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2.エリザベスとアリアと

 エードッコ侯爵家はミャーコ王国の東部を抑える大貴族である。

 そのルーツは同じ場所にあった別の国の王家にさかのぼることができる。

 その国は東からやってきた遊牧帝国に滅ぼされ、王族はミャーコ王国に亡命した。

 その後、ミャーコ王国の兵を借りて元の版図を取り戻し、ミャーコ王家に侯爵として仕えるようになったのだ。

 元は対等の国だったこともあり、微妙な関係になりかけたこともあったが、恩義と再び東からの脅威が現れるかもしれないという恐れから、互いに血の交流を行うという条件で従属関係に落ち着いた。

 今でも、エードッコ侯爵家は東の脅威から王国を守り、また血気盛んな東部諸侯の抑えとしてミャーコ王国の中でも重要な立ち位置を占めてきた。



 そんなエードッコ侯爵家にあるとき、妙な娘が生まれた。

 何が妙かというと、初めて喋った言葉が「てやんでぇ」だったのである。

 まーまでもまんまでもなく、てやんでぇ。

 その娘、エリザベスはちょっとこいつおかしいぞと周りに思われながらも、すくすくと成長し、五つの誕生日に身内が集まってのお披露目とあいなった。



「てやんでぇべらぼーめ! おとといきやがれ!!」



 エードッコ侯爵領にある侯爵邸の裏庭で、綺麗だった(・・・)ドレスをボロボロにしたエリザベスはぴょんぴょんとはねながら、逃げていく年上の男の子たちの後ろ姿に言い捨て、ふんすと鼻息を吐いた。

 そして鞘に入れられたままの剣を抱えたドレス姿の女の子に声をかける。


「アリアちゃんすげぇな! 剣も抜かずに年上の男子をとっちめちまいやがった! あたいは手も足も出なかったのに!」

「あの、さっきからエリザベス様が何を言っているのかわからない、です」


 へんにゃりと笑いつつ変わった喋り方をするエリザベスに困惑する“アリアちゃん”。

 彼女はアリア・ハーン。本日エリザベスに引き合わされた伯爵令嬢で、同い年である。


 お披露目のパーティに剣を抱えて登場したことで悪目立ちをし、女のくせに剣なんて抱えて、と男子に絡まれ庭に連れ出されたところにエリザベスが乱入。なお、エリザベスはこの時点でボロボロだった。

 そしてアリアを囲んでいた男子たちにエリザベスが絡み、あれよあれよといううちに取っ組み合いになったのでヤバいと思ったアリアが実力行使で男子たちを撃退し、エリザベスが言葉でおいうちをかけた。

 というのがここまでのあらましである。


「あ、エリザベス様、衣装が」

「これ? いいのいいの、おんなじのがまだあるから!」

「どうしてそんなことに」

「アリアちゃんを追いかけてたらはぐれて迷っちまってね! 茂みを抜けたらこれこの通り!」

「自宅の庭なのに……」


 アリアはエリザベスはもしかしてばかなんじゃないかと思った。

 訂正、少しばかり特別なのではないかと思った。


「じゃあ今度はこっちの番だね」

「なにが、ですか?」

「質問だよ! アリアちゃんは何でその剣を持ってんだい?」


 先にアリアが質問をしたので、今度はエリザベスが質問をする番だ、ということらしい。

 エリザベスはそういうものだと思っていたし、アリアも状況を理解した。

 アリアはエリザベスは侯爵家の令嬢でつまり伯爵家であるハーンの上司である。そしておそらくは将来アリアはエリザベスの護衛につくことになるだろう、と教えられていたので、この一風変わった喋り方の元気な女の子に従わなければと考え、実行に移すことにした。


「これはハーン家の守剣です。ハーン家の者は、いかなる時も剣を手放さない、です」

「そういえばハーン伯爵も同じ剣を下げてたねえ」

「自分はまだ身体か小さいので、こうして抱えなければ持てない、です。あ」


 なるほどうんうんと満足そうに頷くエリザベス。

 一方アリアは答えている最中にこの状態を他の人、大人たちに見つかったらまずいのではと言うことに思い至った。


「どうしたんだい? 次はアリアちゃんの番だから何でも聞きなよ」

「えと、早く戻って事情を説明しないと彼らがすごく怒られるのでは」


 あと自分も、というところまでは口に出さないちょっとズルいアリア。

 だがエリザベスはアリアの言葉を聞いて大いに感嘆し、へんにゃりと(本人的にはニヤリと)笑った。


「アリアちゃんはやさしいんだねえ」

「え、そんなことは……」


 ちょっと誤魔化したのできまりが悪いアリアが言葉を濁して目をそらす。

 エリザベスはそれを謙遜と受け取ったらしく、目をきらめかせてよろこんだ。


「いいねえ、粋だねえ。それじゃあその心配りを無駄にしないようにしないと!」


 エリザベスはそう宣言すると、ボロボロドレスを翻らせて屋敷に向けて駆け出した。


「あ」


 待って、と続けそうになったのをやめて後を追うアリア。止めるよりついていく方が早いと判断した。エリザベスは足もそんなに早くないし。


「そうだ、アリアちゃん、エリーでいいよ!」

「え、エリザベス様?」

「エリー!」

「エリー、様?」

「ん、まあひとまずそれでいいかね」


 そんなことを言い合いながら。




 屋敷に戻るとものすごく怒られた。エリザベスが。

 侯爵が他の子どもたちを叱るのを止めたのでアリアや男子たちはおおむねおとがめなしということになった。

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