02.おつまみはチー鱈か枝豆が最強だと思う
なお、おつまみに出ない。
彼、コルジュオ・フェティシと初めて会ったのは、確か俺こと舛田 槙弥が4歳の頃だ。
比較的大人しい部類の子どもだった俺は、その日一人留守番をしていた。親は買い物に出かけていた。大人しくリビングでガラガラドンを読んでいると、突然リビングと廊下を繋ぐ扉がガチャリと開いた。
そこには、真っ黒なストレートの髪を後ろで一つ縛りにしていて、赤い眼のやたら見た目が美しい、まさにお人形の様な子どもが一人立っていた。ただ、その頭にはヤギの様な角が生えていたので、人ではないと分かる様な姿だった。
「……?……お前は、誰だ?」
「それはぼくのせりふ。」
しかし、初邂逅&初会話はこんな気の抜ける様なものだった。
彼が言うには、自分の部屋に戻ろうと部屋の扉を開けたらなぜかここに居たとい事だった。後に知るが、俺と彼の波長と言うかチャンネルというか、そういうのが繋がり易いんだとか。それに加え、コルジュオの内包魔力量が多い事もあり、異世界だが繋がり、通れるとかなんとか。偶然居合わせた、あっちのお偉いさんが考察を話してくれたが、小難しい事は分からん。というか、その時は風呂場だったからのぼせて覚えていないというのもある。場所選ばないのは困る。仕方ないけど。
まあ、今はそれは横に置いておいて。
初めはそりゃ、お互いぎこちなかったし、コルジュオが無事に帰れるかも分からなかったので不安になった。でも、入って来た時の扉を開けたらあっさり帰れたし、お互い知らなことや不思議な事ばかりで、気付いたら何年も一緒にいたくらいの友人になっていた。幼さからか、それとも俺が能天気だったからか……コルジュオが異形でもきにしなったのも大きかったんだと思う。
交流を、まあ、向こうが来るのを待つしかないが、それでも何年もしてきた。
「俺としては3か月ぶりだけど、そっち今どんくらい経った?」
「今回は同じだな。こっちも3か月ぶりだ。」
話から分かる様に、向こうとは時の流れが結構違う。こっちでは2日が向こうでは20日経っているのはまだ良いが、こっちが1年だったのに向こうは10年経っていたとかある。まあ、コルジュオが魔人種の魔角族という成長がゆっくりな種族だから問題は余り無かったけれど。なぜか、見た目年齢は俺と同じだったんだよな。今もだが。
「んで?どうしたよ。まだ勇者様がみっかんねーの?」
「……みつかんないんだよぉ。」
別に酒に弱いわけでは無いのに、アルコール度数低いのでここまで酔えるのはだいぶきてたんだなぁ。梅酒をチビリチビリ飲みながら思う。スルメうめぇ。
さて、こいつの世界では「魔王」と「勇者」という役割を与えられた存在が居る。
「魔王」は魔人種の中で一番魔力が強い者がなる。今代だと、目の前で泣き酒入りかけてるコルジュオがそうだ。
「勇者」は人族の中から神託と神器によって決まるそうだ。
ゲームとかファンタジーものなら「勇者は魔王を撃ち滅ぼし世界は平和になりました」だが、コルジュオの世界では違う。
聞いたことある人はいるんじゃないだろうか?神輿や綱引きなどで勝負をする。そして勝った方によって豊作や天候に恵まれる、なんてお祭り。勇者と魔王の戦いはそれに該当するそうだ。
なんでも、神も魔人も魔力の無い人も一緒に暮らしていた時代、魔人に勝負を挑んだ人が居たそうだ。ただし、それは命を賭したものでは無く、力試し的な意味合いのモノだった。それに嬉々として介入してきたのが神々だったという。
神の祝福を勝った方にかけるという誓約をしたのだ。
魔人が勝てば魔人の住む土地の天候が穏やかになる。人が勝てば豊作になる。まあ、こっちと似た様なもんだな。そう誓約がされた。期間はだいたい50年ほどだそうで、その間は基本的に穏やかな天候になるんだとか。ただ、お互いの条件として、元が力試しだったから魔人はその代で力が強い者が、特殊な力を基本持たない人族は最初の人以降は神が選んだ者がやるというように決まったという。
ちなみに、魔族側が長寿+成長が遅いので1回限りだそうだが開催時期は不定期。神の気分次第だそうだ。
で、だ。
先代の魔王が勇者と戦い終え、代替わりしてコルジュオに決まり、魔王となった訳だが……どういう訳か、勇者が一向に現れないという問題が起きている。いや、正確に言えば勇者は決まり、魔王領へ向かっていたはずだった。なのに、かれこれ110年待っているというのだが、来ない。
魔王サイドには武器としてではなく、「勇者決めたよー」「神器も渡ったよー」という神からの一方的な連絡だけが来るアイテムがある。110年前にその連絡が来てから、コルジュオは待っていたのだが一向に勇者が来ない。魔人種と違い、人の寿命は俺の世界とそう変わらないし、勇者と決まった年齢がいつか分からないにしても……本物の勇者となった者は寿命が尽きているだろう。
……この「本物」と付くのは、「偽物」の勇者が送られてくるからだ。コルジュオの世界時間からみて、大体60年ほど前から現れ始めたそうだ。
「ほんと、なんで偽物の勇者が来るんだ……。しかも、だんだん聖騎士とかなんちゃらの魔導士とか、なんの力も無い見た目だけの聖女とか付いてくるようになるさぁ……!!」
「前も言ってたなぁ、それ。ほれ、スルメ食うか?」
「以前なら勇者1人、魔王1人での戦いだったのに!なんでだ!ついでにマヨくれ!」
スルメにマヨ着けて食う派だったな、お前。太らない体質ウラメシイ。
先述の通り、勇者と魔王の1対1のもののはずなのに、なぜか胡散臭い取り巻きと偽物勇者が来るようになっているのだ。しかも、話を聞く限り、「魔王を撃ち滅ぼし、世界に平和を!」「お前のせいで世界の均衡が崩れているのだ!」だのなんだの言ってやってくるそうだ。以前はそんな事無かったそうなのに、おかしな話である。
一応、やってきた偽物一行は殺さず、無力化の上で魔王領の片隅で暮らさせているらしい。奴隷化とか非人道的な事はしていないそうだから安心してほしい。その土地の領主さんが上手い事やっているらしい。四天王の有効活用……。
「しかし、本物の勇者はどうしたんだろうな?神様からの連絡も無いんだろ?」
「無い……。神は気紛れだし、寿命が無いから基本時間を気にしないしな。」
「んー……。お前役職魔王だけどさ、ちょっとくらい国離れても問題無いよな?もういっそのこと、お前が直接探しに行ったらいいんじゃね?」
言語も似ているが、ちょっと日本の皇室と政府が違う所と似てる。まあ、大事なのは大事だが、魔王がどこかに長期で1人で出歩いても問題が無いのはいつだか聞いたから、良い案だと思うのだ。待つのではなく、迎えに行けばいい。うん、我ながら良案。
「そうだ……そうだな、うん。すっかり抜けていたが、その案があった!戦う場所はこちらの領になるが、私が迎えに行けばいい!よし、帰ったら早速エルオスに言って、旅支度して、私がしなくちゃいけないものも片付けて……。」
エルオスと言うのは、先代魔王の頃からいる魔王の教育係兼サポートする人だ。扉越しだが、一応俺も面識がある。見た目ロマンスグレーの品の良い老紳士だが、中々の武闘派だ。
「あんまエルオスさんに迷惑かけんなよ。つか、チューハイ4本目……。」
「魔王領でも色々試しているんだが、ここのような美味い酒が出来なくてな。良いじゃないか、もう少し楽しんだって。」
「簡単に出来そうな気がしてたんだけどなぁ。まだか。」
「似た植物は見つかるんだがな。似ているだけで味が違うし、水に浸けただけで悪臭が漂う物もあるからなぁ……。ああ、でもベルの実で出来たビールもどきは出来たぞ。」
「なんとなく甘そうなふいんき。」
「ふんいき、だろ。まあ、確かに甘い。見た目ビールに近いのに甘いから脳が混乱する。」
「ネタだ。しかし、少し気になるなぁ。」
解決するかどうかは置いておいて、悩みが少し晴れたからか今度はケラケラ笑いながらくだらない話をする。
とりあえず。
「コルジュオ。」
「うん?」
「成功を願って、かんぱい。」
「ああ、かんぱい!」
本物の勇者が見つかりますように!
緑茶のお酒が気になる今日この頃。
(魔王側の)本格始動は次回から。