19.忙しいショーン
忙しい忙しい。忙しすぎて、商談してる暇がない。するけれど。
エリー商会の売り上げは増え続けている。
支出も増え続けている。
エリー商会代表ショーンは忙しい。
扱う仕事が多岐にわたるためだ。
エードッコの街の汚物処理。公衆浴場と公衆便所の設置運営。
屋台コンテストの運営。
砂糖の生産・流通管理。美味しいものとか研究所の支援。
食料の輸入。その他原料の輸入。
演者育成の管理。低層向けに酒場や公園に舞台を設置、中層向けに演芸ホールを設置。教員の誘致、演者見習いの募集、移住。
王都の汚物処理。公衆浴場と公衆便所の設置運営。
浴場と便所に掲示板を設置、管理。
ショーンがすべて監督し続けることはできないので権限を分けて組織化し運営を任せている事業も多いが、収支がマイナスのものが多いのであくまで傘下組織であり、完全に手放しというわけにはいかない。
予算の面倒を見たり条件をつけたり、仕事の内容についても助言したり、外部との調整に出張ったりと直接、間接に手を出す必要がある。
他に、既存の組織に委託している業務もある。例えば各貴族家への砂糖の納入は各々の御用商会を通じて行っている。これら立場上対等な組織に対する対応でトップであるショーンが出る必要がある場合もままある。
そしてエリザベスがエードッコ侯爵領に戻ってから、さらに仕事が増えた。
まず、演者育成のコストを下げるため、不動産、服飾業、さらにその前段階の繊維原料から繊維加工・織布業まで手を出した。
集合住宅をつくり共同生活をさせる。競争相手なので仲良くなれとは言わないが、演目の多くは共同であたるものも多い。
管理もしやすいのでまとまってもらうことにした。
服飾関係は演者にとって見た目は特に重要だと招いた教官が強く主張したからだ。
もちろん服装だけでなく本人の所作も含むのだが、やはり服装も大事である。
なので演者見習いや教官と相談して服を作るデザイナーも招いた。
当然これらは高コストだ。見習いようなのでできるだけ安く済ませたいところだが、手を抜いていい部分ではない、と教官と、そしてエリザベスもが主張したのだ。
確かに安っぽい格好とそれなりの格好だと印象が違う。
そして特徴的な服や装飾品を身に着けた演者見習いが酒場や公園、演芸ホールで活動を始めると人気を得る者もあらわれる。
そういった者たちのファングッズとしてグレードを下げた量産品を公式に販売するようになった。
王都の劇場でも似たようなことをやっているが、品質が違う。
明確に低い。だがそれらも意図的なものだ。
例えば低級、中級、高級、レプリカ、使用済みなどと分類し、価格に差をつける。
これにより、高くてファングッズに手が出なかった者たちへも低品質のものであれば手が届くようになる。推しの演者とお揃いになれるのだ。これも住み分けの一種と言えよう。
これらのグッズは小物やマフラーなどが多い。数を用意しやすいからだ。ファングッズの価値はその品そのものよりもファングッズであること自体に重きがある。全身揃えればもちろん価値は高まるだろうが、一部であってもファンには十分な価値があるらしい。
こうして、演者育成部門はいまだ採算は取れていないが、いくらか補填できる程度の収入は得られるようになった。
演者の質が上がってくれば、またエードッコの街が演者を目指す者が集う街という認識が浸透して来れば、実績として王都へ進出する演者が出るころには黒字化を見込めるだろうとショーンは計算している。そして王都清浄化には沙穂乃の影響はないかプラスに働くだろうと。
なんにせよ演者の人気にかかっているのでしっかり頑張ってもらいたい。
続いて、関係する事柄だが情報発信を始めた。
これはエリザベスが自分で娯楽物語を書くなどと言い出したことで思いついたものである。
先ほどさらっと加えていたが、エリー商会で管理する公衆浴場や便所、ほか関係する酒場、演芸ホールなどに掲示板を設置した。ここには演者の宣伝をおこなう。活動スケジュール、新しいファングッズ発売の告知などを張り出しているのだ。
また、料金を取って他の組織の情報発信に場所を貸すこともしている。
例えば犯罪者の似顔絵を張り出して注意喚起したり、侯爵家主催のイベントの告知、他募集事項など。
字が読めない者も結構いるので今までの立札を立てて横で騎士が内容を叫ぶという方法が要らなくなるわけではないが、多少なりとも効率が上がるだろう。
内容によっては演者に告知させることもしている。
注目を集める者に情報を発信させるというのは理にかなっているだろう。
こういった情報発信は反体制の宣伝に使われると危険であると想像できるが、エードッコ侯爵領においてエリー商会が主導する分には問題ない。危険が予想される依頼は弾いているからだ。
侯爵家のシンパであるからできることである。
下手を打つと危険視される可能性もあるため気を遣いはするが、事実上侯爵家の出先機関であるので利用はされど排除される心配はさほどないのだ。
更に、植物紙、その中でも木を使った紙の生産だ。
現在一般的なのは亜麻の繊維を使った紙である。これも植物紙ではあるが、亜麻は布の原料でもある。
布の原料の需要は今後増えていく予定で、羊毛や皮革の増産もハーン伯爵家等各所にて進めているところだが、亜麻を布に回せるのであれば都合がよい。
問題は木で、こちらも燃料や建材などとして使われる需要が尽きない資源である。
しかし、紙の原料には形状が木材に使えないような木を使えるため、これも住み分け可能である。まっすぐで太い木は木材として、そうでなければ紙の原料に使える。
もっとも、紙の原料に適する樹木についてはまだ研究の余地があるため
燃料としての用途は形状はあまり関係がないが、これは泥炭、石炭などの採掘に投資することで解決した。お金の力は偉大である。ただ、新しい仕事が増えた。
とはいえ、もともと砂糖工場で燃料は大量に消費する。公衆浴場もだ。
薪や木炭の代替を求めていたのは前からだった。
今後は泥炭、石炭のさらなる効率的な使い方の研究も進めることになるだろう。
薪や木炭とはちがう利点、欠点がある。何となく使うよりも効率よく使えるようにしたい。
美味しいものとか研究所に任せられないかと尋ねてみたら、所長のワンは両手で口を抑え、涙目で首を横に振っていた。何か失言でやらかしたらしい。
別途研究者を探すか。
すでに運用している領地や国があればそこから引っ張ってくるのが早いのだが、まず調べるところからになる。
砂糖の取引や東方交易の商人とのつながりで調べてみつつ、独自で研究も進めておこう。美味しいものとか研究所の皆さんがんばってください。
加えて、書物の買い集め、娯楽物語の収集、執筆者の養成なども行っている。
エリザベスが王子と婚約したことで忙しくなり、息抜きのために趣味の劇場通いをしたい、しかし王都は遠いしエードッコは育成中、なので書物の物語りを読むことで気を紛らわせるようになった。
書物なら短い時間でも他者の都合関係なく楽しめることがよかったようだ。
最終的に自分でも執筆しようというところまでたどり着いたが、それまでの過程で収集をおこない、意外と娯楽性の強い物語の書物が少ないことに気づき、執筆させよと指示を出され、それでも我慢できないので自分で書くと、そのように状況が動いた。だが収集については取り下げられていない。それはそれ、これはこれ、らしい。
さて、物語収集のためにショーンは既存の成功例を参考にした。
屋台の件で使ったシステムである。
コンテストだ。
募集して、評価し、表彰する。
ご褒美があれば応募してみようというものが出てくる。
そこからある程度ふるいにかけ、質が良いと思われるものを選び出し、エリザベスをはじめとする評価員によって賞を与えるのだ。
副賞として金一封とエリー商会によって書物として売り出される権利、売り上げの一部を受け取る権利を与えられる。
最近話題のエードッコの姫がお気に入りの物語である。
これは売れるのではないか。
この商法に気づいたショーンは、様々なコンテストを提案した。仕事が増えた。
気分転換のネタに飢えていたエリザベスをはじめ、エードッコ侯爵家はなかなか乗り気で、砂糖を使った料理のレシピコンテスト、素敵な衣装コンテスト、美人コンテストに足の速さコンテストなどなど、エードッコ侯爵領では頻繁月一~三ペースで開かれるようになる。月に一度だが一日に三つ開催することもあった。
さらに、ほかの商品も品質で選別し、売値を分けてみた。
高い商品は同じ種類でも高品質のものとして、安い商品はその逆で、間にもいくつか質で段階をつけて区別し、扱いを変えてみたのだ。
高い品質のものには安心感と特別感を。安い品質のものはお得感を。手間は増えるが価格によって購買層を変えることで全体としての売り上げが増える、といいなと半ば試しでもある。住み分け理論がどこまで通用するか試してみる余裕があった。その分忙しくなるが。
このような忙しい生活を送るショーンは、大金を稼ぎ、大金を使える。これは商人冥利に尽きると満足していた。
いつのまにかエリー商会の規模はもととなった侯爵家の御用商会を超えていた。
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