでもない。


 エリザベスもまた上達が早い部類にあった。

 乗馬については予習をしていないため、なにか有利となる素養があったのかもしれない。


「馬に怯えないこと、そして姿勢が大事なのですわ。エードッコ様はその点がどちらも素晴らしいのです」


 エリザベスに教える担当の先輩が教えてくれた。

 馬は頭がよく、人の怯えや緊張を敏感に感じ取るのだそうで。

 ただでさえ大きな生き物で、背に乗れば視界がぐんと高くなる。

 そのとき人が怯えると、馬も不安に思ってしまうのだそうだ。


 また、姿勢が悪いと人も馬も疲れやすい。

 馬も疲れることはしたくないので嫌がるのだという。


 この二点が重要なのであれば、エリザベスは予期せず予習と同様の効果を得ていた。

 まず馬におびえないというのは、アリアが愛馬の世話をするのを見てきたのだ。

 また、攫われた際に馬の高さよりよほど怖い思いをしたこと。

 頭の中で関連付けされて両方怖くなることもありえたかもしれないが、エリザベスはそうならなかった。都合のいい頭である。

 そして姿勢。これはもうマリアベルの教育のたまものである。

 王家の婚約者として恥ずかしくない姿勢のよさを仕込まれたのだ。国内有数ではないだろうか。

 乗馬で使う筋肉と完全に一致するわけではないにしろ、体の芯がしっかり鍛えられているために、他の令嬢とは安定度が段違いだった。


 しかし、予定外にうまくいったからと言って、怠ければすぐに追いつかれるだろう。そうでなくとも、エリザベスは予定が詰まっており、クラブへの参加頻度は低くなるのだ。

 追いつかれ、置いて行かれないように頑張ろうと相変わらずの負けず嫌いをこっそりと発揮している。


「最終的には馬との信頼関係が大切。ですが、これは時間をかけて取り組むべきです。人間関係と同じですわね。じっくり仲良くなっていきましょう」


 先輩の含蓄あるお言葉。

 エリザベスはもっともだと頷いた。






 エリザベスの学園生活は充実していた。


 早朝は女子乗馬クラブの厩舎で馬の世話を行う。

 当番制なのだが、馬と仲良くなりたいからと今年の新入部員は毎日のように出てきていた。

 講義開始までにクラブの仲間と去年学園に併設されたという浴場で裸の付き合い。肌の磨き方や化粧のコツなどを教え合う。


 午前中は学園の講義の時間。

 なんと、エリザベスは最初の定期試験において、受講している授業の半数で一位、総合一位という成績を残した。


 見たところ試験内容は、講義をまじめに聞いていれば六十点、予習復習をしていれば八十点、残り二十点は教官の趣味枠で一歩踏み込んだ内容という構成のようだった。

 エリザベスは教官の出題の癖を姉たちから聞いていたので二十点分有利だったのだ。

 そこまで対策をしている生徒は少ないようで、平均は七割程度のところを九割以上得点したのである。

 総合で二位だったアルフレッド王子は同じように対策していたのだろう。さすが王家は手を尽くしている。

 その王子からは若干震えた声で。


「さすがだな。ははは、婚約者として鼻が高いよ」

 とのお言葉をいただいた。

 男性貴族が受講する講義とは半分くらいしか共通していないため、厳密な比較はできない。

「受けている講義が違いますから。王子こそ、男性の中で一番を取ったのですから流石ですわ」

 と返したが、もしかすると面子を潰してしまったのではないかとエリザベスは気づいた。

 かといって手を抜くのも違う気がする。

 男女で受けるべき講義が違い自由選択の講義もあるため試験内容が違ってくる以上、総合点での順位付けは意味がないのではと学園側に意見を提出しておいた。



 さて、午後は課外授業の時間で、クラブ活動やお茶会、勉強会などなど、各々が有意義な時間の使い方を選ぶことができる。


 エリザベスはこの時間でやるべきことが多かった。

 女子乗馬クラブと観劇クラブを掛け持ちしており、それとは別に、派閥の長の家として、また王家の婚約者として人脈を広げるために茶会の開催、試験の結果を見た者から勉強を教えて欲しいとの求めがあり勉強会も開くことがある。


 そう、劇場について語り合える仲間ができたのだ。

 乗馬も大事だが、最も興味を持っている趣味に関するクラブを見逃す手はなかった。 これを逃がしては何のために厳しい指導を受けてきたのかわからない。


 観劇クラブの中心は王都在住で領地を持たないいわゆる宮廷貴族の子女が多く、領地貴族の頂点の一角であるエードッコ侯爵家とは派閥が異なる。

 はじめは若干警戒されていた。


 しかし王子の婚約者として今後王都で暮らすことになるであろうというエリザベスの身の上と、観劇への情熱が彼ら彼女らの心を開いた。


 なにせクラブの外では、


「エリザベス様はいつも自信を持っておられて頼りがいがありますわ。ああ、エリザベス様が殿方でしたら……ぽ」


 などという令嬢も現れるほど地位と実力、態度を兼ね添えたエリザベスが、観劇のことについては、


「王都の劇場の素晴らしさに胸を打たれましたの。ぜひとももっと深く楽しみたいのです。どうかご教授くださいませ」


 と瞳にこもった情熱とともに願い出てくるのだ。

 自尊心がくすぐられたのである。

 また、王都の貴族にとって、領地貴族はいかに大家であれ、田舎者という認識が心の底にある。

 エードッコ侯爵領で王都の真似をして劇場をつくった(もちろん王都のそれよりも格下である)いう情報をつかんでいる者もいた。

 エリザベスの情熱を保証すると同時に王都っ子としてさらに自尊心を刺激されるソースとして受け止められた。


 結果としてエリザベスは観劇クラブに受け入れられるに至ったのである。

 二年前散った夢が時を置いて叶ったのだ。



 さらに、王妃教育もこの時間に割り振られており、学園を抜け出して王城へ向かう。

 これらを総合して週のうちわけは一日を女子乗馬クラブに、一日を観劇クラブに、二日を王城へ、残りに二日を社交や勉強会に。休日は未定として臨機応変にという日程となっている。


 夕方以降はその日の予定によって変わる。

 クラブの日は劇場に通い、社交、勉強会などの日は夕食に誘ったり誘われたり。王城へ通う日は王子、あるいは王家の方々を含めての会食や懇談。


 王子と会うのは週二から四度という勘定である。男女の別もあり、クラブも剣術と戦戯盤、講義は半分ほどしか共通していないし、昼食は前の講義と次の予定で噛み合わないことも多いのでこんなものだ。王城に行く日など、エリザベスのみ昼食は王城で摂るのだ。王妃教育の一環である。

 社交の一環でお茶会に誘うこともあるが、王子側にも都合があるのでいつもとはいかない。観劇もまたクラブの劇場所有家のお誘いに王子同伴でいくと恐縮されてしまうので独自に通う場合にしか誘えないし、どうも王子はあまり劇場は好まないようだった。

 英雄譚などわかりやすいものは楽しめるようだったが。あるいは英雄願望が強いのかもしれない。




 ともあれ、エリザベスの学園生活は総じて順調と言え、大いに楽しんでいたのだ。

 状況が変わるのは二年目に差し掛かろうという頃である。

 いや厳密に言えば入学パーティからであったのだが。

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