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てやんでぇ婚約破棄(連載版)  作者: ほすてふ


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14.婚約

 エリザベスが混乱している間に挨拶は終わってしまった。


「あくまで候補なんだよ。まだ本決まりではないからね」


 エードッコ一同、つまりエードッコ侯爵家とハーン伯爵家は一旦に別室へさがり、エリザベスと話をしていた。


「我がエードッコ家には王家と相互に婚姻を結ぶという盟約がある。が、常にというわけではないんだ。ぼくもおじいちゃんも王家から嫁を取っていない。ひいおばあちゃんが王族だったんだ。逆に王家に入ったのはおじいちゃんの妹に当たる方で、当時は正室を外国から取ったので側室だったんだけどね」


 実のところ現王家には最初の一度しかエードッコの血が入っていない。エードッコ侯爵が挙げた直近の例で言えば、正室の子が王位を継いだので大叔母の血は現王及び王子にはつながっていないのだ。

 逆にエードッコには三度、王家の血が入っている。


 余談はさておき。

 絶対に婚約、ひいては結婚しなければならないわけではないようだ。

 では王子がああも断定的だったのはなぜか。

 父侯爵の代に婚姻が結ばれなかったことを王家が気にしているからではないか、と父侯爵は考えているようだった。

 盟約が果たされていない状態が続くことを望ましくないと感じているのだと。

 そして王子は現王夫妻の初子であり、最年長。

 一方エリザベスはエードッコ侯爵家の末っ子だ。

 両家の婚姻を結ぶ前提で考えればアルフレッド王子とエリザベスの組み合わせは妥当と言える。

 とはいえエードッコ侯爵家にはエリザベスのほかに女子がいる。エリザベスの三つ上と五つ上で、いまだ結婚相手は決まっていない。出戻りの次姉もいるがこちらは少し離れ過ぎだろうか。

 逆に王家からエードッコ侯爵家へ降嫁を考えた場合、候補に挙がるのは五歳と三歳の王女である。先に有力な候補がある状況で考慮するのは気が早いだろうし、そもそも相手候補のエードッコの長兄は十八歳ですでに結婚している。王族を迎え入れるのに後継者ではない者にあてがうのは選択としてなしであるし円満な家庭に水と油を注いで火をつけるような真似は両者ともに避けたいところだ。


 また、学園が生まれてからできた新しい流れではあるが、同時期に在学した者同士の婚姻を結ぶことが望ましいという考えかたがでてきた。

 これを合わせると、選択肢に残るのはエリザベスのみとなる。


「といっても、二人が合わないようなら無理に結婚する必要はないよ。陛下ともそう話していたのだけれどね」

「つまり、殿下の早とちり?」

「そうなるね。でも、エリザベスが嫌じゃないなら話を進めてもいい。皇子の方は感触は悪くなかったからね」


 エリザベスは、混乱したまま最低限の挨拶はできていたらしい。練習の成果である。

 アルフレッド王子はエリザベスのことを内気でおとなしい娘と受け取ったようだったという。


「内気……ふっ」

「アリア?」

「エリーが内気って……ふふっ。も、申し訳ありません、閣下」

「もう!」


 話している途中でアリアが思わず噴き出したが、特に誰も窘めなかった。

 若干の同意の心があったからだ。

 ぷんすかと怒るエリザベス。いつもの暴発とは違う穏やかな怒り方で、年相応に愛らしかったため、場が和ませる結果になった。



 それにしても。と、エリザベスは考える。

 王子はドジっ子らしい。

 エリザベスはまだ自分より上位者がいるという認識を実感できていなかった。

 なので、お前などと突然呼ばれたことにカチンと来たし、偉そうな態度にもイラっと来た。

 それもドジっ子ゆえだとすればまあ仕方ないかなと思った。


「見た目は素晴らしいと思いましたわ。中身は、これから成長するのだと思います」

「エリザベスはあとでゆっくり話そうか」


 娘があまりにも上から目線だったのでちょっとお話が必要かなと父侯爵は考えた。

 だが、次にエリザベスの口から出た言葉は、エードッコ侯爵を驚かせるものだった。

「ですが、婚姻を結ぶのは青き血の務め。愛情はともにあることで育むものだと思いますわ。家と家の約束のためならばわたくしは嫁ぐことも覚悟しております」


「エリザベス……立派なことを言うようになって……!」


 涙ぐむエードッコ侯爵。ハーン伯爵も感心している。

 妻たちはん?と何かが引っ掛かっている様子。


 アリアは気づいていた。エリザベスの満足そうな顔に。

 先日聞いたセリフであった。劇場で観劇中にだ。


「まあ今すぐ決めなければいけないわけではないからね。尋ねられたら候補として挙がっているがまだ未定であると答えるように」

「わかりました」


 というエードッコ侯爵の言葉でいったん話は棚上げとなった。

 お披露目パーティーの最中なのだ。

 挨拶するべき相手は多い。

 こうしてエリザベスたちはパーティ会場へ戻った。


 しかし予定外の事態となった。

 実はエリザベスはこのパーティで劇場の話ができる友人を見つけようと考えていたのだが、話題が王子との婚約の話に染められてしまったのだ。九割以上が婚約についての話題で、七割程度が砂糖の話題だった。婚約の話の後に砂糖の話になるパターンが一番多かった。

 そして次から次に挨拶にやってくる。

 一時中座していたのも悪かったのだろう。

 一家あたりに割ける時間が長くなかった。


 ここで劇場趣味の宮廷貴族の娘あたりと仲良くなっておけば情報も入るし学園に入って共通の話題で盛り上がれるだろう、とか。

 劇場のパトロンの貴族と仲良くなって詳しい話を聞かせてもらえたらなとか。

 そんなことを考えていたのに完全に予定が狂ってしまった。


 もっとも、砂糖にも原因があるのでこちらは自業自得であるのだが。


 結局お披露目パーティでは顔と名前を覚えた程度で踏み込んだ話ができる相手は見つけられなかったのだった。

 あとはせいぜい帯剣しているアリアに絡んできた身の程知らずの若造(同い年)をにらみつけて追い払ったくらいだろうか。帯剣しているとはいえパーティ会場で徒手の相手に抜くわけにもいかないので判断力が足りない類の輩相手は厄介なのだ。

 エリザベスは自分が守ってあげなければならないと考えていた。立場が逆である。



 さて、お披露目パーティ翌日。

 王家からの使いがエードッコ侯爵邸に現れた。

 用件は婚約の件について話し合いたいというもの。

 今から行きますというわけにはいかないが、早急にということなのでエードッコ侯爵は明日伺いますと返事を返した。


 いったん棚上げした問題がすぐに振ってきたことで家族会議である。


「どうも、殿下をはじめ、陛下と妃殿下もエリザベスを気に入ったらしい。確かに昨日のエリザベスはいつも以上に可愛らしかったから無理もないが、それだけだろうか」


 首をかしげる父侯爵。

 パーティでのあいさつはどちらかというと失敗に類するものだった。原因が王子だったため咎められることはなかったが、あれだけで気にいられたというのも、おかしな話に思われる。

 エリザベスは確かに可愛らしいし目一杯おめかしした昨日の姿は美しいと言ってもよかった。しかし傾国の美女のように見た目だけで嫁入りを請われるほどかというと、そこまで図抜けているわけではない。常識的な美しさの上澄みといったところだ。王子一人が一目惚れならばあり得るが、王と王妃までここまで前向きになるほどかというと疑問だ。


「あなたが陛下と仲がいいからひいき目に見てくださっているのでは?」


 と母。

 それはあってもおかしくない。

 王とエードッコ侯爵は我が友よ、我が王よと呼び合う仲である。

 王と貴族であると同時に学園生時代からの友でもあるのだ。


「自分の息子に友達の娘を娶らせたいって重くない?」

「そうねぇ、ってなんてこというの」


 学園に通っているため王都にいた姉がからかっているとわかる口調で口をはさむ。たしなめる母。

 エリザベスは重いって何だろうと首をかしげていた。



 結果から言えば、エリザベスとアルフレッド王子は婚約した。

 王が非常に前向きで王子本人が受け入れていて王妃も後押ししている状況では断ることも難しく、またエードッコ側も首を傾げてはいても明確に断る理由がなかったし、エリザベスも嫌がっているわけではなかったためだ。

 それに常識的に考えれば王子様と結婚というのは喜ばしいことである。

 のちに婚約破棄されると分かっていたなら別だろうが、この時点では、関係者は皆婚約を歓迎する立場を取っていたのであった。

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