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てやんでぇ婚約破棄(連載版)  作者: ほすてふ


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22.メアリー・アーリーアクセス

 パーティとは挨拶と見つけたり。

 エリザベスは王族の苦労を改めて思い知った。


 パーティが始まると、まずはみんな挨拶を始める。

 初めまして。おめでとうございます。ご無沙汰しております。やあやあ元気そうだ。その後どうですか。

 なかなか会えない人と会ったり、何かの折の礼を言ったり、わたしあなたを気にかけていますアピールをしたり、少しでも覚えてもらおうとしたりと忙しい。


 高位の者ほど人が集まる。

 直接、間接に関わっている相手が多いし、すり寄ってくる者も増えるからだ。


 会場で一番高位の者となればすべての参加者が挨拶したい。

 しかし時間にも限りがあるのでより高位の者から順にという暗黙の了解があった。


 つまりパーティに参加するだけで、参加者の中での自身の立ち位置をはあくしておかなければならないということだ。


 その点で言えば、王家、それも国王夫妻とアルフレッド第一王子という、国内どこに行っても最高位となる方々と同行できるというのは苦労が少ない――と思えるかもしれない。


 しかし、会場の全てが挨拶に寄ってくるのだ。パーティのたびに。もちろん初めましてとご無沙汰してますを間違えてはならないし、最後に会ったとき何を話したかなども思い出せなければならない。

 忘れていては相手を失望させてしまう。配下に失望された上司がどのような結末をたどるのか、というのは歴史を紐解くまでもない。

 まして挨拶に来る者にとってエリザベスは王家の添え物。

 王家の足を引っ張る婚約者などあってはならない。

 今回、そしてこの先、挨拶を失敗しないため。

 エリザベスは力を尽くさなければならないのだ。


 紹介を受け、その際に語られるエピソードに感想を返す。そのような話が出てくるということは王家の方々の覚えがよいということなので気をつけなければならない。

 貴族らしく遠回しな皮肉を言ったりからかってくる者もいる。カッとして場を壊さないよう必死に我慢だ。もちろん笑顔は崩さずに。アリアが恋しい。

 馴れ馴れしいものもいる。王家にそんな態度を取って許されるほどの人物ということでこれも要注意だ。

 エードッコ侯爵派閥の知った顔のときは癒しだ。かといってそんな人とばかり話しこんでいたら公平性を疑われてしまう。


「どうだい、我が婚約者殿。こうして皆が話そうと集まってくるのだ」

「はい、殿下。王家の皆様が慕われている証左ですわね。ですがこれだけ多いと今日ですべて覚えられるか心配ですわ」


 飲み物をいただいてのどを潤しながら、王子が話しかけてくる。

 王子とは隣に並んでいるのに挨拶に来る方々の話を聞く時間の方が圧倒的に多い。


「ははは。なに、慌てることはないよ。私が隣にいるのだから」

「ふふふ。頼もしいですわ。ですが、これから共に学び舎で過ごす仲間とそのご家族ですもの。見知っておくのは当たり前(・・・・)と存じます。きっと覚えてみせますわ。殿下の婚約者がこの程度(・・・・)かと噂されてもいけませんしね」


 エリザベスは、常に余裕を見せよ、とマリアベルに教えられている。

 うっかり弱音を吐いてしまったのは失敗だったが、取り戻せただろうか。


「わはは。アルフレッド、良い婚約者を持ったな」

「うふふ。いつもいっているではありませんか。エリーちゃんはとてもいい子だと」


 横から国王と王妃殿下に褒められ、エリザベスは作り笑顔が崩れにやけそうになる。あわてて気を引き締めた。


 国内貴族の名前と紋章は事前の勉強ですでに一致している。

 あとは顔と名前を一致させて関連付けだ。

 今日耳にしたちょっとしたエピソードもあらかじめマリアベルに聞いたものと被っているものもある。そういうのは覚えやすい。

 覚えにくいものは各貴族家の関係性の方向からつなげていく。あの男爵はこちらの伯爵の寄り子でそっちの男爵としばしば領境争いを起こす家、などと既存の知識とつなげてくことで覚える助けになる。

 大丈夫、今日の参加家は四桁に満たない。覚えきれる。

 同じ時期に学園に通い、空間を共にする相手でもある。

 有象無象だとしても把握しておくのは当然といえる。制服で区別できない以上、顔を覚えておかなければ何かあった時困る。


「……そうか。ならばあとで覚えているか試してやろう」

「はい、期待していてくださいませ。ですが覚えきれていなかったら教えてくださいましね」


 エリザベスはにっこり微笑んだ。

 試してやろうと言われて反射的に声を上げるのを我慢できた。これは成長ではないだろうか。





 さてその挨拶攻勢も、取るに足らない相手のあたりまで順番が進むともうそろそろ終わりかなという空気になってくる。

 そんな気持ちが弛緩しかけていたところに、それはやってきた。


「アーリーアクセス男爵メアリーでございます。王家の皆様方におかれましてはご機嫌麗しゅう」


 定型通りの挨拶。

 ただ、いくつか他の新入生とは違うところがある。

 付き添いの大人がいないこと。

 そして男爵令嬢ではなく、男爵を名乗ったこと。


 アーリーアクセスという家の当主夫妻が亡くなり、若い娘が後を継いだと言う話を聞いたのは一年程前だったろうか。珍しい事態が起きていると、王都で噂になっていたらしい。

 領地を持たない宮廷貴族で、現在は役職なし。取りつぶしにならなかったのはなにかあるのではとも。

 しばらく社交の世界に顔を出さなかったことで噂が噂を呼んでいた。


 そう噂されるなにかをアーリーアクセス男爵はもっていた。

 単純なものだ。

 愛らしい。

 十二歳にして、同性のエリザベスすらため息を吐きそうになるほどの愛らしさを持っていた。

 身長は小柄で王子より一回り低い。

 ドレスの質は身分相応だが、着飾る感性がいいのだろうか、貧相には見えず、本人の性質を後押ししていた。

 エリザベスも美しい方だと自負はあるが、アーリーアクセス男爵の外見は抜きんでていると言っていい。

 所作は未だ野暮ったいのだが、見た目だけですべてを挽回して余りある。

 今は路地裏に咲く花のようだが、多くの花に囲まれても決して見劣りしないだろう。それどころか周りを喰ってさらに咲き誇るに違いない、そんな予感を抱かせる。


 エリザベスは似たような存在を知っていた。

 そう、歌劇の主役、それも一流のもの。

 アーリーアクセス男爵にはその素養を感じ取ったのだ。

 ちょっと歌劇の演者に興味はない、と話しかけそうになるが、我慢する。


 気づくとアルフレッド王子もまた、アーリーアクセス男爵に見惚れていた。

 無理もない。

 エリザベスですら目を惹かれるくらいなのだ。


 見方によってはこの時が、始まりだったのかもしれない。


「先代アーリーアクセス男爵は残念だった。先にも伝えてあるように成人までは王家が支援するので、在学中に身の振り方を決めるように」

「はい、陛下。お慈悲の心、しかと受け取りました」


 国王が間接的にエリザベスに説明してくれた。

 なるほど、即座の取りつぶしではなく猶予を与えたのだ。

 先代アーリーアクセス男爵は事故死と言われている。

 娘一人しかいなかったのは失点と言えるが子は授かりものだ。

 簡単に爵位を取り上げることはしないと貴族たちに示すための措置なのだろう。


「王家から支援するのですね、父上。ならば私も力を貸さねばな。アーリーアクセス男爵、気軽に、とはいかないかもしれないが困ったら相談するように。住まいはどうするのかな? 寮に入るのか?」

「ああ、ありがとうございます、殿下。寮のお世話になっておりますわ」


 なぜか若干早口のアルフレッド王子。アーリーアクセス男爵はやさしい言葉に感激した様子を見せる。

 さておき。


「わたくしも、何かありましたらどうぞお頼りになって。同性の方が都合のいいこともありましょう」


 そういうことならエリザベスも、と思い手を上げる。

 それにアルフレッド王子は婚約者持ちである。エリザベスのことだが。

 あまり別の女性を近づけるのは王子の品位を下げる噂が立つかもしれない。それは誰のためにもよくないはずだ。

 しかし。


「お気持ち嬉しいですわ、エードッコ様。できるだけお手を煩わせることのないよう頑張りますわ」


 んん?


 アーリーアクセス男爵、なんだか態度が違わないか。


 みんなの憧れの王子様とその他で変わるのはまあ理屈ではわかるのだが。

 エリザベスはこの時感じた引っ掛かりを追求することを我慢したのだが、後々を考えれば我慢すべきではなかったのだろう。

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