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てやんでぇ婚約破棄(連載版)  作者: ほすてふ


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15/31

15.アルフレッド王子

 婚約の儀式はバタバタとしている間に終わってしまった。

 国内全土に告知され、国中から祝辞や贈り物が届く。

 が、それらへの対応はひとまず父侯爵たちに任せ、エリザベスはアルフレッド王子と仲良くなるために王城へ足を運んでいた。


 本当ならエードッコ領に帰るまで劇場巡りをしたかったのに。いや、お小遣いが無くなったから無理だったか。


 王子とはまだほとんど話もしていない。

 婚約者となった以上は仲良くなる努力をしようと王城へ働き掛けたところ、お茶会をセッティングしてもらえたのでアリアを侍女として連れてやってきたのだ。

 外付け暴発抑止侍女アリアがいれば大抵のことは乗り切れる。かもしれない。


 一人でやってきた――とはいっても馬車も護衛も侍女アリアもいるが――王城で、ドキドキしながら控室に通され、すました顔でちょお~~~~っと待たされた。

 イライラポイントがたまったが、まっている間も見られているのよ、と母に教えられている。エリザベスは我慢の子、とがんっばって耐えた。


 そしてようやくお茶会の場に通された。

 そこには一人の女性が待っていた。


「ようこそ、レディエリザベス。待っていたわ。座って座って。エリザベスちゃんと呼ばせてもらってもいいかしら?」

「はい、もちろんです王妃殿下。この度はお招きいただき光栄です」

「うふふ。お義母さまと呼んでくれてもよくってよ?」

「結婚したらそう呼ばせていただきますわ。それまではこっそりでお願いいたします、お義母さま」

「あらやだかわいい。すぐにも娘になって欲しいわ。うふふ」

「うふふ」


 待っていたのはアルフレッド王子ではなく、その母、王妃殿下だったのだ。

 イライラポイントがたまった。


 王妃殿下はかわいらしい方で、エリザベスと仲よくしようという意志を強く感じられた。

 王家に嫁いだ先輩としていつでも相談するようにと言ってくれた。

 厳しい王妃教育もあるけれど自分もやりぬいたからきっと大丈夫だとも。

 それから、王都の感想を聞かれ、くさいとは答えにくいので初めての劇場で衝撃を受けた話をした。


 王妃殿下との語らいは楽しく、また心強いものだったが、気になるのは王子である。

 本来ここにいるべき王子がいない。

 時間を間違えたわけではない。指定された時間に来たのだ、

 控室でもそれなりに待たされ、王妃殿下とのおしゃべりでも時間が経っている。

 だが王子はやってこない。


 これはどういうことだろう。

 考えられる一つは、王妃殿下が時間をずらして伝え、エリザベスと話す時間を確保したという可能性。

 もう一つは、王子がこないので代打で王妃殿下が場を繋いでいる可能性。


 うん、お茶が一杯からになったし、そろそろ尋ねてもいいと思う。

 エリザベスは王妃殿下に尋ねてみた。


「あの、ところでアルフレッド殿下は……?」

「ええ、そうね、そうなのよ。アルフレッド。実はちょっと――」

「失礼いたします」


 そこで一人の侍女が現れた。王子ではなく侍女だ。

 侍女はすっと王妃殿下に近づくと、何事か耳打ちした。

 すると王妃殿下は眉間を揉んだ。


「エリザベスちゃん、ごめんなさい」

「はい?」

「ちょっと一緒に、うちの息子を叱りに行きましょう」

「えぇっ!?」


 イライラポイントがたまった。






 アルフレッド王子はお茶会をすっぽかして練兵場で剣を振っていた。


「殿下。本日はお招きいただきましてありがとうございます」

「ん? 誰だ……あっ」


 イライラポイント。

 王妃殿下と並んで木剣を手に汗を散らしていた王子に近づき、淑女の礼をとるエリザベス。

 セリフは王妃殿下の仕込みである。

 こちらを振り向いたアルフレッド王子は王妃殿下を見て顔を青くした。

 諸々無視してそれまでの所作だけは格好いいと言ってもよかったのだが、台無しだ。


 しかし誰だとは。

 婚約者だぞ。会うのは三度目だけれど。毎回違うドレスだけれど。

 イライラポイントがたまった。


「す、すみません母上、もうそんな時間でしたか」

「謝る相手が違います」

「あ、すまない、レディエリザベス。我が婚約者。つい、鍛錬に夢中になってしまってな」


 イライラポイントがたまった。


「いいえ、いいえ。王妃殿下がお相手してくださったので」


 エリザベスは婚約者だと覚えていたんだなと言いそうになったがアリアが腕を引いて止めてくれた。


「そうか、それはよかった」

「アールフレーッド?」

「な、なんでしょう」


 イライラポイントがたまった。

 それはよかった? いいわけないだろうこのすっとこどっこいと言いそうになったがアリアが腕を引いて止めてくれた。


「少しごめんなさいね」


 アルフレッド王子は王妃殿下に連れられ練兵場の隅で叱られている。

 エリザベスは扇子を取り出し口元を隠すとため息をついた。

 練兵場を見回す。

 王城の練兵場にはガタイのいいおじさんお兄さんたちがおり、そのうち結構な数がエリザベスの方を見ていた。

 エリザベスが微笑み返すと幾人かは礼をとり、幾人かは目をそらして鍛錬に戻る。


「アリア、あの方たちは強いのよね?」

「そうですね、今見える範囲にいる騎士の方はわたくしでは相手にならないでしょう」


 やはり王城の騎士は強いのだ。足腰がしっかりしているのが動きから見て取れる。アリアの先生とどちらが上だろう。

 そんなことを考えつつ待っていると、アルフレッド王子と王妃殿下が戻ってくる。


「エリザベスちゃん、今日はありがとうね。わたくしはこれで失礼するわ。アルフレッド、しっかりエスコートするのよ」

「わかりました」

「はい、王妃殿下。失礼いたします」


 王妃殿下はアルフレッド王子に任せるつもりらしい。元はその予定だったのだから当然と言えば当然だ。

 ただ、王子は鍛錬をしていたところで着換えてもいないのだが。

 イライラポイントを通り越してあきれが入った。


「ふう。すまなかったな。鍛錬の調子が良かったのでついつい時間を忘れてしまった」

「そうですか。調子が良いのはよかったですわ」


 調子が良いのはおめーの頭だよと言いそうになったがアリアが止めてくれた。


「うん、そちらは……おお、ハーンか。聞いておるぞ、特別な家なのだと。なるほど確かに異国風の顔立ちだ」


 さて何と言ってやろうかと考えていると、王子がアリアに目をやった。腰の剣西線は向いている。


「殿下。わたくしの侍女に何か」


 侍女をはじめ、召使、使用人などと呼ばれる者たちは、誤解を恐れずに言うならば家具のようなものである。

 特別必要がなければ他者のそれに声をかけることも意識することもマナー違反だ。婚約者とともにいる時に他の女性に目をやるという意味でも。

 アリアは伯爵令嬢だが、この場にいるのはエリザベスの侍女としてだ。衣装もそのための者を見に着けている。

 つまり王子はマナー違反を犯した。

 イライラポイントがたまった。


「ああすまぬ。すまぬついでにハーンの、一つ手合わせを願いたいのだが」


 何を言ってるんだこのトウヘンボク。と言いそうになったが以下略。


「殿下。ご冗談を」

「俺は本気だぞ?」


 なお悪い。冗談ということにしておけという意味で言ったのだ。

 イライラポイントがたまった。


「ハーンの、聞こえているか? 確かアリアとか言ったか」


 イライラポイントがたまった。


「エリザベス様、発言をお許しいただけますか」

「っ、よくってよ」


 エリザベスの背筋に悪寒が走る。

 アリアが怒っている。


 怒っているアリアはエリザベスの横に並び、召使の礼をしてから王子に向けて口を開いた。


「申し訳ございません、殿下。わたくしの剣は、守るべき相手に向けるためのものではありませんのでお相手はしかねます」


 丁寧に断りを入れるアリア。

 イライラポイントがいっぱいたまった。


 それを見たアルフレッド王子は大げさに肩をすくめた。


「ふん、つまらんな。女だてらに剣を持っているから使えるのかと思ったが。言い訳をして勝負を避けるか程度のものか」


 かちんを通り越してガツンと来た。

 が、アリアがエリザベスの腕を引いた。


「ならばわたくしがお相手いたしましょう」


 そう言ってエリザベスは前に出た。


「エリザベス様!?」

「エリザベス、お前がか? その細腕では剣など持てまい?」


 いつの間にか呼び捨てられている。イライラポイントがたまった。


「この子、アリア・ハーンの役割はわたくしを守ることですが。わたくしもまたわたくしの侍女をを守る義務があるのです」


 そう言ってアルフレッド王子をじっと見つめるエリザベス。

 しかし、王子は何を言ってるんだこいつと言わんばかりの表情をしていたが、エリザベスの視線を受け続け、そして目をそらした。


「婚約者に手を上げるわけにはいかんか。助かったなハーン?」


 王子が引いた。

 気が付くと、何人かの騎士が集まりつつあった。


「すまないが、今日は解散としよう。もうお茶会という感じでもないだろう」

「わかりました。またお会いしましょう。失礼いたします」



 こうして、エリザベスとアルフレッド王子の仲良くなろう大作戦は終了した。

 エードッコ侯爵邸に戻ったエリザベスはもーもーと牛のように怒りを発散した。

 翌日王子、王妃、王の連名での贈り物と、王子からの謝罪の手紙、王妃からの謝罪と親愛の手紙が届いた。

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どうぞよろしくお願いいたします。

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